111 交換条件があるんだ
草の根街の、シンという少年に魔法の練習をしている事を教えた。
もちろん、「他のみんなには内緒だから」と念押しは忘れずに。
「クレハ、魔法、できる。すごい」
年下の、それも4・5歳の子供が魔法を使えるのだ。驚いて当然だろう。
この街も例外なく、ある年齢になる迄は危険だからと、魔法を教えない。
つまり、習わず使えるというのは、ある意味、天性と言っても過言ではないらしい。
まぁ、中身の年齢を考えたら遅い方だと思うんだけどな。
「えーと、シン、も、魔法を使いたい。と思ってる?」
「魔法、駄目。おにいちゃん、怒られる」
そういえば、魔法を使って見せたら、未だ早い! って怒られた事が有ったな。
刃物と同じく、油断すると大怪我してしまう技術は、それ相当の年齢に成るまで駄目だというルールは、この街でも蓋然だと理解した。
だけど、兄のジンは弟に過保護じゃないか? そんな気がして成らない。
「シン、居た。戻れ! 番!」
噂をすればなんとやら。ジンがやって来た。
「ああ? 誰だ、おめーら?!」
相変わらず口が悪い。喧嘩を売っている様に思えなくないが、以前にお礼として狩り肉の余りを食べさせてくれた事から、性格と言うより、この街の言葉遣いが乱暴なだけなのだろうと思う。
シンが改めて紹介してくれると
「ナガ、リト、クレか。何故、来た?」
う~ん、言葉使いでは邪魔者扱いされている気分になるが、口調は優しいんだよなぁ。
前の世界で、他人の気分を害さないようにと身についてしまった共感力というか読心力を久しぶりに使えば、「弟の友達」として受け入れている。のは分かるが、なにより口が悪いので自信が無い。
ナーガに翻訳を頼むも、聞こえたままなので、殆ど翻訳になっていない。
結局はジンとの会話は、弟のシンが気持ちも含めて解説する感じになってしまっていた。
「食え!」
黒茶色の『何か』を押しつけた。
臭い!!
なんだコレ? 干し肉か? 臭いけど腐ってないか? こんなの食べて大丈夫か?
遠慮しようにも、目前の兄弟は美味しそうに食べてるし、喜んでくれるのを期待している視線が、なにより断れない雰囲気を作っていた。
恐る恐る、甘噛み程度に口にすると、やっぱり臭い。それに固い。コレ、本当に食べ物なのか? と疑いたくなるが、兄弟にとっては普通に食べているのだ。やっぱり食べ物で良いんだよな。
甘噛みしながら、渡された肉らしきモノについて考えていると、
「あ。これ燻製だ」
「燻製? 干し肉と何が違うの?」
うっかり呟いた言葉にナーガが問い掛けた。
想像になるが、思いつくままに答えた。
「お肉を保存方法なんだよ。干し肉は塩を多く使って干すんだよ。塩の力で長く保存出来るようにするんだ。それで燻製は、木を燃やした煙で干して保存する方法だよ。たしか塩を使わなくても大丈夫だと思ったよ」
「煙で保存できるって不思議だね。リトは物知りだね。やっぱり親やみんなから教わったのかい?」
「親・・・、あ、うん、そうだよ。み、みんなから教わったんだよ」
「あ、ごめん。嫌な事思い出させて、ごめんなさい」
単にネットを検索して知った程度の知識だったので、物知りと言われて少々焦ったけど、そういえば『獣に襲われた商人の子供』というメフィスト設定をすっかり忘れていた。
当然、家族の安否が気になってどもった訳じゃ無く、自分の置かれた設定を思い出して戸惑っただけだったのだが、ナーガには悪い事を聞いてしまった。と思わせてしまったらしい。
「ううん。僕は大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
反対に慰める形になってしまった。
どうでも良い事だろうけど、たしか木を燃やすと『木クレオソート』っていう殺菌成分が出てきて、これが保存の役目になるんだと思った。
サクラの木の木片とか、香りの良い木々なら良いのだろうけど、炭焼きで出る煙を再利用しているのだろう。だから臭みを感じるのかも知れない。同じ燻製でも、煙の元の木によってこうも違うとは。
燻製の理由は、塩は貴重だから使えないからだろう。
あと香辛料。胡椒なんて無い代わりに紫蘇は豊富だ。紫蘇やその大葉は、抗菌・防腐効果があるから、お刺身で添えられているのをよく見かけたな。
ただ、ここでは、赤紫蘇の独特の臭みの影響も有るのかも知れないな。
「うまいか?」
「うん。おいしい・・・」
流石に「不味い」とは言えないけど、「美味しい」というには抵抗があった。
「よかた。代わり、よこせ」
なんだよ。この押し売りな物言いは。お試し詐欺を受けたのか? 私達は?
