表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/22

封印完了

「化け物め! 焼け死ね!」


 大家さんが叫ぶとおじいさん達がボロボロになった木箱を燃え盛るドラム缶に放り込んだ。


 高音と低音が混じった悲鳴……

 これは人間じゃない……

 本当に化け物なのか?


 火の中で暴れる化け物をおじいさん達が斧や鎌で押さえつけている。

 すごい……

 高齢者とは思えないくらい勇ましい。

 やっぱりここは普通の集落じゃなさそうだ。

 大家さんが『ウメちゃんはずっとあの木箱を見張ってた』みたいに話してたよな。

 まさか……

 この集落は木箱の中の化け物が暴れないように見張る場所?



 ……五分くらい経ったか?



 おじいさん達は化け物がドラム缶から出てこないように斧と鎌で押さえ続けている。

 すごい体力だ……


「まだ終わりじゃない……」


 俺に麦多を抱かせると長谷川が立ち上がった。


「長谷川……何をするんだ?」


 さんざん振り回されたんだ。

 もう『長谷川さん』なんて呼ばないからな。


「こいつは化け物だ。この程度では殺せない」


「……そんな。でもどうすれば……」


「もうひとつの桐の箱……」


「蔵にあるやつか?」


「あれに入れて封印する」


「封印? そんな事ができるのか?」


「やるしかない! これ以上被害者を出さない為にも!」


「……あの化け物はお義母さんを引きずり込んだ。ノドカの心も傷つけた……俺も運ぶのを手伝うよ。ウメちゃん! 麦多を頼む!」


「兄ちゃん! しっかり頼む! あの化け物は夫の仇なんだ!」


「……え? 旦那さんの仇?」


 この集落で一体何があったんだ?

 麦多をウメちゃんに膝枕させると大家さんの蔵に走る。


「この桐の箱だ! よし。中に封印の紐も入っている。反対側を持ってくれ! 骨折してるけど大丈夫か?」


 封印の紐?

 って事は箱じゃなくて紐の方に封印の力があるのか?


「大丈夫だ! 長谷川、走れるか?」


「当然だ!」


「まったく。長谷川は偉そうだな」


「田村さんは、たくましくなったね」


「『さん』なんかつけなくていい。毎日麦多に付き合わされたからな。これからは長谷川が遊んでやれ!」


「言われなくてもそうするさ!」


 二人で持ってもかなり重いな。

 ただの桐の箱じゃなさそうだ。

 あぁ……

 腕が痛い……


 フラフラになりながらなんとかドラム缶の横まで運ぶと倒れ込む。


 もうダメだ……

 動けない……


「よし! 皆! 化け物を桐の箱に封印するぞ!」


 大家さんが叫ぶと鎌や斧が刺さったままの化け物が桐の箱に放り込まれた。


 一瞬しか見えなかったけど……

 ……想像より小さかったな。

 ノドカと麦多を木箱に引きずり込もうとした腕とは全く違う生き物だった。

 白くてツルッとした感じの……

 あれは何だ?


「蓋を被せろ! 封印の紐は!?」


「こっちにある! 早く蓋をしろ!」


 おじいさんとおばあさん達……

 かなり慌ててるな……


「急げ! まだ動いてる!」


 ……え?

 嘘だろ。

 まだ生きてるのか?

 

 蓋を被せると同時に化け物が暴れ始めた!?

 おじいさん達と長谷川が必死に蓋を押さえつけてるけど……

 ダメだ。

 蓋が開けられそうだ……


 なんとか立ち上がると俺も蓋を押さえつける。

 なんだ?

 すごい力だ……

 あり得ないだろ。

 男七人で押さえつけてるんだぞ?

 

 ……ダメだ。

 もうこれ以上は……

 蓋の隙間から白い何かが出てきそうだ……


「婆さん! 早く紐を結べ!」


 大家さんが叫んだ。

 

「分かってる! 皆腰が曲がってるんだ! もう少し辛抱しな!」


 おばあさん達が紐を結ぼうとしてるけど……

 皆百四十センチくらいしかないから上手くいかないのか……


 もう他に動ける人はいない。

 麦多を抱えてこっちを見てるウメちゃんと目が合ったけど……

 ウメちゃんは集落の女性の中で一番小さいからな……


 いや……

 違う……

 もう一人いるだろ……


「ノドカ……ノドカ!」


 ダメか?

 ぼんやりこっちを見てるけど……

 ノドカなら……

 あの頃のノドカならやってくれる!


「ノドカ! この紐を縛ってくれ!」


 頼む!

 一瞬でいい……

 一瞬だけでいいから……


「ノドカ! ……女王様っ! どうかこの下僕の願いを叶えてくださいっ!」


 恥ずかしい……

 でも……

 興奮してきたっ!


「早くこの紐で縛ってくださいっ! ノドカ様っ! 世界一……いや、宇宙一のリガー!」


 うわ……

 皆……

 驚いた表情で俺を見ないでくれ……


 ノドカはずっと無表情のままだ。

 やっぱりダメか……?

 もうノドカには俺の声が聞こえないのか?


 いや……

 諦めるな……

 もし封印に失敗したらノドカも化け物に喰われるんだぞ……

 ダメだ……

 それだけは絶対にダメだ!

 

「お願いです! ノドカ様にしかできないんです! この広い世界でノドカ様にしか縛れないんですっ! どうか縛ってください! 約束したじゃないですか……俺だけの女王様になってくれるって! いつでも縛ってくれるって!」


「……俺だけの……女王様……?」 


 ……ノドカの口が動いた?

 離れてるから声は聞こえなかったけど……

 なんて言ったんだ?

 でも俺の声が届いたって事だよな?


「女王様っ! お願いですっ! どうか縛ってくださいっ!」


「……はあ!? 誰に命令しているんだい? この豚がっ!」


 ……!?

 ノドカ……

 あぁ……

 ノドカ様っ!


「ノドカ様が俺の元へ走って来る!? あの女王様が走るなんて……あぁ……脳裏に焼き付けて百億回再生しないとっ!」


 あぁ……

 俺だけの女王様……


「俺だけの女王様がおばあさん達に『この辺りで結んで欲しい』と頼まれているっ!」


 桐の箱の大きさを触りながら確認してるのか?

 やっぱりノドカ様には『箱』が見えないみたいだな。

 くうぅ!

 俺も縛り上げて欲しいっ!


「あぁ……興奮が止まらない……俺だけの女王様っ!」


「……田村ちゃん……心の声が口から出てるぞ……」


 大家さんが呆れた表情で話しかけてきた。


「ノドカ様っ! あぁ……早く俺を調教してくださいっ! 桐の箱の分際でノドカ様に縛られるなんて! 赦せないっ!」


「「……」」


 おじいさんとおばあさん達が無言で見つめてくるけど……

 そんなのは気にしないっ!

 

 皆の冷ややかな視線を浴びながら、俺はノドカ様の紐さばきに見惚れていた。


 

 そして封印は完了した___



 ノドカ様は紐を縛り終えると倒れるように眠りについた。


 完璧に縛り上げられた桐の箱を見て集落の人達が言葉を失っている。

 複雑に絡み合う紐……

 縛り方の名称は分からないけど……

 芸術作品のような美しい仕上がりだから皆が感動するのは当然だ。


 あぁ……

『俺だけの女王様』は宇宙一のリガーだっ!

次回最終話です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