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シャンテル王女は捨てられない〜虐げられてきた王女はルベリオ王国のために奔走する〜  作者: 大月 津美姫
1章

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22/39

22 食事の席を巡る争い

 翌朝、シャンテルがいつものように部屋を出ると、予想外の光景が広がっていた。


「だから、俺がシャンテルと食事をすると言っているだろう?」

「何を言う。シャンテル王女と食事をするのは俺だ。昨夜、王女と約束もしている」


 シャンテルの部屋の前でそんな言い合いをしているのは、アルツールとエドマンドだ。自身を巡って行われているらしい言い合いに、シャンテルはぽかんと口を開ける。


 侍女のサリーも国賓相手に流石に困ったような苦笑いを浮かべていた。


「シャンテルお前からも何とか言ってやれ」

「シャンテル王女、昨夜の約束通り迎えに来た」


 二人がそれぞれシャンテルに顔を向ける。アルツールは表情に苛立ちを滲ませ、一方のエドマンドは爽やかな笑顔を浮かべている。


「お二人とも、部屋の前で騒がれては困ります。それと、お迎えの件は昨夜お断りした筈です」


 アルツールが珍しく「う……」と言葉を詰まらせた。


「昨夜のシャンテル王女は一方的に言い逃げ出された。俺は断られた件について、聞き入れるつもりはない」


 エドマンドの方は、もはや開き直っているようだ。


「……それで? お二人は何故私の部屋の前にいらしたんですか?」


 断片的な会話から何となく、二人の目的を察していたシャンテルだが一応尋ねる。


「お前を朝食に誘うためだ」

「王女を朝食に誘うためだ」


 揃った声で告げられた言葉にやっぱり……と、思いながら息を吐く。


「そう言う訳だ。エドマンド皇子は諦めろ」

「いいや? 諦めるのはアルツール王子の方だ」

「昨日、シャンテルに断られたのだろう?」

「一方的に逃げられただけだ」


 またしても始まる二人の言い合い。このままでは埒が明かない。

 一つ息を吐いて、シャンテルは口を開く。


「分かりました。お誘いをお受けします。お二人さえよろしければ、三人で朝食を取るのはいかがでしょう?」


 シャンテルを見ていた二人が再び顔を合わせる。


「エドマンド皇子、ここは俺に譲ってくれ」

「何を言う。アルツール王子は昼食の約束をされていると聞いた。ここは俺に譲るべきだろう」

「昼食の件は朝食に関係ない」


 何を言っても二人は互いにシャンテルと二人(・・)で、朝食を取る権利を巡って、決着がつくまで言い合いを辞める気は無いらしい。


「言い合いを続けられるのであれば、私は一人で朝食に向かいます。それでは、ご機嫌よう」


 シャンテルはにこりと微笑んでカーテシーを披露したあと、二人を置いて歩き出す。シャンテルのあとをサリーが二人の国賓に一礼したのち、追いかける。


 残されたエドマンドとアルツールは思わず顔を見合わせて、それから渋々と言った様子で頷き合う。


「シャンテル!」

「シャンテル王女!」


 この日から、シャンテルの一日はエドマンドとアルツールの三人で朝食を取ることから始まるのだった。



 ◆◆◆◆◆



「ジョセフ公子もロルフ王子とホルスト王子も午後からであれば、いつでも構わないそうです」


 ニックは昨日頼んでいた王子たちの予定を早速確かめてくれたようだ。今日の分の書類を届けに来たついでに報告してくれた。


「そう。ありがとう」


 溜めていた書類も殆ど片付いたし、今日の分はそれほど多くない。

 今日は午後から騎士団の訓練があるので、訓練終わりに昨日カールと相談して決めた婚儀の警備の話をすれば、あとは招待状を送る貴族や国賓のリストアップのみだ。


「では早速、明日の午後にジョセフ公子とお会いすると手紙を出すわ」

「畏まりました」


 シャンテルは急いで用意すると、手紙に時間と集合場所を記載して返事をしたためる。

 蝋封を終わらせると、改めてニックを見た。


「明日のお茶の件、使用人に準備を依頼しておいて」

「勿論です」

「ジョセフ公子とのお茶が終わったら、セオ国の王子たちにも手紙を送るからそのつもりで頼むわね」


「はい」と頷いたニックを見送ると、シャンテルは王子たちとの交流に向けて、公務を片付けることに集中した。

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