閑話 その4(クルト)
「すごかったなぁ、トカゲさん」
村の隅で遊びながら、ちょっと前に村にやって来た大きなトカゲのことを思い出していた。村の外に出たことないから今まで知ってる動物は牛とかにわとりとか、そんなのばかり。トカゲだって小さいのしか見たことないから外に出たら牛とか馬とかみんな大きく育つのかなぁ。
……いいなぁフィノさんはいろんなところに行けて。
「おい、この村の村長はいるか」
「……お客さん?」
遊んでたらいつの間にか目の前に知らない人がいた。おじいちゃんから「ヨソモノには近寄るな」って言われてたのを思い出して急いで隠れようとしたら服のえりでつかまえられた。逃げられなくなってバタバタ手足を動かしても離してくれないからどうしようと困っているとパッと急に手が離された。
「そう怖がるなよ。村長に用があるんだ、案内してくれないか?」
そのお客さんは若いお兄さんで、何となく誰かに似てる気がした。
…………
お客さんを家まで連れて行く途中はいろんなことを聞かれた。村のおじさん達はいつもお仕事で忙しいからあんまりお話してくれない。けどお兄さんはこれから旅をするんだって、いっぱいお話してくれた。旅をする人なんてフィノさんみたいだ。
あっという間に家に着いたので扉を開けて中に向かって呼びかけた。
「おじいちゃーん、お客さんだよー!」
すぐに返事があったので振り返って笑う。そしたら何でかお兄さんがちょっとびっくりしてた。
「お前、村長の孫だったのかよ……」
「うん。おじいちゃんは村長さんで、クルトっていいます! 五歳です!」
「そうか……お前が俺の……」
お兄さんが変な顔でぶつぶつ言っている。どうしたのと聞こうとしたらおじいちゃんが来たので部屋で遊んでるようにって怒られた。お客さんと大事なお話がある時は近付いちゃダメだってみんな言うからまた一人で遊ぶことになってしまった。だったら外で遊びたいのに外は風が出てきたからダメだって。……いっつもお母ちゃんはダメダメばっかり! 一緒に遊べる友達が少ないのに外に行けないと会うこともできなくなる。
……もしお兄ちゃんやお姉ちゃんがいたら一緒に遊んでくれたのになぁ。きょうだいがいたら、と想像したらお姉ちゃんはフィノさんでお兄ちゃんがさっきのお客さんになってしまった。知ってる人の中でお兄ちゃんお姉ちゃんみたいな人は二人しかいないからだけど。
お客さんのお話が終わったらフィノさんみたいに遊んでくれないかな。お願いしてみよう。そんなことを考えながらひたすら積み木で塔を作っていると急に大きな声が聞こえてきた。
「あっ! せっかく作ったのに……」
最後の一つを積もうとした時大声に驚いてうっかり積み木を崩してしまった。今の声は誰なんだろう? 崩したのを元に戻すの手伝ってもらわないと!
声の聞こえてきた部屋に近づくと同じくらいの音量で話しているのが聞こえてくる。
「生きていたとは知らなんだが、今更何のつもりだ!」
「うるせぇ! こっちだって別に何の思い入れもねぇよ!」
「売ったことを恨んでいるのか? そんなもの、最初から村の人間として認められていないお前にそんな権利があるものか」
ケンカしていたのはおじいちゃんとお客さんだった。おじいちゃんがあんな風に怒るなんて初めてだから怖くて動けなくなる。じっと部屋の前で固まっていると静かになって、部屋を出て行こうとするお客さんと目が合った。怒られる、そう思ってぎゅっと目を閉じると頭に何かが乗せられた。
ゆっくり目を開けるとお客さんがしゃがんでいて、乗せられていたのはお客さんの手。そのままぐしゃぐしゃになるくらい撫でられた。おじいちゃんが怖い顔でこっちにこいって怒ってるけどお客さんの手つきはちょっと乱暴なだけで痛くないから逃げずにそのままにしていた。
「お前も一生村から出ないのか?」
「う、うん。みんなダメだっていうから」
「やめろ! 余計なことを吹き込むな!」
お客さんはさっき話してた「外に出てみたい」って言葉を覚えていた。聞かれたので答えるとお父ちゃんとお母ちゃんがでてきたので抱っこされてそこから離された。
みんななんでこんなに怒っているのかふしぎで訳が分からなくて涙が出てくる。おかあちゃんがぎゅっとしてくれるけど一度でてきたものは引っ込まない。
「もう帰ってください。迷惑なんです」
お母ちゃんがいつもより怖い顔で言うとお客さんの顔もすごく怖くなった。
「……言われなくとも。邪魔したな、二度と来ねぇよ」
扉の閉まる大きな音に身体がびくっと震えるとお母ちゃんが頭を撫でてくれた。みんなの顔がいつもの顔になる。最初から何もなかったように。
「クルト、今の人のことは忘れなさい。何を聞いても本気にしては駄目だ」
「今日はもう外に出ちゃいけません。おうちでおとなしくしてなさい」
おじいちゃん達がいろいろ言ってくるけど、実はお客さんが最後に撫でてくれた時に聞いた言葉は忘れない。駄目と言われても、やってみればいいって。
本当に出られるか分からないけど、大人になるまでのがまんだ。少しだけ大人になるのが楽しみになった。




