第48話 チームロイバン
「やはり中途半端だ...賢者と言うやつは...本当は{賢者}ではなく{愚者}なのではないか?」
「うぅ...」
「可哀想にな...解釈してやるよ...」
静かにジフの腹は斬られた。
「さよならだな...」
***
「クソッ!一進一退かよ!」
「俺がサインをやる!ロイはトライを!」
「わかった!」
バントとサインは刀を交わらせる。
「お前は...いい剣士だ...」
「そうか!お前もいい剣士だな!」
「俺は...剣士じゃ...無いのだがな...」
そう言うと、サインはバントの刃を掴む。すると、刃は折れてしまった。
「これは...『酸化』?」
「そうだ...」
次の瞬間には、バントの腹には折られた刃が刺さっていた。
「なっ...」
「よくもぉ!」
後ろでジフの声がする。腹の傷は自分の治癒魔法で直したのだ。
「何度も来るな...{愚者}が...」
”ブスッ”
サインはまたジフの腹に日本刀を刺す。今度は、しっかりとジフの体を貫いた。
「うっ...」
「何...で...」
「サインの...能力は...時間と...止める...」
「よく気づいたな...賢者の名は廃れていないのか?どっちなんだ?」
ジフはもう息をしていなかった。治癒魔法を使うほどの体力がなかったのだ。
「ここで、ジフが死んでしまったぁ!一度は立ち上がったが...二度はあるのか!それとも1度きりなのかぁ!」
「うううおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!!!!」
ここで、「魔法」と「能力」の違いを明確にしておこう。「魔法」は自分の体の中にある体力の一部を使用している。ゲームで言うとMPのようなものだ。これがなくなれば、魔法を使えなくなる。一方「能力」は使用時のルールはあるが、MPとは関係なく使うことができる。そして、サインの時間を止めるのは魔法だ。生まれつき持っていた「魔法」なのだ。
「時を...止めるだと?」
バントは地面に膝を付きながら話をする。治癒魔法を行っている最中だ。
「バントよ...君はここで降参しないか?」
「降参だと...するわけ...ないだろ?」
「そうか...なら...ここで死ぬのか?」
「お前に勝って...やるよ...」
「虚勢を張るのか...それもまた...剣士というものなのか...」
***
「もう魔法が撃てない...」
カントはもうMPが切れていた。カフの方がMP保有量が多かったのだ。
「残念だったわね...スリープ...」
”バタッ”
カントは倒れる。カフの魔法で眠らさてしまったのだ。
「私も魔法を後1発ほどしか...撃てなさそうね...」
「魔法使い対決はぁぁ!ロイバンチームのカフが勝利だぁぁ!勝利の女神はどちらに微笑むのかぁぁ!」
ケイルが実況している。観客は試合に熱中していた。
***
”キィィン”
”キィィン”
ロイとトライの刀と刃は交わり合う。
”キィィン”
”キィィン”
”カッ”
「まずい!」
ロイの刃はロイの手から外れてしまう。
「残念だったな...さようなら...」
「ウィンド!」
ロイは後ろに吹き飛ぶ。トライの刀はロイに当たらなかった。
「カントは...倒れている...負けたのか!!何をやっている!」
「ロイ!任せたわ!もう私は!魔法を撃てない!」
「あぁ!任せとけ!トライ!」
”ガァァ”
浅い。この攻撃がトドメにはならない。ロイは自分の刀を拾ってトライの背中に刃で傷をつける。
「おっっとぉぉぉ!ここで!降参の手が上がったぁぁぁぁ!」
「なっ...」
ロイはバントの方を見る。バントは手を挙げていた。降参を表す合図は、左手を真っすぐと挙げて、右手は関節で曲げて挙げる。挙げ方だ。普通の戦いをしていれば、このポーズはしない。
「バント!なんで降参なんか!」
「なんで...なんで俺は降参なんか...」
「{チームロイバン}が降参したので...勝者は...{タンジェント}だぁぁぁ!」
「うおおお...」
観客の盛り上がりは降参したことにより下がってしまう。これが人間という生き物だ。
***
「虚勢は張らないほうがいいぞ...」
「うるせぇ!お前にはわからないだろ!俺らは...ジフを失っているんだ!」
「そうか...可哀想だな...」
サインは時を止める。止められる時間はたったの0.5秒だ。止まった時間を時間で表すのはおかしいのだが、時が流れていると考えるのならば0.5秒程の時間なのだ。その瞬間で、サインはバントに降参の合図をさせる。一瞬の早業だ。
「おっっとぉぉぉ!ここで!降参の手が上がったぁぁぁぁ!」
バントは戸惑う。自分は降参する気が無いのに、降参してしまったことに。時を止めたのか。
「なんで...なんで俺は降参なんか...」
「{チームロイバン}が降参したので...勝者は...{タンジェント}だぁぁぁ!」
「命を大切にしろよ...」
そう言うと、サインはカントとアグールを背負って帰っていった。
「バント!どうして...どうして降参したんだよ!」
「あいつが時を止めて...俺の手を...」
「そんな...卑怯だ!卑怯だよ!そんなの...」
ロイとカフはサインの意地の汚さに怒る。だが、その怒りは決して届くことはなかった。
決して、届くことはなかった。
 




