100 出張の『お手伝い』3(メイド)
私達を迎えた客車は、東城門前広場の手前で、北方へ曲がる。
少し経った頃に、西城門と同じ様な草の根街が見えてきた。
その街の手前で北西へ進路を変えると、開けた小高い丘の麓に辿り着いた。
丘の上には姫様が暮らしている、仮称『3LDK+離れの応接室』よりも、ずっと大きなレンガ造りの建物がそびえ立っていた。
レンガ造りの建物へ向かう道のりは見事な敷石のスロープ。途中には馬が休める程広い踊り場があり、『バリアフリー』という言葉が当てはまる程に立派あ仕上がりだった。
姫様御用達の客車でも、ここに辿り着くまではそれなりに揺れたのだが、この敷石から揺れをまったく感じない整備の行き届きには驚愕するばかりだ。
建物へ向かうにしたがって減っていく民家の代わりに奏で始める弦の音。
ここがこの国の本当のお城で、姫様の住まいは別荘なんじゃ無いか? という想像が浮かび上がった。
つまり、ここに王様、王妃様が暮らしているのならば、礼儀作法は大丈夫だろうか? 身支度をする位だから失礼は無いだろうか?
動物ランドを廻る様に浮かれるナーガの鼓動とは真逆に、私は緊張で動悸が息苦しささえ感じてきた。
「いらっしゃいませ。お客様」
「ようこそお越し下さいました」
頂上に着いて、2人のメイドがスカートを軽くたくし上げて迎えてくれた。
彼女たちの姿は極普通なメイド服だけども、頭の被せモノがメイドキャップではなくて、人形のドレスで見かけるヘッドドレスといった感じだった。
阿波踊りで被るような円形の周りに軽く花をあしらった飾りが施されていた。このヘッドドレス華やかさが、メイド服がシックなドレスを演出していて驚いた。
驚いた・・・といえば、彼女達を良く見ると2人ともオッドアイだった。
ヘッドドレスのつば先が邪魔をして分かり難いが、2人とも両目の色が違う。赤と青の瞳。
更に赤い瞳の方が何となく肌と髪が薄い。もっと驚く事に同じ2人とも全く同じ背格好だからだろうか? まるで鏡を通しているように対称的なのだ。
いくら異世界ファンタジーといっても、ここまで、できすぎたキャラ設定はないだろう!! って思わず心の中で突っ込んでしまった。
「初めまして。リトと申します。よろしく、お願いします」
「はじめまして。クレハ、です。よろしくおねがいします」
「は、はじめまして。ナ・ガです。おねがい、します」
胸に手を当てて軽くしゃがむ私と、スカートを軽くたくし上げて挨拶をするクレハ。
が、ナーガは緊張のあまり、日本式の会釈をしてしまった。
いやいや、ここは違うから! と焦りながらお辞儀の仕方の真似させた。
私の身元はそっくりな2人のメイドへと移ったが・・・あれ? あれあれ? そういえば名前聞いてないじゃないか。
「瞳がステキなメイドさん。名前を教えてくれませんか?」
「リト、待ちなさいよ。瞳にコンプレックス持ってたらどうするの?! わたし達には綺麗に見えても嫌かもしれないじゃない。ここはわたしの出番よ。長男のナーガはキョドって使い《物》にならないし」
手の甲を抓って囁くクレハが送る視線の先には、お辞儀を間違えたのを反省して落ち込んでいるナーガの姿があった。
「ドレスがすてきなおねーちゃん。おなまえおしえて。あたしはクレハなの~」
独り歩み出して、腕を2人へ伸ばす様に広げてから、普段より音高によそ行きな声で挨拶をする。
メイドはそれぞれ、青い瞳を指差してから自己紹介をしてくれた。
「私は、マートレリアと申します、リトさま。『マトレ』とお呼び下さいませ」
左目に指を添えたメイドは応えた。
「私は、ストレリアと申します、クレハさま。『ストレ』とお呼び下さいませ」
右目に添えたメイドも同じ口調で応えた。
「マートレリアさん? と、ストレリアさん? 失礼を承知でお伺いさせて頂きたいのですが、おふたりは双子でいらっしゃいますか?」
「ええ、その通りで御座います、リトさま」
「メイドに丁寧な言葉はなさらずに、気楽に申しつけ下さい、リトさま」
・・・え~と、ちょっと待ってくれよ?
