051 『迷子』と呼ぶ理由は?
日が陰り始めた。もうすぐ夕食の時間になる。
配膳の手伝いがあるのだから、そろそろ、誰かが呼びに来てもおかしくない頃合いだ。
それとも、私の方から厨房へ向かわなければならなかったのだろうか? 私とクレハだけなら徒労だとしても厨房へ向かいべきだと思う。しかし今は信永が居るし、残して独りぼっちにするのはマズいだろう。
それに、シスター・レミアは「呼びに来るまで待ってて」と言っていたと思う。まぁ信永の返事からの推測ではあるけども。
「信永お兄ちゃん。シスター・レミアは何てお話しして帰って行ったの?」
裏付けを取る為にあえて問い掛けた。しかし慣れない話し方はむず痒い。
背中がからプルプルと伝わる振動から、クレハが私の後ろで声を飲み込んでいる笑っているのが分かった。流石に恥ずかしい。
「信永、で良いよ。リト君にクレハちゃん」
「あ・・・、僕もリトで良いです」
「クレハ、で、いいよ」
改めた自己紹介が終わった所で、話しを続ける。
「レミアさんは「準備が出来たら呼びに来るから、それまで皆で待って居て」って言ってたけど、聞こえなかった?」
「うん。ちょっと遠かったから」
流石に嘘が下手だと思いながら答えたが、すんなりと受け入れた風だった。やっぱり見た目通りの年齢なのかな? 素直そうだし。
「あの~・・・信永・・・は、どうしてココに、来たの? 僕と同じ・・・事故に遭ったの?」
「事故? ん~・・・どうかな。オレ、気がついたら知らない所に居て、トキザミさんが馬車で、迎えというのかな。来てくれたんだよ」
馬車? ・・・さっき「馬車」って言わなかったか?
「迎えに来た人は・・・他に・・・いなかた? トキザミ様だけ?」
「他の人? ・・・うーん、騎士さんというのかな。馬車を守ってた感じの人、2人いたけど、なんで?」
きっと守衛室の脇で隠れていた時に見かけた馬車が信永を迎えに行ったのだろう。
柵板から覗いた馬車の、いや客車の装飾品は同じだった。野営する荷車が無かった事から間違いないと思う。
「あの~、気がつく前は、何をしてたの?」
「気がつく前? ・・・え~と小学校から帰ってたけど、それがなに?」
「その~、気がつく直前は・・・覚えてる?」
「直前? 変わった事を聞くんだね。・・・あれ? そういえば、どうしていたんだろう・・・」
『小学校』と言った。間違いなく言った。予想はしていたけど信永も転生者だ。中身は見た目通りの10歳程、小学校5・6年生だろう。
そして転生の原因はやっぱり事故に遭ったのだろう。下校時に何が起きたのか、までは予想出来ないが。
事故と言えば、私も自転車に乗っていて、気がついたら病院のベッドだった事がある。入院中に頭蓋骨骨折にくも膜下出血する程に大きな交通事故だったと教えて貰ったけど、私にはその事故の記憶がまったく無い。幸いにも痛みも思えて無かったのだが。
だから信永も直前の記憶が抜け落ちているのだと、容易に想像できる。
・・・って、転生されて直ぐに別の転生者とエンカウントとか、タイミング良すぎだろう!
まさか・・・メフィストが狙ってたりしてないよな。
そういえば、転生の物語では主人公って「事故に遭って死んだー」とか記憶残ってる事があるけど、アレって体が潰れても意識が有ったって事だよな・・・事切れるまでどれ程苦しんだんだよ! 残酷な事をするよな! 『神様』って輩は。
そうだ『神様』だ!!
「信永は、直前に『神様』に逢わなかった? 光輝いている人とか」
ぽかーん、とした信永は、相槌の様にぽんっと手を叩いて
「そうそう、3人いたよ。この世界が悪魔? 魔王? 邪神? ・・・え~となんだったかな・・・?。勇者になって苦しめられている人達を助けてあげて欲しいってお願いされてきた」
神様は『柱』と数えるんだよと突っ込みたくなったが、あえてスルーした。しかし3柱がご降臨なさるとはどれ程の事態が起きているんだ? この世界は。
「信永お兄ちゃんが勇者様。凄いね! 救世主様なんだね! ねえねえ、どんな能力や特殊技能貰えたの?!」
「お、お兄ちゃんは止めてよ、恥ずかしい・・・。え~と、
・どんな武器も使える。
・どんな魔法も使える。
・どんな道具も使える。
だったかな? 使い方、良く分からないけど。
それから、いろんな人の言葉が解る事と、アイテムボックス? っていうのかな。ゲームで言うフォルダーの様な能力って覚えたけど、これで正しいのかな?」
おだてて、囃し立てて、気分が良くなった所で情報を聞き出す作戦を咄嗟に行った。成功した・・・というよりは、信永位の年齢なら特別な力を授かったら自慢したい気分なんだろう。素直に答えてくれた。
この聞き出し作戦は殆ど意味が無かった。まぁ私だって立場が逆なら自慢したくてウズウズしているだろうから。
行動が噛み合わないというか、考えすぎて空回りばかりしている気がしてきたので、気になってる質問で最後にするか。
「なんで『迷子』って呼ばれたの?」
「あんでかな? オレもよく分からない。トキザミさんが現れて「迷子の信永君ね。お待ちしてました」って言ってた。なんで待ってましたって言ったんだろうね」
馬車の件から、予め信永の事を知っていた。と受け取るのが妥当だろう。
「ごめん、なさい。僕もよく分からないよ」
「いいやいいや、気にしなくていいから。リトじゃ分かる訳ないもんな」
簡単にまとめてみよう
間違いなく信永は、子供の転生者だ。人を脅かす魔王を倒す期待を過大に背負った背勇者様だ。『三柱の祝福』とか『共通言語』とかチートな能力を授かって羨ましいばかりだ。
そうそう、『迷子』はきっと異世界人を称しているのだろう。別に『迷子』にしなくても良いのに。と呟いてみた。
だけど、『転生・転移者』『異世界人』『有らざる人』『人外』『迷い込んだ人』等色々と敬称を考えてみたが、どれも威圧有る呼称ばかりだった。たしかに『迷子』の方が親しみは湧き易い。
コンコンコン。
ノックの音に慌てて扉を開く。そこにはシスター・レミアが立っていた。
「ご、ごめん、なさい。夕食、手伝い、忘れました」
別にサボるつもりは無かったが、悪い事をしている気がする。ここは先手必勝と考えて深々と頭を下げて謝った。
「大丈夫・・・、信永君と、いっしょ・・・くれて、ありがとう」
シスター・レミアはしゃがみながら、問題ないわ、と話し続けて、
「信永君、リトくん、クレハちゃん。早くおいで。夕食と歓迎会の準備ができてるわ。皆待ってるわよ」
と、半ば強引に手を引いて連れ出された。
なお、さっきの案内の言葉は信永に翻訳・・・じゃなくって、良く聞き取れなかったんだけど。と言って教えて貰った。




