第90話 貧民街
「ふぅ...で、6匹だな?」
サルガタナスはメモリーイートモスキートを6匹生み出す。手のひらから現れたのだ。サルガタナスに好きなように遊ばれたワッケラカエンは無言を貫いている。
「妾は忙しいんだ!もう帰るぞ?」
「忙しい割に、名前を呼んだらすぐくるんだな...」
「あ...それはそれで、これはこれだ!」
「はいはい...そうですか...」
サルガタナスは”瞬間転移”で元にいた世界に戻る。
「あの...終わりましたか?」
「あぁ...大丈夫だ...」
「おっと!言い忘れていた!メモリーイートモスキートの主導権は、貴様に渡すぞ!」
「あ、あぁ...」
そう言うと。サルガタナスはまた戻っていった。
「それじゃ...メモリーイートモスキートよ...私とリカの記憶を{チーム一鶴}の6人から奪ってきてください...いいですね?」
「───」「───」「───」「───」「───」「───」
6匹のメモリーイートモスキートは飛んでいった。
***
俺たちは貧民街に来ている。リカを探すために。
「リカー!いるかぁ?」
「いないなぁ...どこにいるんだ?」
「おーい!いるのかぁー?」
「どこにあるんだ?」
「わからない...見当たらないからな...」
「そもそも貧民街にあるのか?」
「わからない...って...」
カゲユキやマユミは「いる」ではなく「ある」を使う。探しているのは人であり、「いる」を使うのが正しいはずだ。
「うおっ!」
俺の目の前に巨大な蚊が姿を現す。いや、まぁ俺がヒヨコのサイズなので蚊が大きく感じるのだろう。人間から見れば、十分小さいだろう。
「ショウガ!蚊が!」
俺はショウガの胸の中で羽を動かす。
「うおっ!本当だ!」
”ペチンッ”
ショウガは蚊を殺した。
「ヒヨコも、蚊に刺されるんだな?」
「あぁ...初めて知ったよ...」
貧民街だからだろうか。羽虫や小虫が多いような気がする。
「って、私蚊に刺されてる!」
「俺もだ!痒っ!」
「まぁ、蚊の一匹や二匹に刺されるだろうよ。そんなことより、ほら!早くアイキーを探さないと!」
「え?」
カゲユキが予想外なことを言い出す。俺たちは今リカを最優先事項で探しているはずだ。
「リカは?」
俺はカゲユキに問う。
「「「リカって...誰のことだ?」」」
俺以外の5人の声がハモる。
***
「1.2.3.4.5...一匹帰ってきませんでしたね...」
「何の虫ですか?」
「あぁ、リカちゃんにも話をしないとな」
そう言って、ワッケラカエンは黙り込んだ。メモリーイートモスキートはワッケラカエンの服の中に入っていった。
***
「おいおい...冗談だろ?リカだよ!リカ!ワッケラカエンに連れ去られた!」
「誰だ...リカもワッケラカエンも知らないぞ...」
「あぁ...初めて聞く名前だ...」
「嘘だろ?」
「リューガこそ、大丈夫か?」
「あぁ...リカは名前からして...女だよな?」
「あぁ!そうだよ!人間の女の子だ!覚えてないはずないだろ?」
俺は必至に5人に語りかける。だが、みんなピンとこないような顔をしている。
「ショウガ!お前は覚えてるよな?」
「すまない...我も聞き覚えがない...」
「嘘...だろ?」
「嘘じゃない...本当だ...」
「そんな...じゃあ!6の世界では何があったんだよ!」
「我が花畑でアイキーを見つけて...そのまま...」
「んな訳ないだろ!ワッケラカエンと戦ったことは覚えてないのかよ?」
「ワッケラカエンは...敵なのか?」
「あぁ!月光徒だよ!敵だよ!」
「そうなのか...」
わからない。なんで、みんなリカのことを覚えていないんだ。どうして、先程まで探していたはずだ。
「なんで...覚えてないんだよ...」
「リューガ...大丈夫か?どこか打ったか?」
「おかしいのはお前らのほうだろ?リカを覚えてないなんて...笑えない!笑えないよ!そんな面白くない冗談なんか今すぐにでもやめてよ!不快にしかならないよ!」
「冗談を言っているのは...リューガ、お前だろ?」
「なっ...」
俺は言葉に詰まる。冗談を言っているのは俺だと?冗談じゃない。リカはいるのだ。
「冗談な訳...ないだろ?」
「なんで...リカを覚えていないんだよ...おかしいだろうがよ!お前達...ここまでどうやって来たんだよ!おかしいじゃないか!リカがいなければ...俺たちここまで来れなかった!違うか?違わないだろ!」
「リューガ...お前...頭おかしくなったんじゃないか?元からリカなんて名前の人は仲間にいなかったぞ?」
カゲユキは真面目な顔をして答える。
「嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!リカは...リカは今、ワッケラカエンに連れ去られたんだぞ!」
「じゃあ、リカという人間がいるということを仮定にして話を進めてやる...リカは、無理矢理連れ去られたのか?」
俺はリカがワッケラカエンの側にいて、俺たちとは口を聞いてくれなかったことを思い出す。
「その反応は...無理矢理じゃなく、自分から付いていったみたいだな...まぁ、元からそんな人はいないのだが...」
「リューガ、少し休もう?な?疲れてるんだよ...」
「俺は疲れてない...俺は!」
俺はショウガの手に包められる。
「カゲユキ達は、先にアイキーを探していてくれ...我はリューガを落ち着かせる」
「あぁ...そうしてもらうよ...」




