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チキンカツとキャベツの繊切りにソースをかけながら久志は対面の連蔵に尋ねた。
「俺や怪物どものことは何ていってんだ? テレビや新聞は」
連蔵はB定食(四百二十円)のクリームコロッケをパクついている。
「『正体不明』なんだと。もしくは、『訳わかんね』って感じだな」
「誰も正義の味方とかとはいってくれないんだ」
「全然いってなかったな。そんなことは」
本人は悪を倒したつもりでいたのだが。
(だけどまあ、そんなもんか。そんなもんだよな)
「あっ、そうだ。肝心なこといい忘れてた。久志、お前やっぱ正体秘密にした方がいいぞ」
「えっ、何で?」
「オクタマの住民に訴えられるってのはともかく、正体バレたらエラいことになるのはまちがいねえもん。昨日、篤は、『正体がばれたら普通の生活が送れなくなっちゃう』とかいってたけど、考えてみたらそんなもんじゃない」
「スーパーヒーローだって世界中でちやほやされちまうから? 世界的な超有名人になっちまうから? そうなったら、世界的なセレブの仲間入りだもんな。俺」
久志はおどけてみせた。
「そんなんじゃないし、たぶん、そうはならねえよ」
連蔵はのってこない。
「じゃあ、何?」
「お前がなるのはモルモット。でなかったら、魔女狩りの魔女。で、敵。敵かな。全人類の敵。そういういう目で見られるはな」
連蔵は冗談をいっているふうではなかった。
「そんな馬鹿な。俺は世界を守ったんだぜ。それが何でそんなふうになっちまうんだよ」
「これから先もコンスタントに敵役が出続けてくれればいいよ。人類の誰も敵わない宇宙人とか怪獣とか。そんなのが諸々。そうなれば、みんなお前に縋るしかないから。だけど、そうなるとは限らないだろ?」
「そりゃ、まあ……」
「そうなった時のこと考えてみろよ。そん時は世界中みんな怖がるぜ。お前のこと。だって、お前、化け物じゃん」
心にぐさっときた。
薄々とだが心のどこかでは気がついていた。気がついてはいたのだが、いざ他の人間にいわれてみると、眼の前が真っ暗になった。
「人間、成功する奴だっているし失敗する奴だっている。いろんなところで、いろんな競争があって、それぞれがどこかで、どんなふうにだかはわからないけど、いろいろと参加しているんだろう。無理矢理参加させられちまっているだけかもしんねえけど。人類が累々と築き上げてきた社会っていうシステムに強いられて。何しろ、人間って奴は例外なく、皆が皆、誰もかもが、この世に生まれたその瞬間から、そんなのに絡めとられちまっているんだから」
「……」
「競争の中で勝ち残れる奴っていうのは、それなりに才能がある奴だろうし、それなりに努力した奴だろう。だけど、その前提にあるのは、人間っていう奴は、どいつもこいつも大差がないってことが前提なんだと俺は思う。例えば百メートル走……」
ここで連蔵はズズッとお茶をすすった。




