↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/93

第七十七話 竜を欺けば神まで

「何を言うんだ。それで今まで成り立ってきた村で急にやめられるものか!」


 戸惑いつつ怯えつつ、私の言葉に真っ先に反応して声を張り上げたのは村長だ。周りもそうだそうだと勢いづく。大人達の異様な様子に子供達は逆に私とドラゴンへ寄り添ってきた。


「第一何の権限があって決めた? 守り手だろうが何だろうが知ったことか」


 言い切って満足したのかフンと鼻息の荒い態度である。後で悔やむとは知らずに。

 私は精一杯の上品で優雅な作り笑顔を浮かべてその場で告げた。


「考えを改める気がないのであれば、この村は滅ぼされてしまうかもしれませんね」

「何だと!?」

「ドラゴン様は今まで言葉を伝える事も出来なかった為、いっそこの村そのものを滅ぼしてしまおうとされていたのです。それはあんまりだと思い、最後に悔い改める機会として対話する時間を頂きました。それを無駄にするつもりであればもう私に出来ることは……」


 雰囲気たっぷりに軽く首を振ることで絶望的な空気を作り出す。私も随分演技派になったものだと思いつつ村の危機であることを伝えた。本当にそんなことをさせるつもりはないけど目の前のドラゴンが何が出来るかは知らなくてもこれだけの巨体が身体を動かすだけで小さな村はひとたまりもないことは誰だって分かる。私の言葉が現実味を増して皆が顔色を悪くする中村長だけが悔しさを滲ませていた。


「やはり復讐のつもりか!」

「そんなつもりはありませんよ? それとも何も知らず全滅していた方がよかったとでも?」


 背後へ目線を送ると私の意図を察したドラゴンが一声、吠えた。

 聞いたこともない大音量に皆身体が竦(すく)みあがっている。どうやらドラゴンもこの茶番に付き合ってくれるようだ。


「この世の乙女は全てが儂が守るべき存在。人間同士の身勝手な欲で汚すのであれば見過ごせん」


 それっぽく言ってるけど要は「この世の女は全部自分のもの」だよねこれ。人さらいをやめさせる理由付けとついでにドラゴンへの報酬前払いのつもりで「女性の守り手」って肩書にしたけどよく考えれば女の子にとって一番危険な存在だったのを思い出した。

 一度口にした設定は今更変えられないから今後もこれで押し通すしかない。……ユーマと被ってるけど。


「本気で村を潰す気か! ……ですか!」

「儂を称え、崇めるのであればこれまでの行いは不問としよう」


 それにしてもこのドラゴン、ノリノリだ。何十人もの人間が顔色を変えて右往左往しているのが余程楽しいと見える。悪趣味だなぁ。

 このままドラゴンが自分で村長とこの村での扱いについて話し合ってくれるのならもう任せておこう。


「うう……儂らはこれから一体どうしたらいいんだ……」

「花を無理矢理手折るのではなく、大切にせよ。子を産み育てるという代えがたい役目を持つ故、望んだ者との間に望まれた子を」

「は、ははぁー!!」


 最初の横柄な態度は跡形もなく全員がペコペコ頭を下げている。……これだけ言い含めたら流石にもう人さらいはやめるだろう。完全にドラゴンの外見で脅しを掛けてるだけでちゃんと悪い事だと理解させたとは程遠いけど、こうでもしないと改めてくれないから今は仕方ないと自分を納得させた。


「これからは村であなた様の教えを伝えていきたいと思います。それで、お名前をぜひ……」

「名前は……」

「ふむ、教えてやるがいい。儂の名を口にする名誉を与えよう」


 そういえば名前というものはなくずっとドラゴン呼びだったのを思い出した。名前は無い、そう私が伝える前にすっかり機嫌を良くしたドラゴンが余計な事を言い出すのだから困った。

 じっとドラゴンを睨むとしてやったりと言いたげに笑っている。……無茶振りして私が困るのを見たいとかそういうところか。ほんと趣味悪っ!


