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シャンテル王女は捨てられない〜虐げられてきた王女はルベリオ王国のために奔走する〜  作者: 大月 津美姫
1章

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32 男の戦いと女の戦い

「アルツール王子、そこまでにしてもらおう」


 そんな声と共に、シャンテルは後ろからと肩を引かれた。


「!」


 驚いて顔を動かすと、エドマンドがシャンテルを自身の方へと抱き寄せる。


「エドマンド皇子に用はない。俺は今、シャンテルと話している。邪魔をしないでもらいたい」

「生憎だが、俺は今シャンテル王女の護衛騎士でもある。今のアルツール王子は随分と気が立っているようだ。無視するわけにいかないな」


 それを聞いて、アルツールの顔が益々不機嫌に染まる。ジッと視線で探り合う二人の間にシャンテルは火花が見えた気がした。


「護衛騎士とは、随分と都合が良い役職だな。……まぁいい。シャンテルがエドマンド皇子を選んだわけではないと聞けただけ、一先ずは十分だ」


 そう告げると、アルツールは身を翻してシャンテルから離れていく。


 ドレスの件でエドマンドとアルツールが揉めるだろうと予想していたシャンテルだったが、それは想像していたより案外あっさりと終わった。

 その事にシャンテルがホッとしていると、頭上から呆れた声が降ってくる。


「少し目を離すと直ぐこれだ」

「エドマンド皇子にご迷惑をお掛けしたつもりはありません」

「迷惑と言うより心配だな。とりあえずこのお茶会では俺がアルツール王子より一歩勝っているようで良かったとは思う」


 妙な言い回しにシャンテルは首をかしげる。


「お茶会に勝ち負けはありませんよ?」

「そうではない」


 シャンテルの護衛騎士として、会場までのエスコートが理由だったとは言え、エドマンドとアルツールが贈ったドレスのうち、シャンテルはエドマンドのドレスを選んだのだ。


 シャンテルがどれだけ否定しようと、例え選んだ理由に特別な想いが無かったとしても、事情を知らない人物から見れば、シャンテルはエドマンドを意識していると思わせることができる。それは大きな一歩と言えるだろう。


 そんな風に考えていたエドマンドの思考がシャンテルに読める筈もなく、シャンテルが頭にハテナを浮かべ続けていると「シャンテル王女」と声を掛けられる。


 声の方を見るとロルフとホルストがやってきた。お互い簡単に挨拶を済ませると、そこにジョセフも合流してくる。


 お茶会はそれぞれグループを作って、楽しく話しているが、女性メインのお茶会において数少ない男性参加者、それも王子たちがこぞってシャンテルに話しかけている。


 夜会で王子たちと殆ど話せなかったご令嬢にとって、今日は隣国の王子たちと関わりを持てるかもしれない、またとない機会だ。あわよくば王子の婚約者の座が手に入るかもしれない。

 そんな思いがご令嬢たちの心に火を付けていた。中にはアンジェラ嬢のお祝いそっちのけで、お茶会に参加しに来たご令嬢もいる程だ。


 王子の中でも一番人気はセオ国の第一王子のロルフ、続いて第二王子のホルストだ。二人とも整った顔立ちに加え、ロルフの肩のところで切り揃えられた金髪はとても美しい。兄より短髪のホルストも少し癖っけのある美しい金髪が動く度に柔らかく揺れている。

 そんな二人に比べて、元敵国で度々小競り合いがあるギルシア王国のアルツールや大国デリア帝国のエドマンドは近寄りがたい雰囲気もあって不人気だった。だが、一部のご令嬢からは“その近寄りがたさがイイ!! カッコいい!!”と密かな人気を獲得していた。

 特にアルツールは銀髪にコバルトブルーの瞳とクールな印象だ。ご令嬢方のハートを射止めてもおかしくはないのだが、ギルシアの王子であることが足を引っ張っていた。おまけに俺様気質なせいか、少々口が悪い。それがコアなファン層を除いて、イマイチ人気が伸びない理由だった。

 エドマンドに関しては笑顔が絶えず、紳士的で一見物腰柔らかに見えるが、残念なことに夜会の時からずっとシャンテルにベッタリなのだ。デリア帝国の皇子というだけで近寄りがたいというのに、シャンテルの傍を離れてくれないと、“野蛮な王女が傍にいては中々話し掛け難い”というご令嬢が大半だった。


 そんなわけで、ジョセフやセオ国の王子がお目当てのご令嬢たちは、シャンテルたちの方をちらちらと盗み見ては、王子たちに話し掛けるタイミングを窺っていた。


 シャンテルが会場に到着する前にロルフやホルスト、それからジョセフと話していたご令嬢は、シャンテルの会場入りを確認した王子たちから「シャンテル王女にご挨拶してくるよ」と告げられて会話を中断している。

 当たり前だが、そんな彼女たちにとってシャンテルは面白くない存在だった。


「シャンテル王女が王子様方を独り占めされていますわ」

「ジョアンヌ王女ですら、王子様方とのご挨拶は手短に済まされていましたのに」

「ご自分のことしか考えていらっしゃらないのだわ」


 最初は羨望の眼差しだった視線が、やがて嫉妬に塗り替えられていく。

 その気配をシャンテルは薄々感じ取っていた。そして、それは他の王子たちも同様だった。


 そろそろ離れなければと、シャンテルは「私は来たばかりですから、他の方にもご挨拶してきますね」と伝えてその場を抜ける。

 それを期にジョセフやホルストたちも解散した。その時、シャンテルの噂をしていたご令嬢の輪にジョアンヌが入ってきた。


「皆さま、ごめんなさい。お姉様はこういった場にはあまり参加なさらないから、王子様方に話し掛けられて浮かれているたみたい」


 瞳を潤ませたジョアンヌにご令嬢たちが「ジョアンヌ様」と眉を八の字にする。その姿が、飲み物を取りに行ったシャンテルからも見えた。


「わたくしが、お姉様をきちんと注意できれば良いのだけれど……」


 呟いて、ぶるぶると怯えたように肩まで震わせる。


「そんなことをしては、またジョアンヌ様が酷い目に遭ってしまいますわ!」

「そのお心遣いだけで十分です」


 なんと言うか、相変わらずの団結力ね……


 シャンテルは自らが悪く言われているにも関わらず、妙に感心してしまう。

 それでも聞こえない振りをして、人が少ない場所に座って静かにお茶を楽しもうと、サリーに小皿を取って貰う。そしてテーブルに並べられた焼き菓子に手を伸ばした。


「わたくし、お姉様の代わりにジョセフ様やセオ国の王子様にお詫びしてきますわ」


 そう言って、ご令嬢たちの輪から抜けたジョアンヌがシャンテルの方へ歩いてくる。


 ジョセフはアンジェラと挨拶中だった。そして、ロルフたちはフリーになったことで、早速ご令嬢たちに話し掛けられていた。どちらもシャンテルのそばを通り越した先で話し込んでいる。


 シャンテルがテーブルで菓子を選ぶ中、ジョアンヌがその側を通りすぎようとした時だった。


「きゃあっ!!」


 ジョアンヌの悲鳴と共に、ドサッと何かが倒れた音がした。

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