072 (閑話)2回目の最期
今の私達に合う『お手伝い』をシスター・レミアに選んで貰う様にお願いした。
最初の『お手伝い』は特に技術を要しない草むしり。初夏の様な陽気的なので雑草が目立ち始めている頃だ。
行き先は大得意様の老夫婦が暮す家。詳しい事は依頼主に従えば良いという。
さて、草むしりは地味に体力が必要なので、クレハは留守番として修道院の作業を任し、私とノブナガの2人で出かける事にした。
嬉しくも恥ずかしくも、シスターや孤児のみんなが送り出してくれたがこそばゆい。
「ノブナガと僕は、外で頑張ってくるから、クレハはここで待っててね」
「やだやだやだ。クレハはリトと一緒にいるの。一緒じゃなきゃ駄目なの!」
いつまでも一緒にいられるか分からないし、ここでの生活もそう遠くない内に別々で暮す時が来る。
それならば私とクレハも距離を取るのにいいタイミングだと考えていた。
「大丈夫だよ。直ぐに帰ってくるから、いつもみたいにおとなしく待っててよ。シスター・レミア。迷惑かけてごめんなさい。クレハをお願いします」
そう言ってから「さぁ行こう」とノブナガの手を引いて出かける。
クレハが呼ぶ声に罪悪感を感じながらも、お手伝い先へ向かう。
門に差し掛かった辺りで、静かになったからもう諦めただろうと思った矢先に、少女達の悲鳴が聞こえた。
あまりにも尋常じゃない悲鳴の元へ慌てて駆けつける。少し遅れて信永も追いついてきた。
辿り着くと、思わず自分の目を疑いたくなる光景が飛び込んできた。
さっきまであれほど騒いでいたクレハが、地面に人形の様に横たわっている。
その横でシスター・レミアが顔を真っ青にして座り込んでいる。
子供達はどうして良いのか分からず立ちすくむ。
私に気が付いたアリアが駆け寄って震えながら伝える。
「クレハちゃんが、クレハちゃんが、、、急に倒れて、、、」
原因は分からないが、先ずはクレハを何とかしないと。と慌てて、左手の指先を舐めながら駆け寄る。
近寄ると、シスター・レミアは言葉を失いながら蒼白な顔て私を見つめる。
クレハが抱いた胸の中で倒れ込んだのた。そうとうに気が滅入っているのが見て取れた。
シスター・テレサが私に気が付くと
「回復が、回復が効かないの。」
と泣きじゃくりながら訴える。
いつも凛とした態度のテレサの顔が涙でぐしゃぐしゃだ。初めて見る表情に深刻な状況を感じ取れた。
直接な原因は分からないが、クレハが卒倒した事だけは解った。
湿らせた左の指先をクレハの口元に添える。息が掛かる感触は無い。
喉になにか詰まらせたのかと思い、取り急ぎ胸に耳を当てる。心音が感じられない。
一旦口の中を見て、何も詰まっていない事を確認したら、クレハのおでこを押さえ顎が上になるようにして、
「気道確保」と呟きマウスツーマウス法を行い胸骨圧迫を行う。周りが騒がしいが聞いている状況では無い。
今初めて救急救命講習で習った人工呼吸と心臓マッサージを行う。
卒倒が原因不明な場合は不用意に人工呼吸は行っては駄目だ。口移しで感染症を罹患する危険が有るからだ。それに人工呼吸は意外と難しい。
だから救急救命講習で習った時は、救急隊員が来るまでの間、気道確保したらひたすら心臓マッサージを行う方を教わっている。感染のリスクが低いのはもちろんの事だし、心臓マッサージの勢いで幾らかは肺の収縮も起きるので軽い呼吸の代わりにはなるだろう。
救急隊員に引き継げは蘇生の道具も揃っている。蘇生率も高い。
というのは現代社会での話し。
この世界には救急隊員は居ない。仮に居たとしても回復魔法を使える冒険者くらいだろう。探す余裕など無いし、シスター・テレサの回復が駄目なら、正直な所、他に術はない。
一縷の望みを託し、以前の蘇生方法、人工呼吸2回、心臓マッサージ30回、一旦確認。と何度も繰り返す。
私的には長く感じられた時の末、突然のクレハの咳き込みに、安心したと同時に力が抜ける。
「良かった~。蘇生できた。」とホットする。
咳き込みながら立ち上がるクレハは睨みながら右腕をかざす。
そのまま私の頬に右ストレートが突き刺さり、その勢いで膝に倒れ込み泣き崩れる。
もう何が起こっているのか考える気力は無い。とりあえずはクレハが目覚めたので良かったと思う。
ただ、状況は回避できたものの、クレハをこのままにはしておけない。
これからお手伝いの仕事なのだが、依頼をキャンセルするのは、信用の問題が起こる。
大得意様だ。事情を説明すれば許してくれるだろう。
しかしこの依頼は修道院が受けたものであって、私が受けたものではない。現実社会でも企業なら代理人で対処するのが普通だろうと考える。
社畜精神に浸食されたままの私には、組織の信用は重要だと考えてしまうらしい。
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お手伝いの件は無事に済んだものの、これを期に私達の生活が大きく変わってしまった。
現代社会での『救急救命方法』を試みた失敗で、みんなには『蘇生魔法』が使えるとして勘違しされて広まってしまったのだ。
いつの間にか『生き仏』というか、『尊敬』と『崇拝』と『疑念』と『嫉妬』と『恨み』を込めた視線を受けることになってしまい、国の人達からは『何故家族は助けないのだ!』と妬まれる。
修道院長を始め修道士達により、私達は行動を制限されて、外部の人達、国民との接触が禁じられてしまった。要は軟禁状態だ。
とても居心地が悪かった。孤児のみんなとも距離をおかれてしまう。孤立してしまった感じがとても苦しい。
そんな苦しみの中、以前、行商人からの噂『国の西方にあるスラム付近の塀には亀裂が有り心配だ』という情報を思い出す。
噂の真偽は不明なモノの一縷の望みにと、この国から逃げて何処か小さくて良いから村に移り住め無いだろうかと浅はかにも考えて逃げ出してしまったのだった。
行き先も解らずに彷徨っていると、突然、首に激しい痛みが走り、途端に大地に何度も叩き付けられて四肢の自由を失ってしまった。
その後は、叩き付けられた全身の軋みの激痛と、息が出来ない苦しみと、腹を割く鈍い音に悶え、大地は生温かいのに体の芯が凍えながら意識を失った。




