第75話 ゲイン・H・エイジン
「そうか...灰谷勇か...」
「お前には勇気がある!だから、似合ってるんじゃないか?」
「おう。ありがとよ!そんで、どうやって帰るんだ?」
「帰る?何の話だ?」
「今俺はフミヤを倒した後だぞ?」
「あぁ...そうだが...」
「え、もしかして相討ち?」
「相討ちではないが...体力は残っているのか?」
「わからない...」
「一か八かと...いう訳か...」
「エイジン師範様!もしかして...」
「あぁ...勇!史也!いけそうか?」
「いけそうって...何を?どこに?」
「この空間を...『破壊』する!」
エイジンは恐ろしいことを言い出した。
「この空間を『破壊』したら...どうなるんだ?」
「俺とフミヤは確実に死ぬだろうな...いや、実際にはもう死んでいるのだが...」
「天国に行く、みたいな認識でいいぜ!」
「そうか...俺はどうなる?」
「そのままお前の味方がいる世界に戻れるか...一緒に天国に行くかの二択だな!」
「マジか...」
俺は一瞬躊躇ってしまう。だが、躊躇ったのはほんの一瞬だけだ。
「どうする?勇?やるか?やらないか?」
「そんなの...やるしかないでしょうよ!仲間のためにもよ!」
俺は心を決めた。仲間を大切にすることを教えてくれたのはエイジン、あんただ。
「それじゃあ...やるぞ!」
「あぁ!」
俺は自分の右手で『破壊』を行う。大事なのは基礎だ。自然への感謝をしっかりとするのだ。慈愛を持つのだ。
”ピキピキッ”
黒い空間に大きなヒビが入る。
「「「うううおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」」」
俺たちは3人で叫ぶ。
”ピキッ”
”ピキピキッ”
”パリンッ”
沈黙した空間が割れた。俺の意識は吹き飛んだ。
***
1986年9月6日。
「うんやー!うんやー!」
一人の赤子の泣き声が産婦人科医院に響き渡る。桐谷史也が誕生したのだ。
「あらー!男の子だったのねぇ!」
史也は生まれる前までは女の子と診断されていた。だが、実際は男の子だったのだ。
「名前、女の子の名前だから、また考えないとね!」
「でも、急がないと行けないぞ?」
「えぇ...そうね...」
「それじゃ...偉大な女性を表す女史の”史”に、男の子を表す”也”で、史也はどう?」
「じゃあ、それで決定だな!」
フミヤの名前は、こうやって決定した。
***
「おい史也!パス!」
「おう!」
史也は部活でサッカーをしていた。年齢は16歳。2002年6月13日の出来事だ。この日、桐谷史也は命を落とす。
”バンッ”
史也は仲間に向かってサッカーボールを蹴る。仲間はしっかり胸で受け取った。
「ナイスパス!」
史也はゴール付近に先回りする。仲間はしっかりとボールを保守したまま、敵チームを抜いていた。
「へい!パス!」
「おう!」
ボールは史也の方へ飛んでいく。
”バンッ”
「うっ...」
史也の胸にボールは直撃する。ボールはそのまま転がり、史也は心臓の当たりを押さえた。史也は呼吸ができていない。少し高いところから落ちて着地を失敗した時のような感覚だ。空気を吸えない。
”ピー”
審判の笛がなる。史也は立ち上がれなかった。そのまま───
史也は転生した。第3の世界に。
ボールが当たっても死なないように『精神浮遊』を手に入れた。
***
1892年5月13日。
こちらも一人の赤子が誕生する。だが、泣き声は聞こえない。
泣き声は、聞こえない。
───ゲイン・H・エイジンと名付けられた赤子は何も手に入れられないまま死んだ。
手に入れられなかった寿命を手に入れるために『寿命吸収』を手に入れた。
***
「あれ...ここは...」
俺は目を覚ます。俺はベッドの上───否、枕の上で寝ていた。ここはどこだろうか。
「リューガ...起きたのか!」
俺の目の前にショウガが現れる。俺の体はいつの間にかヒヨコに戻っていた。
「あぁ...リューガか...そうだな...」
俺は「勇」ではなく「リューガ」の名前を使っている。「勇」ではない。「リューガ」なのだ。
「リューガさん!心配したんですよ!」
リカも俺の方へ走ってやってくる。
「なぁ?ここはどこだ?」
「ここは、5の世界のミラグロにある、文さんの民宿だ!」
ほう。ここは5の世界で...って待て待て待て。5の世界?5の世界だと?俺らがいたのは4の世界だったはずだ。
「え、5の世界?ミラグロ?」
「あぁ!勝手に進んで悪かったな!」
「じゃあ...フミヤは?」
「え?お前が殺したんじゃないのか?」
「あぁ...そうなのか...」
俺はあの暗闇で出会ったエイジンとフミヤの事を思い出す。
「あ、今日はここミラグロに来て6日目です!」
「そうか...なら、最低でも6日は寝てたのか...」
「私が...私がリューガさんが寝ていたときのお世話はしました!」
リカがショウガを押して無理矢理俺の目の前に来る。
「そうか!リカ!ありがとうな!」
「ふふんです!」
「再会はもういいか?そろそろ話がしたい...」
後ろからカゲユキが現れる。
「あぁ...すまなかったな...」
俺は俺が寝ていた6日間のことを聞かされる。スリに金をすられて今はギャンブルで立て直したこと。現在は、ユウヤが競蜥蜴で予想的中させて1030万ボンまでは立て直したこと。そして、明日はユウヤが巨大パチンコ台に挑むということだ。




