069 洗濯の風景その1
あれからシスター・レミアと相談できるタイミングを待った。
当然だが、サプライズの為にアリアの目の届かない機会を探していた。しかし修道院内は広いとはいえ、目が届く範囲には誰かが居て、シスター・レミアと2人きり、いや4人になれるチャンスは無かった。
出来れば早い方が良い。引き延ばせばその分状況が悪化する。ならばどうしたら良いだろうか?
手紙を渡して図書館の裏にでも呼び出したら良いのだろうか。これだと学園物のお約束な告白タイムではないか。かなりベタ過ぎだし、そもそも手紙なんて、書く物も書かれる物も手元に無い。根本的に無理だった。
そうやって機会を探していたある日、アリアが院の外へ出かけたタイミングがあった。私とクレハと同じ位の姉弟を連れて行ったのだ。
姉弟の名は・・・何だっただろうか? 食事以外では顔を合わせる事も薄く、会話は殆どした事が無いから名前が思い出せない。本当に人の名前を覚えるのが苦手だなと情けなくなる。
アリア達の目的は分からなかったが、それは今は関係ない。シスター・レミアと話すチャンスが出来たと思った。
丁度、朝食の片付けをシスター・レミアと3人で行っていた。
残りの皆はというと、天気が良かった事も有り大がかりな洗濯をしている。普段はタオルというか殆ど雑巾みたいになっているが、その布拭きを洗濯している。
そして今日は月に1・2度の、着替えをまとめて洗濯する大がかりな日だ。
3人組の少女が灰汁の水桶で足踏みで洗濯し、別の真水の水桶で、これまた足踏みでススギをしていた。スカートをたくし上げて行う姿は、ワインを作る際のブドウ踏みをしている可愛らしくも華やかさがあった。
脱水はノブナガが受け持っているが、脱水機が昭和の洗濯機に付いていたローラー式に似ていた。たしか手回し脱水って言っただろうか、懐かしくも子供の頃を思い出す。
そして背が高いハン・セルが干すのを担当していた。
兵士達が手伝ってくれれば干すのはもっと楽なんだけど、洗濯物には修道服、そうシスター達の下着も含まれているから、自粛してくれているだろう。今日は来ていなかった。
着替えがあるとはいえ洗濯回数が少ないのは、現代社会では不衛生とか思われても仕方が無い。しかしだ、そもそも潤沢に使える水が少ないので着替えという大きな洗濯はそうそうできる事ではない。
院内には井戸があるから水量の問題は無いだろう。とか思わないでくれ。
井戸の汲み上げは1階から2階へバケツで運ぶのに近い。例えば、各家庭にある洗濯機の容量を50Lとしよう。洗濯とススギで合計100Lを運ぶんだぞ。それに洗濯が終われば流さなくてはならない。同様に100Lの水を運ぶ。合計200Lを運ぶのは大人でも重労働だぞ。子供でどうこう出来る量じゃ無い。結局はまとめ洗いになるのは当然だと思う。
それに洗濯機が開発された理由って知ってるか? 洗濯って家事の中でトップに上がる重労働だぞ。その苦役から解放するのが目的だったんだ。
それ程に洗濯は大変なんだ。というのを知って欲しい。ボタンを押せば乾燥までしてくれる現代社会とは違うんだ。
そんな大がかりな洗濯中なら私達の会話は聞こえても耳に残りはしないはずだ。これは千載一遇だと思って片付けが終わり次第問い掛けた。
「あの、シスター・レミア。僕達にできる『お手伝い』は有りませんか?」
「いきなりどうしたの? 『お手伝い』なんて」
「僕達、欲しいものがあるんです。だからお小遣いが必要なんです。『お手伝い』すれば貰えるって聞いたので、僕達にできるのがあればお願いしたいんです」
洗濯組が頑張っている内に話しを終わらさなければと、単刀直入に問いかける。
「なぁに? リトは何が欲しいのかしら」
「あ・・・アリ・・・あ、え~と・・・」
話す事を何度もイメージしていたのに、いざ言葉にしようとしたら、急に恥ずかしくなってドモっってしまった。
「あのね、あたしたち、アリアにお礼したいの。贈り物したいの。でも何を上げていいのか、分からないの。シスター・レミア、どうしたらいいのかな? おしえて~」
「あらあら、クレハはどうしてお礼したいの?」
