108 魔法の練習をしよう2
今日は『定休日』
何時もの木陰で読書をしている。
木陰といっても、殆ど落葉していて根元まで日が差しているから、結構温かい。
本は図書館からランダムに選んだものだが、読めない字が多くて苦労はしている。
例えるなら、全てがカタカナで書かれている童話とか、漢字が多いとか、洋書で意味が分かる単語から言葉を想像するとか、そんな感じなのだ。
意味が解らなくて嫌になる事もあるが、とにかくこの世界の知識を知りたい! という好奇心を奮い立たせて気合いを入れながら読んでいるのだ。
別に読書が好きだから、という理由では無いのは、辛い思いをしている事から容易に想像できると思う。
そう、本来の目的は、ナーガの魔法の練習を見守る事だ。
以前の様に暴発しそうになった時に対応する必要があるのは当然で、だからといって睨み続けるのは邪魔になるだろうからと、付かず離れずに居たいのだ。
ただ、眺めるのも手持ちぶたさなので、ついでに読書をしているって訳なのだ。
そういえば、剣の稽古を眺めている時と似ているかも知れないな。稽古の時は孤児院の仲間との人間関係が危うくなったのを思い出した。
前の世界でも苦労したが、人というのは人間関係が一番ストレスを感じるらしい。ここでも同じく人との繋がりが気掛かりだが、幸いにも今は独り稽古なので、その心配は無くて助かる。
「ねえねえリト。ナーガは何をしているの?」
荷馬車を見送ったアリアが駆けつけて来た。
麦わらのストローから水を吹き出す姿は誰が見ても異様だからと、あえて修道院の片隅の鶏舎の陰でコソ練をさせているけど、違和感故に遠目から目立つらしい。
「あ、アリア。荷受けの手伝い終わったんだ」
「ええ、リト達にも荷物が届いてるから早く受け取ってね。早くしないと、なくなっちゃうわよ~」
「え~、なくなるの、やだ~。あ、でも、でも、なにがとどいたの~」
「なんだろうね。クレハが欲しがってた物かもね」
欲しがっている物? 誰かに何かお願いした事あっただろうか。
修道院の規則に従えば衣食住の心配は無いし、図書館の鍵を預からせて貰えたので特に思いつかないんだけど、何が届いたのだろうか?
物は何であれ、贈り物がある、というのは嬉しいな。
直ぐにでも受け取りに行きたいけど、ナーガを置いていけないから、練習が落ち着くまで待とう。
「アリア。少し待っててもらえるかな? もう少ししたらナーガが落ち着くと思うから、一緒に行きたいんだ」
「少しだけなら大丈夫だけど、ナーガって何をしているの?」
「多分、きっと、魔法の練習、のつもりなんだ」
「あら、誰かに教わる事ができたの?」
「あのね~、とってもすてきな人から、おしえてもらったよ~」
「あら、クレハ。そうなんだ。どんな人だったの?」
「あたしの目のまえにいるよ。とてもきれいな人だよ~」
アリアは、え! って感じにしどろもどろになった。当然だろう。私達の前にはアリアしか居ないのだから。
表情が緩んだり紅くなったりと可愛いな~と眺めていたら、
「もう~。なんて可愛いこというのかしらね。この娘は」
と、アリアは照れを隠さず(背丈の差で)クレハの頭を抱きしめた。
「だけどね、リト。わたし、ああいうの、教えた事あった?」
「ああ、あれは僕の提案なんだ。アリアは教えてくれたよね。想像やイメージするのが大切なんだって。だから僕なりに、イメージが分かる方法を考えてるんだ」
「ふ~ん。それじゃ、どうしてリトは練習しないのかな~」
時々、勘が良いというか鋭い問い掛けしてくるよな~。良く見ているな、アリアって。
「僕は、ナーガが魔法を使えたら、コツを教わろうと思ってるんだ。だって、ナーガは魔法も得意そうだから」
「・・・そうね、早く使えるようになれると良いね」
何か、奥歯に物が詰まった言い方をされたのが気に掛かるが、追求されるよりはマシか。
ブボッ!