≪精霊への名付けもある。前座にはよかろう≫

「誰が前座か」


 上の方で聞こえるじゃれ合いのようなものは無視して考え込む。名付けの経験は何度もあるけどこれでも毎回頭を悩ませているのに簡単に言わないでほしい。いっそドラちゃんだのドラ太郎だの付けてやろうと思ったけどそれで呼ばなきゃいけないのは自分だと思うと極端なものは躊躇(ためら)われた。

 けど、真面目にちゃんとした名前を考えてやるのも何だか悔しい。このセクハラ三昧で変態なエロドラゴンにぴったりなのは……


「……偉大なるドラゴン、シェド様です」

「聞いたか! 今後は儂の名の下に無法はせず生きることだ」

「も、申し訳ありませんでしたぁー!」


 私が決めた名を告げるととうとう地面に頭を擦りつけて土下座まで始まった。やり過ぎたかもしれないけどこれにて一件落着か。……隠れてまたやるかもしれないからヴェルト様にも時々見張ってもらわなきゃな。何とかボロを出すことなく堂々とした態度のままでシェドの背に乗り再び巻き起こる騒ぎの中、村を後にした。


「儂の名をつけさせてやったが、この名にはどのような意味があるのか?」


 飛び立ってから少しして、一息ついた頃。飛行中のシェドがふと私に話しかけてきた。やっぱり聞かれたか。その場の思い付きネームとはいえ嫌がらなかったから満足してるものかと思ったんだけど。


≪相対し、意味を込めてこそ名付けの力が発揮される。遥は黒竜に対しどのような意味を持たせたのか≫

「儂らのような人間の信仰ありきの存在にとって名とは呼ばれる度に僅かながらの力となる。だからこそ名付けを許されたお主は儂らにとっての特別でもある」


 重いよ! 頼まれたから付けただけの私にそんなプレッシャー掛けるの止めて。この後にも精霊二体の名付けが控えてるっていうのに迂闊な名前を付けられなくなるじゃないの。仕方なしにシェドの名の由来を説明した。


「シェドというのは、男らしいとか雄々しいって意味があります」

「ほう……中々悪くない。お主に任せて正解だったわ」


 分かりやすく機嫌を良くしているから単純だ。喜んでくれたのはいいけどだからって曲芸みたいな飛行はやめて! 結界で風の影響がなくなっても揺れない訳じゃないんだからジェットコースターに乗ってるような気分になってくる。目的地まではシェドの速さならそう掛からないし場所も伝えてあるから束の間の休息として彼の背の上で横になった。


≪……遥に一つ問おう≫


 その瞬間嫌がらせのようにヴェルト様が話しかけてきた。タイミングを狙ってるんだろうかこの神は。渋々顔だけで反応するとシェドの方は真面目に飛んでいるから今回は私の脳内にだけ話し掛けているらしい。シェドに聞かれないように話しかけるなんて何かあったのだろうか、不思議に思いつつ言葉の続きを待つ。


≪黒竜の名は、どのような意味を持つ≫


 ……今更何を聞いてくるのか。やっぱ話聞いてないのかと呆れ混じりでさっきと同じ内容を説明するのだけどどうも納得がいってないようだ。


≪遥が企み事を考えている時の表情をしていたのでな、その意が知りたい≫


 ……まさか気付かれると思わなかった。私の表情より世界を見ましょうよ、と言いたいけどその突っ込みは後回しだ。いつもよくやる神秘的スマイルを作ってしらばっくれる。


「意味は説明した通りですよ。私嘘なんてついてませんから」

≪……そうか、ならばよい≫


 幸いなことに深く追及はされず話はそれで終わった。


 そう、嘘はついていないのだ。ただ意味を拡大解釈しただけで。

 シェドの名前はアルファベットで『Shed』と書く。

 セクハラ・変態・エロ・ドラゴン

 それぞれの頭文字から取って名前にしたのだ。ある意味誰よりも男らしいというのは間違っていないから嘘にはならない。散々セクハラで困らせられたちょっとした意趣返しで付けた名前だけど、ヴェルト様と過ごしてから隠し事は何もしていなかったのに思わぬところで秘密が生まれてしまった。

 ……折角だからこのまま黙っていよう。大したことじゃないけど何でもお見通し状態なのはちょっと悔しいし。何も知らない上機嫌のシェド、何か震えてて落ち着かないユーマ、相変わらずのヴェルト様。そして私の奇妙な一行は次の目的地を目指す。

 次は水の精霊の住処。移動の苦労は無くなっても別の苦労をしそうなメンバーだけどまだまだ旅の先行きは長い。

 できれば次は何のトラブルも起こりませんように、ひっそりと込めた願いは果たして叶うのか。それは神でも分からなかった。


第三章 私と精霊 終

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。