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神眼の鍛冶師は素材の魂(こえ)が聞こえる ~俺は素材をプロデュースする~  作者: サンキュー@よろしく


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第28話:決勝戦と勘違いのフルコース

アルドと『レイジ・ブリンガー』のコンビは、その後も快進撃を続けた。

一回戦の衝撃的な勝利に始まり、二回戦、三回戦と、彼らは対戦相手を次々と「魅了」し、打ち破っていった。予測不能なパフォーマンスと、それを支える確かな実力は、当初の嘲笑を驚嘆へと変え、アルドは今や大会最大のダークホースから、優勝候補の一角と目される存在にまでなっていた。闘技場には「アルド様親衛隊」を名乗る若い女性ファンまで現れ始めている。


「へっ、見たかよ、工房長! 俺たちにかかれば、どんな相手だろうと、ステージの露と消えるぜ!」


決勝戦を前にした控室で、アルドはすっかり自信に満ち溢れている。彼の頭の中では、相棒のレイジ・ブリンガーも(ったりめえよ! 俺様と組んで負けるわけねえだろ!)と得意げに叫んでいた。


「まあ、ファンを掴むという点では上出来だ。だが、決勝はそう簡単にはいかない。相手は、聖騎士団のエース、ギルベルト卿。通称『王国の不沈艦』。生半可なパフォーマンスじゃ、彼の牙城は崩せないぞ」


俺、フィン・アッシュフォージは、最終ステージに向けて、新たなプロデュースプランを練っていた。


「そこでだ。君の相棒に、スペシャルな『トリートメント』を施してやる」


俺が取り出したのは、粘性の高い、虹色に輝く特殊なオイルが入った小瓶だった。


「こいつを刀身に塗れば、摩擦係数が極限まで低下し、切れ味が飛躍的に向上する。まあ、表面に薄い潤滑膜を形成する、コーティング剤みたいなもんだな。金属同士がぶつかった時のエネルギーロスも軽減できる」


「と、とりーとめんと…? こーてぃんぐ…?」


アルドが首を傾げる。


「いいから、貸してみろ。俺が、君の相棒を、最高のヌルヌルボディに…いや、スベスベにしてやるから」


俺はレイジ・ブリンガーを受け取ると、柔らかい布にオイルを染み込ませ、その刀身を丹念に磨き始めた。その手つきは、愛するフィギュアの手入れをするオタクのそれであり、あるいは、これからステージに上がる女優にメイクを施すスタイリストのようでもあった。


この光景を、控室の隅から監視していたベアトリスが、戦慄に満ちた目で見つめていた。


(始まった…! 魔人の、最終調整! あの虹色の液体…! まさか、光を屈折・乱反射させ、敵の視覚を惑わす光学兵器の一種!? 液体金属のように振る舞い、刀身の形状すら自在に変化させる、古代の魔導技術マギ・テクノロジー…!?)


彼女のメモ帳に、また新たな恐怖の記録が刻まれていく。


「よし、次は栄養補給だ。ハンナ!」


「はい、フィン君! 作ってきたよ!」


ハンナが、バスケットから湯気の立つ、大きな弁当箱を取り出した。中には、山盛りの肉料理と、色とりどりの野菜が詰め込まれている。


「最高のパフォーマンスには、最高の栄養補給が不可欠だ。筋肉を作るタンパク質、エネルギー源の炭水化物、そして体の調子を整えるビタミンとミネラル。この『ハンナ特製・愛情マシマシ弁当』は、まさに完全食だ!」


「わーい! いただきます!」


アルドが、弁当にガツガツと食らいつく。


「うんめえ! なんか、力がみなぎってくるようだぜ!」


「えへへ、よかった!」


ハンナが嬉しそうに微笑む。その笑顔と、豊満な胸の谷間が、最高のスパイスだ。


ベアトリスは、その光景に、もはや眩暈すら覚えていた。


(た、食べ物…!? いや、違う! あれはただの食事ではない! 錬金術で生成された、能力向上薬エリクサーに違いない! あの肉はグリフォンの心臓、野菜はマンドラゴラの根か!? 食事という最も無防備な行為を利用して、被験者の肉体を内側から改造するなんて…! なんという非道な…!)



そして、いよいよ決勝戦。

闘技場の中央で、アルドと、聖騎士ギルベルトが対峙する。ギルベルトは、絵に描いたような真面目な騎士で、その鎧は一点の曇りもなく磨き上げられていた。


「小僧、貴様の戦い、見させてもらった。奇をてらっただけの、騎士道を愚弄するような剣…。断じて許せん!」


ギルベルトは、聖なる気をその剣に宿し、正々堂々とした構えを取る。その清廉な聖気に触れた瞬間、俺の懐の奥で眠っていた『呪いの破片』が、まるで天敵を前にしたかのように、ピリッと嫌悪感を示して疼いた。


「へっ、お堅いこったな、オッサン!」


アルドは、俺の指示通り、わざと相手を挑発する。そして、試合開始の合図と共に、再びあの奇妙な回転と決めポーズを披露した。


「ま、またあれをやるのか!」


「騎士様が、完全にキレてるぞ…」


観客席がざわめく。


ギルベルトの額に、青筋が浮かんだ。


「どこまでも、この私を愚弄するか!」


彼が怒りの一撃を繰り出した、その瞬間だった。

アルドの剣に塗られたオイルが、闘技場の太陽光を浴びて、キラリと強く反射した。


「ぐっ…!?」


強烈な光が、ギルベルトの目を眩ませる。ほんの一瞬の隙。

だが、達人同士の戦いにおいて、その一瞬は永遠にも等しい。


アルドの頭の中に、レイジ・ブリンガーの檄が飛ぶ。


(今だ、脳筋! 胴ががら空きだ!)


アルドは、ハンナの特製弁当でみなぎるパワーを全開にし、ギルベルトの鎧の、わずかな隙間に、完璧な一撃を叩き込んだ!


ゴッ! という鈍い音と共に、ギルベルトの巨体が、ゆっくりと地面に崩れ落ちた。

闘技場は、三度、静寂に包まれた。そして、やがて爆発的な大歓声へと変わる。


「ゆ、優勝、アルドォォォォォォ!!」


アルドは、信じられないという顔で自分の剣を見つめ、やがて、貴賓席にいる俺に向かって、力強く拳を突き上げた。


「やったぜ、工房長! あんたのおかげだ!」


俺は、満足げに微笑むと、彼に向かって、親指をグッと立てて見せた。最高のステージだったぜ、と。


この、師弟の美しい(?)一幕を、それぞれの人物が、それぞれの勘違いのフィルターを通して見ていた。


ルミナス公爵:「おお…! なんという素晴らしい光景だ! 札付きのワルだった若者が、フィン殿という良き師と出会い、才能を開花させた! 感動で涙が止まらん!」


ベアトリス:「(勝った…! 魔人の尖兵が、王国の光の象徴たる聖騎士を、打ち破ってしまった…! そして、あの親指を立てる仕草…! あれは、任務完了の合図! 次の作戦へ移行せよという、新たな指令に違いないわ!)」


そして、帝国の密偵は、震える手で本国への伝書鳩を飛ばしていた。


「(緊急報告! 王国の秘密兵器、武闘大会を制圧! 指揮官フィン・アッシュフォージ、我々に向けて『次の標的はお前だ』との暗号を送ってきた! これは、紛れもない宣戦布告である! 我々の存在は、完全に看破されている!)」


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