「か、代わりって、何だろう?」
「言葉、よこせ」
なんだ。お礼を言えって事だったのか。結構驚いたよ。
「ありがとう。ごちそうさま」
「違う。シンに、よこせ」
片言な言葉過ぎて、気持ちが全然分からない。いったい何をさせたいと考えているんだ? この人は。
困惑している所に、ジンが意訳をしてくれた。
「あの~。大事な食べ物、渡す、代わり、オレ、言葉、教えろ。言ってる」
片言過ぎて、全然、意図が理解できなかった。だけど、何だろう。凄く親近感があるなぁ。
たぶん、きっと、もしかして・・・
この国に着たばかりの私とクレハが、こんな感じに思われてたのかもしれな。
なんか、私達と被ってるから、頬っておけない気分になった。
「分かった。できる位で良ければ、いいよ」
「おう。頼む」
「お願い、する」
「でも、今まで礼拝堂で、教わってたよね。もう行かないの?」
ジンは弟の為に『国語』を習わせていたのだから、続けさせれば良かったのに。と疑問が浮かんだ。
「仕事、した。顔、覚える。困る。行けない」
仕事? ああそうか、気配を感じる力を鍛える為に、スラムな草の根街の子供に赦された犯罪、じゃなくってスリという仕事があったっけ。
年齢とか条件がそろえば赦される、この国の謎な規則。
確かに、礼拝堂へ通ってたら、顔を覚えられて仕事が出来なくなるか。
「でも、もう『その仕事』はしていないんだよね。大丈夫じゃないのかな」
「今は、恐い、だから、行けない」
深く詮索する気はないが、子供だからこその悩みがあるのだろう。
「分かったよ。それじゃ、これからよろしく」
帰る時間が遅くなってしまったので、何時もより急いで駆け走る。
「ナーガ。いつもありがとう」
幼いクレハは、ナーガにおんぶされている。
「クレハは軽いから全然大丈夫だって」
年の差半分程の小ささとは云え、それでも重いだろうに。良くもこれ程に速く走れるものだと驚いてしまう。
これはやっぱり『神様の加護』とかいう、基礎体力が向上されている恩恵だろう。何も与えられなかった私達とは大違いだ。
羨ましいけど、そういっても今更だよな。
「なぁリト。『国語』を教えるって約束したけど、弟のシンは必要ないと思うんだ。それよりも兄の方を何とかした方が良いんじゃないか」
「はぁはぁ。なんでそう思うの? 僕は必要だと思ったから、約束したんだよ」
「だって、普通に話しが出来たじゃないか。兄の方が問題ありだと思うんだよ」
「はー、ひー。そうなんだ。はぁはぁ、そうだね。ジン兄と、一緒に、なったら、考えるよ」
「うん。その方が良いよ」
走りながらで、息が切れ切れで大変なのに、ナーガは全然息切れしていない。
『神様の加護』によるチートみたいな体力向上なんだろうけど・・・
ぜんぜん、
全然、羨ましく、ないんだからな~~! ちくしょう!!
「リト、なんか言った?」
「あ、 え、 何も言ってないよ」
やば、もしかして声に出てしまったのだろうか? 流石に焦った。
何とか門限には間に合う事が出来たが、これから夕餉の準備かぁ。気力と体力を絞り出さなくちゃ。
「はぁ~~~~」
溜め息が溢れた。




