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「脳天気な奴らだよな。ピンときてねえんだぜ。現実が。本当の本物の現実ってもんが。昨日実際に何が起こったのか。あまりにもデタラメ過ぎてて何も解ってねえんだぜ。
だから、いつも通り悠長に学食でメシなんか喰っていられる」
「…俺だってピンとなんてきてねえよ。何がどうなってんだか……。何も解っちゃいないんだ……」
「今、ここでこんなふうに普通にしていられる連中は、ただ単に何の根拠もなく、『自分だけは大丈夫』って信じ切ってて、ひとっ欠片も疑っていないんだぜ。何しろ、リアリティーてもんがこれっぽっちもねえんだから。だから呆れるくらい、どいつもこいつもポジティブでいられる。他人事でいられる。『また今度怪物が出てきても、きっとまた“あいつ”が何とかしてくれる』って信じ込んでて、碌に疑ってやしない、おめでたい連中なんだぜ。“あいつ”が何者かも知らねえくせに」
「……」
「久志。お前、頼られてんだぜ。俺も頼りにしているし、篤だってそう。だから、久志にはせいぜい頑張ってもらわんと困る」
「…そんなこといわれたって……」
「何かあったら、お前みたいな小心者は寝覚めが悪いと思うぞ。何とか出来たのに何もせずに見捨てたってことになると。俺や篤の視線が痛いだろうな。俺らが怪獣の餌食になった暁には確実に化けて出てやれると思うぞ。何てったって正体知ってんだかんな」
そういって、連蔵はニヤッと笑った。
「…そういうこと言うなよ。こっちは人類の敵とか化け物とか言われてヘコんでるんだから」
久志は照れながらこたえた。
「それにしても……」
連蔵は久志をじろじろと見ている。
「今度は何?」
「スーパーヒーローって柄じゃないだろ。お前は」
「ほっとけ。知らねえよそんなの。成り行きだし、好きでやってるわけじゃねえし」
「大丈夫。あいつの正体がこんなヘタレだなんて誰にもいったりしねえから。何も知らない連中に正体チクって、社会不安を煽るようなまねはしねえから」
「何だよ。それ」
チキンカツ定食をたいらげ、最後にズズっとお茶を啜っていたところで、久志は吹き出しそうになった。
〈これは敵か〉
あの“声”だった。
久志はごほごほとお茶でむせた。
脳裏にはUFOの映像。それは正しく空飛ぶ円盤だった。円盤は数十本の光の触手を伸ばし、まるで蝿でも払うように戦闘機の編隊を撃ち落とし、呼び掛けていた。
「同士よ。同士よ、どこにいる」
「どうかしたのか?」
連蔵が声を掛ける。
「ちょっと行ってくる」
プラスティクの湯飲みを置いて席を立ちかけた久志に連蔵はアドバイスした。
「ここで変身するのはよした方がいいぞ。目立つから。気づいているかしれねえけど」
「じゃあ、ちょっとトイレに行って…、そっから行ってくる」
連蔵の脇を通り過ぎる時、ポンと肩を叩いて久志は頼んだ。
「三限代返やっといてくれ」
そのまま久志はトイレに向かって走った。




