庭付き一戸建てが月々その家賃っ!?
「孫の麦多だ。麦が多いで麦多。ははは! 元気いっぱいだから年寄りだと遊び相手にならなくてなぁ。骨折してるのに暴れるから心配で」
大家さんが嬉しそうに話してるけど……
「……え? 骨折? 俺と同じですね」
年寄りだと遊び相手にならない?
ご両親が仕事中、預かってるのかな?
「神奈川に泊まりで遊びに行った時に骨折してなぁ。あの時は大変だった。しばらくあっちで入院する事になって……今も通院してるんだ」
「神奈川? 俺も神奈川に住んでたんです。すごい偶然ですね。大家さんが付き添いをしてるんですか?」
さすがに広い神奈川で俺と同じ病院って事はないよな。
「あぁ……麦多の両親はなぁ……まだ麦多が一歳になる前に事故死してなぁ」
「あ……そうでしたか……」
……俺と似たような境遇なんだな。
「この家は元々俺と婆さんで住んでたんだけど、娘夫婦が住んでた家に引っ越したんだ。新築の方が住みやすいからなぁ」
「そうだったんですね……」
「あ、じゃあ早速今月分をもらっていくか」
「はい。十二万ですよね。今財布から……」
木箱にもらった現金があって助かった……
「ん? 一万だぞ?」
「……え? 一万? 何がですか?」
「一か月一万で一年で十二万だ」
「……はい!? ちょっと待ってください! 安過ぎますって! これだけの庭と家なのに!」
「いいんだいいんだ! 誰かが住んだ方が傷まねぇからなぁ。ははは! 本当はタダでもいいくらいだ!」
「タダ!? 絶対ダメですっ!」
大家さん……
太っ腹過ぎるって……
「で? 荷物は明日送られてくるんだってなぁ。引っ越しは手伝うから時間が分かったら言ってくれ。骨折してるから大変だろ?」
「え? 明日荷物が?」
「長谷川さんが言ってたぞ。『恥ずかしがりやだから引っ越しの手配をしておいた』って。とりあえず荷物が届くまでなんとかなるように色々準備しておいたからなぁ」
「え!?」
あのアパートには勝手に触られたら困る物もあるのに……
「いやぁ……至れり尽くせりだなぁ! ははは!」
「至れり尽くせり?」
長谷川に未来を決められてる気がする……
……あれ?
木箱じゃなくて長谷川に?
……変じゃないか?
箱守は木箱に命令されてその通りに動くんだよな?
どうして俺は長谷川の意のままに動かされてるんだ?
「うわあぁ! 中もすごい! 畳だ! うわ! 鹿の頭!? こんなのテレビでしか見た事ないっ!」
こんなに広くて月一万なんて……
田舎は最高だ!
「ははは! 俺の父ちゃんは猟師だったんだ」
「猟師? すごいですっ!」
「ははは! じゃあ夕飯は家で用意するからなぁ。近所の奴らを呼んでお祝いだ!」
「お祝い?」
「この集落には若い奴がいなくてなぁ。田村ちゃんみてぇな若い世代が来てくれて嬉しいんだ。なんてな……酒飲みの理由にはちょうどいいだろ? ははは!」
田村ちゃん……?
「……酒飲みの理由ですか?」
「理由がねぇと婆さんがうるさいんだ! ははは! 田村ちゃん酒は?」
「好きです……でも最近は仕事が忙しくて全然……」
「そうか。都会もんは大変だなぁ。今日からは飲み放題だ! ははは!」
毎晩誘われそうだな……
「あの……本当にお邪魔していいんですか? 『社交辞令で言ったのに本当に来た』とか……ないですか?」
「ん? ははは! 本当に田村ちゃんは恥ずかしがりやだなぁ! 社交辞令なんてこの集落にはねぇから安心しろ!」
安心……か。
でも……
田舎暮らしはプライバシーがないって聞くよな。
いきなり近所の人が入ってきたり外から覗いてるとか……
本当にそんな事があるのか?
大家さんを見送ると家に入る。
こんな広い家に独りなのか。
ノドカ……
今頃どうしてるかな?
ここで一緒に暮らせたら……
でも俺は木箱にも悪い奴らにも狙われてるから無理だよな。
あ……
鍵をもらってない。
どうしよう。
これじゃ出かけられない……
夕飯に誘われたのに……
……!?
……え?
居間のこたつにおばあさんがいる?
大家さんが用意してくれた急須で勝手にお茶を淹れて飲んでるけど……
もしかして……
座敷わらし!?
かなり小さいし!
……って、そんなわけないか。




