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099 出張の『お手伝い』2(身綺麗に)

「おはよう、リト。よく眠むれた様ですね」

 翌朝、シスター・テレサが、目を一番赤くした私を見かけるや否や、軽口を開いた。

 クレハの影響なのか、なんか(いじ)られキャラみたいになってしまった気がするが、悪気は無いのだからそれはそれで気にしない。

「はい。ごめんなさい・・・。僕、姫様の期待通りに依頼を受けられるのか、不安で眠れませんでした」

 少し『棒』っぽい口調だけど、寝起き直ぐだから気にする程じゃ無いだろう。目を擦りながら応えた。

 依頼の詳細を教えて貰えていないから、

 しっかりと期待に応じられるのか? 失礼な事をしないで済むだろうか?

 という当然な事もあるが、本音は、姫様を対峙した時に面会の時に様に失態しないで済めば良いのだけども・・・という『不安』の方が大きい。



 朝食の配膳をしている時に、門から姫様御用達の客車が入ってきた。

 礼拝堂越しとはいえ、間近に見ると、やっぱり客車の装飾が輝いて綺麗だ。2頭の馬も毛並みが良いし(しつけ)が行き届いているのか、猛々しい格好なのに悠々とした姿は見事なモノだ。



「ナガ達はあの馬車に乗っていくんでしょ」

「いいなぁ~。わたしも乗ってみたい」

「ねぇねぇリト。帰ってきたら馬車の事を教えてよ」

「そうだよ。わたしたち何時も荷馬車なんだもん。」

「客車の、しかも姫様用なんて一生乗れるか分からないんだよ。絶対に教えてよ」

「何処まで行くの。何をしてくるの。姫様の頼みって何?」

「お城に行ったら、その景色も教えてね」


 口を挟む余裕が無い程、3人組の少女達は(かしま)しさは治まらない。

 別に、この修道院では食事中は会話をしてはいけない、と云う程に厳しくは無いが、それでも限度ってモノがある。流石にシスター・テレサがパンパンっと、感情をそのまま現したように柏手を甲高く鳴らした。


「はいはい。お話しはお終いよ。3人とも。ナーガ達は直ぐに準備しなくてはならないのです。早く食事を済ませましょう」

「え~まだ聞きたい事有るの~」

「食事の邪魔にんらない様に~」

「静かに話すからいいでしょ~」

 この3人組は・・・「話しを聞きたい」ではなくて、客車を肴に会話を彩りたいのだろうが! ってツッコミをしたっくなったが、今は食事中。平静に、平静にと心がける。

「駄目です! 今日は我慢なさい!」

 流石にシスター・テレサから一喝が入った。 安心したというか、今回に関してはすっきりした。



「ナーガ達は食事の片付けはいいから、この部屋にいらっしゃい。仕度するわよ」

 シスター・テレサとレミアに呼ばれて、礼拝堂の奥の部屋へと案内された。

 その部屋には、水を張った桶が3つ、それと七輪の様な暖房器? があった。

「クレハはこっちよ」

 と、シスター・レミアに連れられて、クレハは仕切った垂れ布の先へ連れられていった。

「ナーガとリトはこのままよ」

 シスター・テレサが七輪から焼けた石を取り出して桶に入れると、案の定ジュ~って音と蒸気で部屋が(もや)った。

「ほら、早く服脱いで体を拭いなさい。急がないと冷めるわよ」

 雑巾もどきを投げて言った。

 言葉通り従って体を拭う。


 ~~ はぁ~暖かい~ ~~


 できれば温水の桶に浸かりたいけど、流石にそれ程大きくは無いので無理だった。とはいえ、普段は日差しで暖めた水だったから、温水で体が拭けるのはとても気持ちが良い。なんか得した気分かも。


「テレサ。クレハの髪を洗い終わったから灰湯を運ぶの手伝って」

 シスター・レミアから灰汁というか灰が溶けたお湯が届いた。再び七輪から焼け石を入れるとシスター・テレサは、下着姿を私達に

「急いでコレで髪を洗いなさい。冷めるし体が冷えるから急いでね」



 そんなこんなで、言われるままに体を洗い、渡された服に着替えた。

 丁寧に編まれた布生地で出来た服。少々ゴワついた糸で出来ているようだが、(シルク)の様な材料なのか、肌触りがとっても柔らかい。

 それにゴワついたというか、軽くちじれた感で多彩にキラめくので、そうとう高価な服なんだろうなぁ。汚さないようにしないと、と緊張が増す。


「は~い。クレハも着替えが終わったわよ」

 シスター・レミアが垂れ布をたくし上げて現れた。

 綺麗になったクレハは、どこの令嬢かと思う程に見違えっていた。

「リト、髪が乾くまでこの布を押さえてあげてね」

 自然乾燥しか方法が無い世界なら、乾くまで布を巻くのは当然か。

 生活魔法、そうだなぁ~・・・、火の魔法と風の魔法でドライヤーみたいな事が出来れば良いんだけど。



 準備が出来て礼拝堂から客車へ向かうと、メイドさんが客車の入り口に立ち待っていた。

 きっと修道院に着いて、私達が朝食と着替えの間もずっと待っていたのだろう。そんな気がする。時間を掛けてしまって悪い事をしてしまったなぁと罪悪感がざわめく。

「クレハさま。ゥナーガさま。リトさま。どうぞお乗り下さいませ」

 なんで私が最後に呼ばれたか? 別にどうでも良い事だけど気になったが、それよりも・・・・

 修道院のみんなで見送ってくれるのは嬉しいとしても、姫様御用達の客車に乗る時に向けられる孤児の視線は、なにか小っ恥ずかしい気持ちにさせてくれた。

 例えるなら・・・そうだなぁ、

 学園モノな物語で、お嬢様を迎えに来たリムジンとドア開け役の執事がずっと待っているって気持ちだろう。「街中を案内しますわ」と何気ない誘いに2つ返事でお願いした転校生な気分だよ。

 背中が無駄にむず痒い・・・。



 客車は2人の席が前後にある。

 メイドの呼び順で、進行方向を向く上座にクレハとナーガ、下座にメイドと私、という席順になった。

 クレハの髪が未だ乾いていないのと、ナーガの乗り物酔いの心配を考えた結果、席順入れ替えをお願いした。

 一番奥の上座にメイド、隣の外が見える扉側にナーガ。下座に私とクレハ。という席順を提案した。

 しかし、メイドからは「わたくしが上座などとんでもございません」と頑なに断られてしまった。

 クレハの髪を乾かさなくてはならないから「一緒でなくてはなりませんので」と、伝えても頑なに受け入れてくれない。それどころか「わたくしが代わりにお手伝い致しましょう」と、逆に提案されてしまった。

 確かに、女の子の事は女性にお任せするのが一番だろう。


 結果、下座にはクレハとメイドが座る事になった。

 それは兎も角、眼前に華のある旅路は、それはそれで彩り溢れて良いではないか。

 そんな緩んだ表情に、クレハが『ジト目』で睨み付ける。視線がメイドに釘付けなのが気に入らないのだろう。


 車窓を眺めて浮かれるナーガの隣で、針のムシロに座っている気がして落ち着かない。

 帰りの席順は、改めて考え直した方が良いな~っと、今から考える事にした。



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