084 見よう見まねで舞の練習
風が静まり月光が輝く空の下、みんなが寝静まった時に、怪しく揺らぐ影があった。
「あ~もうっ。なにやってんの、リトは!」
クレハが目を擦りながら起き上がった。
「あ、起こしちゃってごめん」
「ご・め・ん・な・さ・い、でしょ!」
「ご、ごめんなさい」
「はい、よろしい」
無理矢理に起こされて不機嫌な迫力に押されてしまった。
「それで、何をしているのかな?」
「ああこれは、姫様の舞を思い出して真似てるつもり。綺麗だったし、あんな動きが出来たら良いなって思ってだけど」
と言って、ちょこっと振り舞う。
「うへ~、それがぁ? 死霊の手踊りみたいで、すっごく変」
「ミュージシャンっぽい?」
「違うわよ。トンデモ映画みたいって言ってるの」
「だけど、抜き足差し足にと、こっそり練習していたのに、よく気が付いたもんだ・・・と思う」
不機嫌な視線にキョドって少しドモッてしまった。
「気付くも何も、モヤモヤ~ってしたモノが、ウネウネ、フヨフヨしてたら落ち着かないじゃ無い。目覚めて当然よ」
「ウネウネとかモヤモヤとか、抽象過ぎて意味が分からないんだけど?」
「あ~、ちょっとまって、え~と・・・、そうね、気配かしら。気配がたゆたって気になったって言えば良いかしら」
「気配か~」
「それよりも、姫様の真似事なんてして大丈夫と思ってるの! もしかしたら又、幽霊に襲われるわよ」
「大丈夫なんじゃないかな。テレサが行った小儀礼というか聖別してないから何も起こらないと思うけど」
「宴の儀式の始めと終わりに行ったアレね。たしかに今は何も感じないわね。これなら大丈夫かしら、私もやってみるわよ」
「やるって、手踊りを?」
「そうよ。1人よりも2人で思い出しながらの方が効率が良いじゃない。それにリトの事だから習うんじゃなくて自分流にアレンジするつもりでしょ。なにより2人なら組み手みたいな事もできるでしょ」
「まぁ、たしかにそうだけど・・・」
「ノブナガが目覚めない様に、私も足音立てないでするから」
「は~、もう駄目、もう疲れたわ」
「それはそうだよ。音を立てない動きって、勢いが付けられない分、体幹を支える力が必要だから」
「理屈はもういいわ、疲れたから、これで眠れそうよ。おやすみリト。明日も頑張ろうね」
「起こしてごめんな。ゆっくりおやすみ。」
明日の事もあるしそろそろ寝るか。とはいえ、元気を持て余してるのか、体を動かしていたので目がさえてしまってた。横になって考え事でもすれば眠れるかな? 前の世界では物語を考えると気が付いたら眠れたから、今晩も何か物語りを考えるか。
翌日は流石に寝不足で、中休みには何時もの木陰でウトウトと樹木に寄り添う。週休というか、定期休日と決めていた日で良かった。ここまで眠いとみんなに迷惑をかけてしまう所だ。
仲良し2人組のハン・セルが外出なので、ノブナガだけで兵士2人に稽古を受けている。教わる立場としてはちょっと贅沢な気がする。良かったなノブナガ。
カン! カカン!
若い兵士の木刀をノブナガが盾で受ける訓練をしている音だ。武器を使いこなせるチートスキルなノブナガは若い兵士の攻撃をいとも容易く受け防ぐ。完全防御、そんな言葉が合う姿ではあった。
しかし、重大な問題があった。前の世界では剣道といった武術の経験がまったく無いので体幹が弱いというか体捌きを上手く運べない。一言で言えばバランスが悪いのだ。
そんな折り、今日、修道院の庭仕事を手伝いに来てくれた兵士の若い方が、「攻撃を受け流し反撃出来る位にバランス感覚を養うのが一番だ!」と稽古の提案をしてきたのだ。
盾だって受け方によっては相手のバランスを崩す事が出来る。その技が身につくのなら幸いと安心して任せていた。
これが失敗だった。国に選ばれた兵士といっても様々だった。
完全防御な相手を好機に、遠慮無く木刀を叩き付ける。これはまるで虐めだ! 稽古では無い。
もう片方の兵士も分かってはいたものの、剣圧に押されて近づく事が出来ないでいた。
「やめろ~!! こんなのは只の弱い者虐めだ! 稽古なんかじゃ無い! 直ぐに止めろ~~~!!」
必死に叫んだが、止む気配が無い。稽古を止めさせる為に駆け寄った私に若い兵士は言った。
「おい少年、危ねえから下がってろ。こいつは俺と同じ『迷子』なんだろ。それなら強く成る目的があるはずだ。だから後輩の為に稽古をつけてんだ。分かったら邪魔をすんな。危ねえぞ」