話しの流れの違和感について考え込んだ。熟考する時に右中指を額に当てると気が落ち着くので、くせ見たくなっているが、ソレは兎も角として。
とりあえず、トキザミ様から指示された、曖昧な依頼内容を確かめる為にも質問をしてみるか。そうしないと、何故に『客人』の扱いになっているのかが分からない。
「僕達は、姫様から『お手伝い』を仰せ遣わされました。ですから、僕達はメイド・・・マトレさんとストレさんの下働きをするのが役割で御座います。何なりとお申し出下さいませ。それに私達に『さま』は不要です。そのまま呼び捨てて下さいませ」
「もしかして、みなさんは何も聞いていらっしゃらないのでしょうか?」
「マトレ、もしかしてたら、トキザミ様のお仕置きかも知れませんよ」
「ストレ、あの方が意地悪する訳無いではありませんよ。きっと伝えられない事情があった筈ですよ」
あの尋問じみた依頼の伝え方が意地悪でも、お仕置きでもなければいいが、私にはそうとしか思えないんだけどな・・・。
「ここで立ったままではお体に障ります。わたくしマトレが簡単に説明を致しましょう。早く建物に入らなくては寒風で凍えてしまいます。それから、普段通りにお話しして頂いて結構ですよ」
入り口に向かいながら説明を受ける。
「皆様には『語り部』をお願いしたいので御座います。なんでも、クレハさまとリトさまは、お若いのにお話しが素晴らしいと伺っております。ゥナーガさまにおかれましては『迷子』として多彩なお話しを頂きたく存じております』
「あの~、ご満足頂けるか分かりませんが、そのご依頼を精一杯務めさせて頂きたいと思いますが、お相手はどなたでしょうか?」
依頼を受けて来ているのに、客人扱いされているのが、どうも気持ち的に居心地が悪いから、努力しますと言ったけど、話す相手が分からない以上、失礼が無いように言葉を丁寧にし続けるのは必須だろうと思う。気が緩むと変に口を滑らせてしまいそうだ。
「リトさま。そんなに畏まらなくて宜しいのですよ。普段通りで良いのですから』
畏まらなくても良いって赦されてもなぁ。気分的には貴族の住まいに紛れ込んだ平民というか丁稚な気分の訳で、普段通りといっても・・・私とクレハはよそ行き口調だけど・・・違和感があって難とも。
例えるなら、異世界転移な物語で、集団で召喚された高校生が王様・王妃様にタメ口を垂れ流す感じで、気持ちが悪い。
「コレは『お願い』で御座います。お話しを期待してお待ちされてます方を和ませて頂きたいのですが、緊張されてるご様子。如何致したら宜しいでしょうか?」
ストレが、私の思考に割り込む様に口を差した。
「あのね、マトレさん。あのね、ストレさん。お話しする方は、おおさま、と、おおひさまなの? はぢめてお会いするなら、失礼なことをしないか、とっても、とってもしんぱいなの」
「・・・この国の最高位の御方は姫様よ。王様というなら、王妃様・女王様というなら、全ては姫様のとお考えになって頂いて問題御座いません」
マトレが何事も無く答えた。
「そうなんだ~。姫様、いちばんえらいんだね~。それじゃ~これから会うひと、きぞくさま?」
「貴族ではありませんが、少々訳ありの御方なので、気を煩わせたら申し訳御座いません」
クレハは、あえて私とナーガに説明する様に返した結果、『クセのある人』に会うのだと教えられた。いったいどんな人柄なのか、余計に緊張するでは無いか。このメイド達、ワザと困らせてないか? そんな意地悪をされている気がするのは、考え過ぎだろうか?
「あの~・・・、改めて確認させて頂く失礼をお許し下さい。わ・・・僕達は誰かにお話しをする為にお呼ばれしたお客様。と受け取って宜しいのでしょうか?」
「ええ、その通りで御座います。お客様なのですから、畏まらなくても良いのですよ」
「なぁなぁ、リトにクレハ。メイドさんが赦してくれるなら、早く建物に入ろうよ。流石に丘だから寒風が辛いよ」
もう限界と割り込んだナーガの言う通り、流石に私達も限界だった。
「建物の中へ、急いで案内して頂けないでしょうか」
「ええ、承知致しました」
「はい、拝命致しました」
レンガ積みの玄関には七輪の様な暖房器があったので、駆け寄るように暖を取った。
寒い場所から急に温かい所に来たので、鼻がズーズーし始めるのは生理現象だよな。こんな事を考えてかっこ悪い姿を正当化してみた。私の心の中だけ、だけど。
依頼内容を黙っていたのは、色々やらかした自覚があるので、トキザミ様の意地悪だと思ってた。
だけど、今回の依頼が『客人待遇』なんて知ったら、姦しい3人組の事だから、辺り構わずにどれだけ出しゃばって来たのだろうか?
そういう喧噪を想像すると、帰ってからも姦しく質問攻めを受けそうで気苦労が重くのし掛かりそうだ。
あえて『姫様勅命』の依頼を強調していたのが分かった気がしたよ。「他の家庭と同じで、お世話をしてきました」と答えれば済みそうだ。
※マートレリアは左、ストレリアは右、エスペラント語からソレっぽく言葉を換えて引用しました。




