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シャンテル王女は捨てられない〜虐げられてきた王女はルベリオ王国のために奔走する〜  作者: 大月 津美姫
1章

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20 最高の護衛騎士

 コンコンコンコンとノックの音がして、シャンテルは書類から顔を上げる。いつの間にか窓の外は暗くなっていた。


 入室を許可すると使用人が軽食を運んでくる。それと同時に何やらお茶の良い香りが鼻腔を掠めた。


 食事を頼んだ覚えが無かった為、運んで来た使用人に尋ねると、「シャンテル様はまだ執務室に籠もられるだろうとのこで、こちらに食事を運ぶように仰せつかりました」と答えた。


 きっとニックが頼んでくれたのだろう。ご丁寧にカールの分まで用意されている。


 せっかくだから少し休憩にしようと執務机から立ち上がると、シャンテルはローテーブルに移動した。


 ハムや卵、それから野菜が挟まったサンドウィッチを手にして、もぐもぐと咀嚼しながらシャンテルは斜め前の席に座るカールを見る。


「一緒に食べましょう」とシャンテルがカールを誘ったところ、最初は「任務中ですので」と断られた。それでも諦めずに誘えば、今度は「シャンテル様と食事なんて私には身に余ります」と断られる。だけど、シャンテルもめげずに「それだとせっかくの淹れたての紅茶が冷めてしまうわ。だから、ね?」と追撃した。それで、やっと折れてくれたのだ。


 カールを食事に誘ったのは紅茶が冷めてしまうからと言うのもシャンテルの本心だったが、それよりも一人の食事より二人で取る食事の方がいいと思ったことが大きいだろう。これは、昼間に不本意にもアルツールと昼食を共にしたことがシャンテルにそう思わせたのかもしれない。

 だけど、バーバラのこともあり、晩餐会以外でシャンテルが誰かと食事を共にすることは少ない。だから、誰かと共にする食事を恋しく思ったのかも知れない。


 とは言え、カールとの食事は賑やかとは程遠い。

 お互いずっと黙ったままだ。


「カール、私に聞きたいことがあるんじゃない?」


 気が付くと、シャンテルはそう問い掛けていた。

 カールは食べていたサンドウィッチからシャンテルへ視線を向ける。


「聞きたいこと、ですか」

「私は長年、護衛騎士のあなたにすら黙っていたことがある。それを貴方は今日、思いがけず耳にしたでしょう? 私は度々城を抜け出して、こっそり人に会いに行っていたの。怒って良いのよ」


 告げるとカールが困ったように苦笑いする。


「……勝手に城を抜け出されるのは困りますが、シャンテル様が黙っているべきだと考えられたのなら、私は問い詰めません。お話してくださるまで待ちます」


 そこまで言うと、目の前のカールが真剣な表情になる。


「騎士として見聞きしたことを誰かに告げ口するつもりもありません。ですから、ご安心ください」


 あぁ、カールは本当に良い騎士だわ。


 ルベリオ王国の城で数少ない信頼における人物をシャンテルは改めて認識すると、その頼もしさに笑みが溢れる。


「カールは真面目ね」


 シャンテルがクスクス笑うと、あたふたと慌てるカール。


「ありがとう、カール。私専属(・・)の口が固い最高の護衛騎士を頼りにしているわ」


 期間限定とはいえ、エドマンドがシャンテルの護衛騎士だとしても、シャンテルにとってはカールがこれまでもこれからも唯一無二の護衛騎士だ。


 シャンテルの言葉にカールは少しだけポカンとして、それから「はっ! 身に余る光栄です!」と勢い良く返事をした。



 サンドイッチを食べ終えたあと、シャンテルはローテーブルで紅茶を飲みながら、国王の婚儀の警備関係資料に目を通す。

 式場予定の教会の見取り図や式場から王宮までの帰り道で行うパレードの暫定通過予定地区の地図を広げ、ちょうど良い機会だからと、第二騎士団副団長のカールと二人でそれらを眺める。

 その流れで第二騎士団の団長と副団長の会議が始まった。


 あれやこれやと二人で言い合い、決定事項やパレードの通過予定地区の変更案などを書類にまとめていく。


「大体はこんなところかしら?」

「はい。問題ないと思います」

「あとは、他の騎士たちの意見も聞いて修正すれば、警備の件は一旦終了ね」


 告げてシャンテルが隣のカールを見る。


 二人で地図を眺めていた為、近付いていた顔の距離にカールがハッとして、少し体を離す。

 一瞬、シャンテルには彼が慌てたように見えたが、そのまま何事も無かったかのように「はい」と頷いた。


 シャンテルは「ふぅっ」と息を吐く。窓の外を見ると星が輝いていた。

 そろそろ、カールは夜勤の護衛騎士と交代の時間だ。何ならとっくに時間を過ぎているかもしれない。


「遅くまで付き合わせちゃったわね」


 シャンテルが立ち上がって言えば、「とんでもございません」とカールが首を横に振る。


「私はもう少し書類を片付けるわ。きっと交代の騎士が外で待っていると思うから、カールはもう休んで」

「では、お言葉に甘えて私は失礼致します。シャンテル様もご公務は程々になさって早めにお休みください」

「ありがとう。おやすみなさい」

「おやすみなさい」


 カールはサッと一礼すると執務室を出る。だが、扉を開けて一歩廊下に出たカールは「えっ!?」と驚きの声を上げて立ち止まった。


「カール? どうしたの?」


 不思議に思ったシャンテルは執務室扉に歩みを進める。そうして、2〜3歩進めばカールの背中越しに人影が見えた。

 その人物を目の当たりにして、シャンテルもまた動きを止めたのだった。


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