『迷子』だって? それじゃこの若い兵士も異世界からの転生者って事か? ノブナガに兵士に、『秋の合』での演奏はクラシックの鎮魂歌だった。楽器や舞が似るのは有り得ても、演奏まで似るのは有り得ない。間違いなく曲を伝えた者も『迷子』だ。
おいおい、異世界人との遭遇率は高過ぎだろ! ってそんな事を考えてる場合じゃ無い。
「弱い者虐めして何が先輩様だよ。相手は子供なんだから手加減しろよ!」
「は? 子供だって? どうだかな。もしかしたら俺より年上かも知れねえじゃねえか」
まるで私の事を言われた気がしてドキッとした。
その焦りで、怒りで子供の口調にするのを忘れていたのに気がついた。落ち着け、私・・・。怒りに任せて喧嘩を売ってどうするんだ、私・・・。落ち着け落ち着け。
「ノブナガは見ての通りの子供です。それなりに稽古の仕方がありませんか!」
「だから、それなりに稽古をつけているんだろうよ。実践が一番の稽古なんだよ」
「だからって、やり過ぎじゃ無いですか!」
駄目だ。全然聞く耳持たねぇ。まったく、どこの『神様』だよ。こんな脳筋を転生させて、畜生。
「リトの言う通りです。もうお止めなさい!」
シスター・テレサが凜とした姿と言葉で場を押さえ込んだ。
「も、申し訳ございません。私の力不足でご迷惑をおかけしてしまい、誠に申し訳ございません」
年配の兵士は胸に手をあてて、必死に非を詫びた。しかし「テレサ様」なんては呼び方初めて聞いたな。
「おい若いの。おまえも謝れ。今なら間に合う。ほれ早くしろ!」
「ただのシスターに何が出来るというのですか」
「いいから言う通りにしろ」
「いいや、承服できませんねぇ。神様に大魔女を倒し呪いを解いて、この世を平和にする為にと力を与えられたというのに、この世界に来た途端に拉致られて、あげくには塀の外でずっと畑作業させられたんだ。黙っていられるか」
「そうですか、分かりました。それでは若い兵士よ、貴方の稽古は私が致しましょう。どうぞ遠慮無くかかっいらっしゃい」
シスター・テレサはスカートのポケットから、多分太腿に携えていた、鞘付きの短剣を取り出した。
「そんな短剣を持ったからどうだってんだ」
そう言いながら何度か木刀を振り下ろす姿は鋭かった。鍬を剣と想定して相当な鍛錬をしたのだろう。不満があって口は悪いのだろうが、世界を守るという意思の強さは感じ取れた。
「さぁどうぞ」
「おう。手加減はするが怪我させちまったらごめんな!」
若い兵士が振りかざしたと思った瞬間、脇を中心に前転して背中から倒れ込んだ。
何が起きたか速すぎて見えなかったが、シスター・テレサの後の姿から合気道の様に投げ飛ばしたのでは無いかと想像するしか無い。
背中を打ち付け咳き込む兵士に、追い打ちを掛ける様に、テレサが短剣を喉元とみぞおちに押しつけた。
「実践ならこれで終わりですが、続けますか?」
気圧されたのか、毒気を抜かれたのか、兵士は直ぐさま降参した。
「俺が悪かった。討伐の為に直ぐにでも旅立ちたいのに、ここでずっと足止めされて苛立ってた。すまない」
「私はそういう素直な貴方が好きですよ」
と、立ち上がる手を差し伸べ、兵士は照れながらも手を借りて起き上がった。
「2つ程、訂正しましょう。1つは、体験した通り貴方が弱いから庇護しているのです。もう1つは貴方が畑作業をして下さるから、この国は潤っているのです。ありがとう」
若い兵士は頬を赤らめたまま、チラチラとシスター・テレサを見ながら、年配の兵士と一緒に去って行った。
「フフフ。テレサって、罪作りな女よね」
にこやかなシスター・レミアとクレハが遅れて来た。まったく、レミアって直ぐ恋バナにするんだから、困った人だ。まぁその仕草がなんとなく可愛いんだけど。
「ほらほらリト、早くノブナガを介抱してあげて。怪我は無いでしょうけど、腕はそうとう痺れているはずよ。それとも、リトもテレサの立ち振る舞いに惚れちゃったのかな。テレサって剣を持つと凄いからね」
「え~リトって、テレサにほれちゃったの。リトにはアリアがいてくれるのに~~」
「え~リトって二股掛けちゃうんだ。罪な男の子ね」
「ね~、罪づくりだよね~」
異世界の転生・転移の者との遭遇と、テレサの強さと、塀の外には農場がある事と、沢山の考え事が混ざりこんでいて困惑している真っ最中だが、こうもステレオチックに揶揄らたら放心している場合じゃ無い。急いでノブナガを手助けする格好で逃げ出した。