ナーガが吹いていたストローが割れて、勢いよく水を吹き出してしまった。
所詮は麦わら。湿気った状態で圧力をかければ直ぐに割れてしまうのは仕方が無い。これで今日の練習分は終わりだ。
「リト。練習は終わったよ。って、アリア居たんだ」
「ナーガはとても熱心に頑張るのね。リトから聞いたわよ。早く魔法が使えるようになると良いね」
恥ずかしい姿を見られて照れくさい。そんな表情になった。コソ練すればする程、見つかった時は恥ずかしいものな。仕方ないか。
「そうだ。アリアはね、僕達に荷物が届いてるよって教えに来てくれたんだよ。早く受け取りに行こうよ」
「荷物?俺達って何か頼み事したかな?」
身に覚えが無いから、やっぱり同じく考えるよな。
「ほらほら、考えるのは荷物を受け取ってからにしましょうよ」
届いた葛籠は少々大きかったので、部屋に運ぶのにアリアに協力してもらった。
大きい葛籠は私に、中位の葛籠はクレハ、小さい葛籠はナーガ宛だった。
雀のお宿に泊まった記憶は無いんだけどなぁ。
ただ、こういう場合は大きさで中身がアレだよな。
「おおきいの、おばけでるよ~~」
両手を垂らしてクレハがオドロオドロな口調でからかい始めた。
「はいはい。そういうお約束はいいから」
「ちぇ~。つまんな~い」
よしよし、と撫でる私に、クレハは言葉はふてくされていたけど、冗談が通じたって感じで口調は嬉しそうだった。
ただ、意味が分からないナーガは首を傾げるだけだった。
雀の童話を知らないのだろうか? まぁ題名を聞くだけで口の中が痛くなりそうだから、モンペの圧力で制限されていたのだとしたら、なんと面倒な教育環境だろうか? と思わずにいられない。
単にゲームに熱中していただけかもしれないけど。
先ずは小さい葛籠を空けたら、綺麗な用紙と布生地に包まれたクッキーだかビスケットが入っていた。
バターの香りが何とも芳しい。財宝ではないけど、この修道院では十二分にお宝だ。
それなら大きいのには何があるんだろう! と、意気揚々としたナーガが大きい方に手をかけた。
大きいので蓋が引っかかってなかなか開かないから、3人でこじ開ける様に力を入れた。
どれくらい掛かっただろうか?
突然、シャンパンのコルクみたいに、ポンッ! って感じに勢いよく葛籠が舞い上がってしまった。
「うわー! おばけが出てきた!!」
驚き慌てるナーガに、天井から葛籠と一緒に人形の影が舞い降りてきた!
「おばけが出た! 幽霊が出た!」
そう怯えながら頭を抱えて丸まってしまった。
びっくり箱じゃないけど、勢いづいて物が飛び跳ねれば、それだけでも驚くもんだ。更に人の形をした『何か』が飛びかかってきたのだから、気が動転しても仕方ないかもな。
ナーガの気を落ち着かせようと背をポンポンと叩いた。
「そんなに驚かなくって大丈夫だよ。これ、ただの服だよ。子供のから、大人の人のまで、服が入っていたんだよ。でも、汚れてるから、古着だと思うよ」
「え? 古着? なんだよ! 驚かせんなよ!!」
恥ずかしかったのも有るのだろう。当たり所の無い怒りを大きい葛籠に向けてぶつけていた。
物は大事にしようよ! と八つ当たりを留まらせたかったけど、近寄りがたい雰囲気だったので、落ち着くのを待つしか出来なかった。
そして、クレハのには裁縫箱が入っていた。
そういえば演奏者、ブリーイングの人達へ『語り部』の『お手伝い』をした時に交わした「欲しいもの」だよ。これは。
社交辞令というか、相手の好きな物を知れば話しが盛り上がるから聞かれたのだと思ってた。
まさか、本当に贈られるとは予想もしなかったので、流石に驚いた。
まぁ何というか、その場限りの会話だからと思って冗談で「古着が欲しい」って言ってしまったけど、本当に贈られるのなら正直に答えれば良かったのに、と少々後悔してしまった。




