第87話 リカとの思い出
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「じゃあ、一人連れてっていいよ!おーい!お前ら!」
俺の前に3人が並ぶ。2人は蜥蜴人間で、一人は人間の女の子だ。女の子はこちらを見ずに俯いている。これが、リカとの最初の出会いであった。
「で、どの子にする?」
「あ、じゃあ...人間の子で...」
「え?私ですか!」
「そんじゃ、リカ!行って来い!」
リカは背中に背負ったかごに10kg分ルター芋を入れさせられる。そして、俺たちは屋敷に戻る。
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「この屋敷の中に人間を入れないで頂戴!人間が歩いたところは買い物が終わった後しっかりと掃除するように!」
俺はメイド長に怒られる。俺の後ろでは申し訳無さそうに、リカが俯いている。
「あ...はい...すいません...」
「ごめんなさい...私がいるから...」
俺はリカを背負う。
「え?あ!え?」
「お前が歩くと掃除するところが増える...」
少し優しくない言い方をしてしまった。リカは軽かった。何を食べているのだろうか。
───リカを助けてやりたい。そう思ってしまっていた。
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ジャワラの姿で、農園に行く。ここで、初めて古参メンバー3人が揃った。
「あ、あの...本当に失礼致しました!なんでもするので命だけは...」
「え、あ、そんなんじゃ...」
リカは土下座をする。リカは泣いていた。
「リカ!早く行け!店の中で泣くな!評判が悪くなる!」
「はい...すいません...」
「リカ!頭を上げてくれ!怒ってないから!大丈夫、大丈夫!」
俺はリカを購入した。「購入した」だと言い方が酷い気もするが、事実だからしょうがない。
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俺はリカの手の上に乗っている。リカの体温が足から伝わってくる。温かい。
「鶏ですか...じゃあ...鶏群の一鶴の一鶴の方を取ってチーム”一鶴”とかどうです?」
「一鶴!かっこいい!決定!」
こうして、チーム名が決定した。これが「チーム一鶴」の最初の瞬間だった。
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みんなでしりとりもした。ここに来て、しりとりをしたのはまだ一度だけだが、ユウヤ達も増えたので今やったら楽しそうだ。いや、今じゃない。リカが戻ってきたら、だ。
「車!」
「ま...ま...窓!」
「ドア!」
「アーマー!」
「ま?ま...ま...枕!」
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「ま?ま...ま...あ、魔神!」
「はい!負けでーす!」
「負けでーす!罰ゲームで語尾に”にゃん”でーす!」
「ば...罰ゲームニャン...恥ずかしいニャン...」
リカは自分で提案した罰ゲームになる。その姿は可愛く、今も忘れられない。いや、ショウガやリカとの日常を一秒たりとも忘れたことはない。大切な仲間だからだ。
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第二の試験の準決勝のことだ。修行中は何をしていたのか見ていないのでわからない。
”ドォォン”
「んぁ...」
”バタッ”
「ショウガさん!」
リカが突然、闘技場に現れる。キンジはリカに殴られて吹き飛んだ。
リカは、ショウガのピンチを救った。仲間意識を再確認できた気がした。
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決勝でのバトラズのタイマンだ。
「何故だ!何故斬れない!『硬化』程度...『硬化』程度斬れなくてどうするんだぁぁ!」
「{『硬化』程度}...ですか...」
リカの目の色が変わる。もちろん、本当に色が変わったわけではない。
”ボキッ”
「なっ...」
”キンッキンキキンッ”
バトラズの刀が折れて、闘技場の地面に落ちる。
「なんで...俺の...刀...が...」
バトラズは闘技場の真ん中で膝立ちになる。
リカの勝利は、第二の試験クリアに大きな功績を残した。
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これが、リカとの大事な大事な最後の記憶だ。
「そんな訳...無いでしょう!」
リカは声を大にする。拳を握って、立ち上がった。
「私が農園のみんなが嫌いな訳...無いでしょう!」
リカは俺らを睨んだ。
「確かに私は差別されていました!確かに無賃金労働でした!でも...でも...でも!それは建前上です!誰も見ていないようなところでは...ところでは!みんな、みんな、みーんな!優しくしてくれた!みんな、みんな、みーんな、私のことを考えてくれた!慰めてくれた!ヘイターに逆らったらヘイターの目に仇にされて虐められることくらいみんな知っていた!私も知っていた!なら、なら、なら!私は建前上差別されていてもしょうがなかった!はは...そうですよね!差別されていないユウヤさんやマユミさん達や、豚になってただけのショウガさん、他の世界から来たリューガさんにはわからないですよね!農園から私を買収して仲間にしただけで私を助け出せたなんて思わないでください!確かに体はあの強制労働から助けられた!でも、心は、精神は!農園で働いていた時と変わらない!あの、優しさは農園で働いていた時と変わらない!それなのに...あなたは、あなたたちは!農園のみんなを侮辱しました!私は...私は、私は!それを許せません!許しません!許していいわけがありません!私は...私は...私は...」
リカは泣きそうになりながら、唇を噛みしめ、拳を強く握る。
「チーム一鶴を...出ていきます!」
リカがとんでもないことを言い出す。チーム一鶴を抜け出すだと。俺はリカの目を見る。リカは本気だ。
リカの目は涙で濡れているが本気だ。リカはチーム一鶴を脱退する覚悟がある目をしている。止めなくては。
リカは一呼吸いれて、玄関の方へ一気に走り出す。そして、家を出て行く瞬間にこう叫んだ。
「さよなら!」
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「ここが...7の世界か...」
俺たちは7の世界に到着する。ここに来るまでに、リカとの思い出を振り返っていた。
忘れられない思い出ばかりであった。




