44 急ぎの知らせ
美味しいデザートとお茶を楽しんだシャンテルたちは、自由時間の終わりに合わせて宿に戻ってきた。すると、宿屋の前で出発の準備を始めているにしては、遠目からでも騒がしい騎士たちの様子が見えた。
一人がシャンテルたちが戻ってきたことに気付くと、その奥から一人の騎士が飛び出してくる。
「シャンテル王女!」
サッとシャンテルの前で跪く。彼は王城で留守を任せていた筈の第二騎士団の一人だった。
「どうして貴方がここに?」
尋ねるシャンテルに騎士は敬意を簡潔に話す。
話によると昨日の朝、ギルシア王国から早馬で使者が書簡を届けに来たと言う。その内容はアルツールの他にもう一人、王女の婚約者候補に立候補させるためにギルシア王国から人を送るといったもので、使者が出発した直後にギルシアを出発しているのだと言う。
「婚約者候補……」
シャンテルは思わず息を呑む。“婚約者候補”ということは貴族か王族を送る、と言うことだ。
「おい、ギルシアから来るというソイツは誰だ」
宿に戻って来ていたらしいアルツールが後ろから口を挟んでくる。
「ウラジミール第二王子とのことです」
「第二王子が?」
アルツールは以前、公務を第二王子に任せてきたと言っていた。その王子が何故? と疑問が浮かぶ。
チッとアルツールが舌打ちする。
「もう少し待てと言ったのに。……あのバカ親父」
小さく呟かれた言葉にシャンテルとエドマンドはアルツールを見た。
「アルツール王子、何かご存じなのですか?」
「さぁな。ただ一つ言えるのは、お前がギルシア王国に来ると中々頷かないから、国王陛下が痺れを切らしたんだろう」
知っているのか知らないのか、曖昧な答え方だった。もしかすると、アルツールにとっても予想外の出来事だったのかもしれないと、シャンテルは推測する。
「それで? お前は何故慌ててシャンテル王女を尋ねてきた?」
エドマンドが騎士に話の続きを催促する。確かに、第二王子の来国だけであれば、もう少しで視察を終える予定のシャンテルを急いで呼び戻すほど慌てる必要はない。
「ギルシア王国の第二王子率いる一団が昼頃に国境付近に現れたのですが、第二王子が護衛騎士の他に多数の兵士を率いていたのが確認されました」
「な……!」
「現在、第二王子と護衛騎士はルベリオ国内に入国されましたが、多数の兵は国境付近に待機したままです。そこで有事の際に備えて国王陛下が緊急の会議を開き、いざというときにこちらも出迎えられる準備をすることとなりました!!」
「それで私たち第二騎士団を迎えに来たの?」
「実はこの話には続きがございます!」
「続き?」
視察に出ている第二騎士団の大半をを呼び戻して、いざというときに備える為に、急いで知らせに来たと考えたシャンテルは首を捻る。
「防衛費の確保のために、現在の国費の割り当てを改めることになったのですが、計算が合わないそうです!」
“計算が合わない”
何の、とは聞くまでもない。管理されている筈の国費が資料に記されているそれと違うと言うことだ。恐らく実際の額は記されている額より少ない状態なのだろう。
「それを確認したのは誰です?」
「ケネス殿とお聞きしています。ニック様に相談し、お二人で再度確認されましたが、結果は変わりませんでした。以上のことから、一刻も早くシャンテル王女を王城へ連れ戻すようにと国王陛下が申し付けられました!」
ケネスはニックの部下の一人だ。ニックと一緒に再確認しているなら間違いはないだろう。
国費や城内の財産管理は本来は王妃の仕事だ。いずれはアンジェラに引き継がれることになるが、それまでは現在のルベリオ王国唯一の妃、バーバラの管理下にある。
シャンテルの脳裏に以前バーバラの部屋を尋ねたとき、複数のネックレスを片手にアクセサリーを選んでいたバーバラの姿が浮かぶ。
だが、それだけではない。彼女は高級なドレスや甘いお菓子にお酒。大粒の宝石が付いた宝飾品を好んで次々に買い込む散財癖があるのだ。
バーバラに国費を使い込まれているかもしれない。
そんな予感が頭を過る。管理者である彼女ならば誤魔化すことは簡単だ。
もしかして、視察で見た街の税収の差も関係があるのかしら……?
大量の兵を伴ってのギルシア王国第二王子の来国、そして国費の一部紛失。
それら複数の事態が重なってニックが国王陛下に報告、指示を仰いだのちにシャンテルを呼び戻すようこの騎士を手配したのだろう。
「分かりました」
シャンテルは頷くと、即座に動き出す。
「予定を変更して急いで戻りましょう。すぐに馬の用意を! 城まで最短で駆けます!」
シャンテルはテキパキと指示を出していく。サリーや官僚には馬車でゆっくり帰還してもらうことにした。カールには残ってもらい、副団長として馬車の護衛と騎士たちの指揮を任せた。
「シャンテル、俺もお前と一緒に城へ戻らせてもらう」
シャンテルがアルツールとエドマンドにも馬車でゆっくり城へ戻ってもらうように話をすると、アルツールが首を横に振った。
「今回のこと、弟が急にルベリオ王国へ来たことも問題になっている筈だ。俺はルベリオ王国王太子として、またウラジミールの兄として、一刻も早く状況を把握したい」
「俺もシャンテル王女について行く。カール殿が馬車の護衛に当たるなら、俺はもう一人のシャンテル王女専属護衛騎士として、同行させてもらう」
アルツールの申し出は尤もだった。エドマンドに関しても専属護衛騎士を盾にされれば、拒否しにくい。それに、ダメだと言っても無理矢理ついてくるのだろう。
「分かりました。では、急ぎましょう」
シャンテルはアルツールとエドマンド、それから城から急いで報告に来た第二騎士団の騎士の四名で城を目指して馬を走らせた。




