095 俺の名はナーガ・レナウ
「だけどさ、いきなり『ナーガ・レナウ』って名乗っておかしくないかな」
突然、「名前変えました」って言われたら焦るけど、ノブナガ・・・じゃなくってナーガの場合は、『お手伝い』先や兵士達から「ノゥナガ」とか「ノナーガ」って聞こえてたから違和感は無い、と思う。
それよりも、私とクレハは今までずっと、有名な武将の名を呼び捨てしている感じに違和感を感じていたから、名前を変えてくれるのは気持ち的に楽になる。
それに、人生の区切りで名前を変えるのは、戦国時代じゃ良くある事だから変じゃ無い。まぁ出世魚っぽいけど。
「ナーガは知ってるかな? 『お手伝い』先や兵士達から「ノ・ナガ」とか「ノ・ナーガ」って呼ばれてたんだよ。だからみんなも受け入れてくれると思うんだ」
ナーガの共通言語という自動翻訳が、翻訳せず、言った通りに働いてくれたらいいな、と不安を持ちつつ説明してみた。
「そうなんだ。みんなナーガっぽく発音していたんだね。ちょっと恥ずかしいけど、クレハとリトの言う通り、この世界では俺は『ナーガ・レナウ』だ」
頑なに前の世界の名前に執着すると思ったけど、6つ月というか半年以上一緒に生活していたから、『将軍様と同じ名前』に拘りが薄れたのだろう。
気に入って貰えて良かったよ。ずっと違和感を感じていたし、どういう名前なら気に入って貰えるか考えていたから本当に良かった。
「それじゃ・・・、ちょっと恥ずかしいけど、『ナーガ』として挑戦してみるから」
「うん。頑張れー」
「がんばって~」
パチパチと軽く拍手して応援する私達に照れながらも、呼吸を整えてコホンと息継ぎしてから、伸ばした右手の平をやや上空へ向けて
「え~と、「ナーガの名により命ずる。出でよドラゴンフレイム!」」
をををぃ! 何のアニメの台詞だよ?! それにいきなり『竜炎』とか、なに逝っちゃってんだよ! と、心の中でツッコむと、
ナーガの手の平の先から、
<<ーー チリチリリィィ ーー>>
と、高熱になった鉄が爆ぜそうな音がし始めた。どう考えても、お約束的な警鐘が鳴り響く!
「クレハ!耳塞いで伏せろ!」
「リトも速く伏せて!」
「いや、未だ駄目だ。ノブナガ!ごめんよ!」
咄嗟だから言い慣れた名前で叫び押し倒して直ぐに顔の上に押し乗り、ナーガの腕を空へ向くように左腕で抱えながら耳を塞ぐや否や、
)))>>>ーー パァン ーー<<<(((
と、高温に圧縮された空気が爆ぜた!!!
:
:
「・・・きろ。お・・・少年、・・・きろ。お・ろ」
揺すられ、頬を叩かれながら、必死な声が聞こえる。ゆっくりと目を開けると、兵士が声を掛けながら凄い形相で頬を叩いていた。
爆音の衝撃で気を失ってしまったのは容易に理解できた。声は聞こえるので耳鳴りは酷いが鼓膜は無事な様だ。それから目を左右に動かし周囲確認。火事にはなっていなくて安心した。
次に手足に痛みが無いか確認したが、幸いにも大丈夫な様だった。
「だ、大丈夫、です」
そう言ってから、起き上がろうと頭を起こしかけたら、目に映る光景が歪んだ。
やばい! きっと脳しんとう起こしてる。こういう時は無理に起き上がらずに、落ち着くまで横にしていよう。少なくとも逃げなくてはならない緊急事態では無いらしいから。
目眩が治まるまで横になりながら、もう一度周囲を確認すると、西門の守衛室で待機している兵士3人が駆けつけてきたのは分かった。
目の前の兵士は私が気が付いたので安堵の溜め息を漏らしでいた。
クレハは・・・守衛所付きのメイドが、伏せた時の泥を払っていた。立ち上がっているから無事だったのが分かって安心した。
ナーガは・・・右の手平に出来た火傷の治療を受けていた。ヒールの魔法、兵士も使えて良かった。修道院の人以外は駄目なのかも?と心配だったから良かったよ。
まぁ火傷もそうだけど、いきなり押し倒したから頭を打ったらしくて、私と一緒に安静中だった。
「それで、何をやらかした?! ノゥナガと、クレハと少年!」
私達は正座して説教を受けている格好になっていた。
ナーガを知っていると云う事は、目の前の人は修道院に何度も手伝いに来ている兵士だと分かった。
私と一緒なので結果として紅一点というか幼女なクレハは目立つらしく名前を覚えられていた。しかし私はさっぱりだった。なんか疎外感が・・・。
「何を爆発させたんだ!」
「ごめんなさい・・・」
「開けた所で良かったけど、今頃大火事だぞ!」
「すみません・・・」
「軽傷で良かったが、いったい何をしたんだ?!」
「すみません。ごめんなさい」
ひたすら謝る事しか出来ない。「魔法の練習していたから」といえば、アリアを巻き込んでしまうかもしれないのだから。
「言えないなら、まぁいい! どうせトキザミ様の事だから、この事態はもう知ってるだろう。シスターややモンクには謝っておけよ」
「ほらほら、兵士さんは厳つい顔で子供を脅しちゃ駄目じゃ無いの」
「べつに、脅してる訳じゃ・・・。今と、これからの事で心配だから、その~・・・」
「そうね、心配していたのよね」
メイドは私の方に向かってウインクした。
ああ成る程、この兵士さんは怒っている訳じゃないのか。子供の扱いが不器用なだけなのか。
ともかく迷惑掛けたのは間違いないから、土下座な格好になってしまったが
「ご迷惑おかけして済みませんでした。心配してくれてありがとうございました」
「まだよ。3人とも立ち上がれる? そしたら何回か跳ねてみて。 それからクルクルって廻ってみて。 大丈夫?ちゃんと立てるかしら」
良く分からないけどメイドの言う通りに動いた。
私達の無事を確認したら唇の前に人差し指を立てて「し~」てポーズをしてから
「その様子なら大丈夫みたいね。きっとトキザミ様に叱られるのが恐いから黙っているのよね。安心して、私達は内緒にしてあげるから。無駄だと思うけどね。それじゃお元気で」
そしてメイドが兵士を引っ張るように守衛室へ戻っていった。
「ナーガは、僕が教える時以外は魔法使うに禁止だからね!」
包帯として右手に巻かれた綺麗な布越しに、火傷の跡を軽く押して脅すように訴えた。流石に危ない所だったと反省したのか、素直に頷いた。
ず~っと危惧していたチートスキルの暴発がこの空き地で済んで良かったよ。修道院というか街中で起きたらと想像すると冷や汗所の騒ぎじゃ無いからな。
それに、名前を変えただけで、これ程に変化が起きるとは、魔法とはなんとも奥が深く扱い難い代物だったんだな。と思わずにいられない。
この後、草の根街から呼び出されて、帰るのが遅くなった。
今回の事故よりも、修道院に着いたのは夕食後だった事でこっぴどく叱られた。




