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096 (閑話)草の根街の中(グロ注意)

「だい、じょぶ、か?」

「おい!おまえら、来い!」


 草の根街から、さっき挨拶に来た少年と、多分兄と思われる2人がやって来た。兄と思われる人の口調と目つきが半端なく悪い。

 なんか路地裏に連れ込まれる様な、そんな悪い想像しかできない態度におどけていると、少年の方が手を取って

「だい、じょぶ。だい、じょぶ」

 と引っ張った。



 草の根街に入った途端に異臭が酷くなった。肥だめだけでは無く、酸っぱくツンとする感じは嘔吐(おうと)が混ざってるのか?

 強い臭いがする方向を眺めると、桶の中に、どす黒くウネウネした感じの堆積物が入っていた。

 前の世界では配達のアルバイトの時に何度か見覚えがある異様なモノ。想像が正しかったら・・・



 その桶の傍の台には大きいウサギ程のあばら骨らしいのが乗っかっていた。この骨から桶の中身が分かった。

 あれは屠殺(とさつ)された動物のハラワタだ。ハラワタといっても内臓ではなくて、胃酸とか混ざった未消化物だ。流石にこの臭いはキツい。



 それにあの爆発の後だ。野次馬が居なかったのがとても疑問だった。

 『火事は江戸の華』とか言い回しがあるように、交通事故では素知らぬ顔で通り過ぎる振りをして横目でしっかり眺めるのように、好奇心に刈られるのが人情というモノだ。

 娯楽が少ない世界だから余計に野次馬として群がって当然だ。

 だから野次馬が居なかったのが不思議だった。兵士達が追い払っても居る人は居るのも人情だ。だから誰も居ないのが不思議でならなかった。

 しかし、成る程、事故現場が草の根街に近いから、気付かない程度に遠くで見ていたのだと予想できた。

 この臭いに近づくのは、結構勇気がいる。



「おい、連れて行け」

 兄が焼けた野原の方を親指で差した後に、屠殺(とさつ)の台へと向かっていった。

 骨は兎も角、桶のグロ物を見せる訳にはいかないと、手を引く少年に協力するようにクレハとナーガの背を押した。

 案内された焼け野原には、石で出来た(かま)が用意されていた。



 少し遅れて、兄があばら骨の塊を持ってきた。

「座れ。待ってろ」

 相変わらずぶっきらに言い放つと、あばら骨をバキバキと折って窯の上に並べた。

 並べ終わると、窯に指差し

「炎あれ!」

 その一言で薪に火が付いた。


 横柄な態度とぶっきらな言葉で乱暴な感じの兄は暴力的な行動は一切取っていない。つまりこの行動が素なのだろう。

 なんか安心したのと、「炎あれ!」の一言で魔法が発動できるのか! という感動で恐いという気持ちは失せてしまった。


「弟、世話、なった。おまえ!悪かった」

 ナーガを差して言い放った。



 なんとなく、状況が分かった気がする。

 アリアへの贈り物を買う時に財布をスラれた事があったが、少年というか弟への対応に対するお礼とスッたお詫びをしているのだろう。

 言葉遣いが悪いのは、まぁそういう街なんだろうと思うしか無いな。



「肉~!肉だ~!!」

 ナーガの心はキャンプのバーベキューの様な窯に釘付けだ。

「おにく~。おっにく~」

 クレハが相槌するようにさえずる。

 この世界に来てから、肉と言えば鶏肉ばかりで、ジビエというか獣肉はコレが初めてかもしれない。

 しっかり火を通しているから、食あたりの心配もなさそうだ。


「食え」

 と言われて焼けた肉を手渡された。手持ち出来る様に骨の先端は水で冷やされていた。



 初めての肉に夢中なナーガを横目に、少年に問い掛けた。

「どうして、肉まで?」

「おれい。おわび」

 そのまんまの答えが返ってきて、やっぱりそうなんだ。と思っていると続けて少年は言う。

「兄、12。もう出来ない。トキザミ様、バレる。恐い。狩人、なる。これ獲物。お礼」

 乱暴な兄と違って、弟な少年はそこそこ話せる。きっと何度か修道院が出張で行う国語の授業を受けた事があるのだろう。目つきはキツいが優しい兄なのだろう。

 そして、少年の歯切れた言葉に、兵士達の話しを思い出してつなぎ合わせてみると、


「「兄は12歳になるので、もうスリは出来ないし、行うとトキザミ様に直ぐに知れてしまって処罰が恐いから、もうスリをしない。これからは狩人として生活する。この肉は獲物です」」


 という感じだろうか。

 狩人といっても、当然、乱獲しないだろうから量は少ないだろう。

 それでも修道院よりは肉が多くて美味しいのは羨ましい。

 貧民街とも言われてるが、これは単に買い物するお金が乏しいだけで、食べ物は意外と良さそうだ。そんな気がしてくる。

 流石に肉に釣られて、肥だめ掃除とか、煙突掃除とか、家畜の屠殺(とさつ)にハラワタ抜きはしたくないけどな。



「ありがとう。ごちそうさま」

 お礼を告げて帰るのだが、その前に1つ聞きたい事があり、兄へ駆け寄った。


「魔法は、呪文無しでできますか?」

 物語だと「無詠唱だと!なんて凄腕なんだ!」とか賞賛される場面があって、ちょっと憧れていた。だから、一言で魔法が使えるなら無詠唱でも可能だと思ったのだ。

 しかし、その質問をした途端に、ひっぱたかれた。

 どうして叩かれたのか、分からずにいると、

「呪文無し。危険。大変。絶対するな。先生に言われた。駄目だ!」

と、凄い形相・・・で叱られてしまった。

 怒っている、というよりは凄く悔しそうな表情。

 魔法に失敗したのだろうか? もしかしたら親友を失ったのかもしれない、そんな表情だった。



 ナーガの魔法チート暴発を考えれば、無詠唱というのは無意識に発動させてしまう危険があるのだろう。

 だから、詠唱という「これから魔法を使う」という意思表示が必要なのだと、代々の師匠から語り継がれているのではないだろうか。

 そうでなけでば、見かけによらず優しい兄が手を上げる意味が分からない。



 今回の暴発の事故も踏まえて、魔法を使う方法には注意をしないと駄目だと学んだ一件だった。



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