「んとね、いっぱいお世話になったから」
「お世話なんてしてたかしら? お仕事と言っても皆が受け持つ役割だから特別な事じゃ無いわよ。クレハ達も食事の片付けおわったよね。これもまた、みんなが受け持つお仕事だから気にしなくていいわよ」
「でも~・・・」
あえて子供言葉を使っているクレハでは、話しが堂々巡りしそうだと思った。
もっと大人な会話はできるが、そうすると『迷子』という異世界人な扱いになって気難しい事になりそうだからと、もっともっと子供口調になるようにと何度も同じ事を自分に訴えている。クレハは中々の演技派だけど、私の方はちょっと妖しい。
クレハの頭を軽く叩いて「バトンタッチだ」という意思表示して話しを代わる。
「僕達のお世話をしてくれたのは、担当や役目だというのは何となく分かってた。だけど、ここに着てから色々な事を教えて貰ったし助けて貰ったんだ。義務だからとか、当然の事、ではなくて、素直に僕達の気持ちを、お礼を伝えたいんだ」
「それなら、素直に「今までありがろう」って良いんじゃ無いかしら?」
「言葉でのお礼も考えたけど、無味乾燥しているというか、僕達も気持ちが通じにくいと思ったんだ。だから贈り物をする方が、ずっと、ずっと僕達の気持ちを汲んでくれると思うんだよ!」
シスター・レミアは悪巧みを思い付いたって感じな表情で、私達、というよい私と見つめる様になった。
「ふ~ん。そっか。リトは大切なアリアに心を込めて贈り物をしたいのね。なんて愉しそ・・・なんて素晴らしい事なのでしょう。そういう事ならわたし頑張って応援しちゃうから」
口調が徐々に女学生の恋バナする様になり、好奇心でいっぱいな表情になったのに気付いた。
「お礼をもちかけたのはクレハだよ。僕とノブナガはクレハの気持ちに応援しようって事にしたんだ」
つい恥ずかしくて「クレハがしたいから協力するんだ」と答えてしまった。本音を伝えるのは恥ずかしくて勇気が必要だった。先日、ノブナガに失礼な考えたなって思ってごめん。と心の中で謝った。
「それからシスター・レミア。この事は内緒にして欲しいんだ。サプライズで贈りたいんだ。噂や前情報があったら変に期待させすぎてガッカリ、ってなったら嫌なんだ。だから修道院のみんなには内緒だよ!」
「もう、リトったら、もっと素直になりましょうね。好きな娘に悪戯する男の子になってるわよ。観てる・・・見守るたちばとしては愉しませて欲しいわ」
「へ、今なんていいました?」
「全力で応援して見守るわよ。って言ったつもりだけど、なんか変だったかしら」
恋バナが好きそうだとは思ったけど、こうも食いつくとは思わなかった。あとは『秘密』の共有を交わす事だな。
「失礼だなって考えてるけど、贈り物をする時にシスター・レミアには傍にいて貰って僕達を気持ち的に支えて欲しいんだ。それまでは秘密にするんだけど、僕達が『お手伝い』に言ったら勘ぐる子も出てくると思うから、その時は「紙とペンが欲しいから」と言う事にしておいて。何時も本を読んでるから、変じゃないよね」
「ほんとう! 告白タイムに同席させてくれるのね。嬉しいわ。全力で協力するから期待してね!」
「ところで参考にしたいんだけど、シスター・レミアだったら何を贈ったら喜ばれると思うでしょうか?」
「駄目よリト。こういうのに答えなんて無いんだからね。今できる精一杯の物を贈るのが一番よ。『お手伝い』しながら外の街を長めながら考えると良いわ」
女心ってめんどくせぇ・・・と、つい溢しそうになった。しかし直ぐに決めるんじゃなくって、街の人を観察しながら考えるのもありか。
「それじゃ、リト達向きの『お手伝い』が見つかったら先に声を掛けてあげるわね」
「よ、宜しくお願いします」
「あ、ありがとう、ございまつ」
ノブナガが欠席した作戦会議になってしまって、心苦しいが、シスター・レミアが全面協力するから大丈夫。と伝えれば大丈夫だろうか。
「お~いリト~。厨房が終わったら洗濯手伝ってよ。この脱水機はかなり力がいるんだ。手伝ってくれ~」
「分かった~。今すぐ行くよ」




