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花に寄す/マリーゴールド・8

新書「花に寄す/マリーゴールド」8(ジョゼ)


マリィは、ディンナ達の争いを納めた後、一人で、近道の紅黄草の畑をつっきり、自宅に戻ろうとした。そこを、クラマーロに襲われた。

悲鳴が響き渡り、テセウス達が駆けつけると、血まみれのマリィが、畑の中に倒れていた。

男衆は、クラマーロを認め、すぐさま飛びかかり、取り押さえた。

マリィは、畑に放置されていた、雑草取り用の鎌で、腹を何度も刺された。直後は、「平気」だといい、自分で歩いて、工場に戻ろうとした。しかし、直ぐに倒れた。

意識がなく、出血も酷く、何日も危篤状態だったが、なんとか助かった。レイ先生の集めた、新しいスタッフが優秀だったからだ。しかし、マリィには、心の傷が残った。その時、二人目が出来たかも、と考えていて、それで、腹を執拗に刺された事で、「子供が死んでしまった。」と思ったのだ。妊娠はしていなかったのだが、それを納得させるまでに、かなりかかった。

これを勘違いし、嫌な『忠告』をする連中が沸いた。

「もう妊娠できなくなった。男の子も産んでないのに。」

「妻としての『役割』が果たせなくなったらしい。それなら身を引くべきじゃないか。」

悪気がないのに、これだけ悪意に満ちた話をする、これが田舎の質の悪さだ。

これには、タチアナさんが激怒し、連中は、片端から出入り禁止にした。

また、

「あそこまでされるなんて、『関係』があったんじゃないの?」

とほざく奴等もいた。こっちの噂は、主に、クラマーロが、何もなくてもそこまでする奴だ、と知らない、新参の連中からだった。残らず解雇したが、これは結構揉めて、その連中は、結局はピウファウムさんが、引き取って雇った。

しかし、クラマーロが白状した動機の話が広まると、この手の噂は出なくなった。

奴は、ラッシルで女性を襲い、マリィに瓶で殴られた暴漢だった。その時は、賭けカードに負けて、借金を返すために、連続通り魔を模倣し、金だけ取ろうとした。所が、マリィの顔を見て、知り合いがこんな所に、と、驚いた。マリィは、顔は見たが、クラマーロは、昔より痩せて、子供の頃の丸顔ではないため、気づかなかった。しかし、クラマーロは、顔を見られたから気付かれた、なんとかしなければ、と思った。待ち伏せてマリィにその話をしたが、聞いてくれず、大声を出したから、仕方なく鎌で刺した。…と、身勝手な理屈を並べ立てた。

マリィは、回復してから、

「いきなり知らない男性から話しかけられて警戒し、クラマーロだとわかったので、直ぐ逃げようとした(街の娘達の、昔からのクラマーロ対策だった)が、手を捕まれたから、大声をあげた。」

と証言したが、彼女も混乱していて、鎌を見たから悲鳴をあげた、声を上げてから、手を捕まれた、と言うこともあった。

動転していたのだから、細かい所が合わないのは仕方ない。警官の俺にはわかる。しかし、裁判で、クラマーロ側の弁護士(財産管理をしている人とは別人だが、彼の紹介。若手で勝ちを稼ぎたがるタイプだった)は、そこを付いてきた。そのため、奴の裁判は長引き、コーデラではいったん中断し、先に、犯行を認めた、ラッシルでの裁判が、割って入った。

が、ラッシルで、奴は逃亡した。見張りの警官は、奴が小金持ちだから賭けカードに誘い、プレイたけなわで酔っぱらい、それで隙を見て逃げられたのだ。奴は酒だけは強かった。賭けの金が当座の逃亡資金になったわけだ。

「護送中の容疑者の、拘束を解いて賭博、酒や煙草まですすめる。さすがは、ラッシル警察だ。」

と、ボスが呆れながら、俺に伝えた。


この件で、クローディから、別れを切り出された。俺の従姉妹を、彼女の兄が怪我させたわけだから、これから先、一緒に歩くわけにはいかにない、どこかで無理が出る、といわれた。

俺は、思わず、「嫌だ」と言ってしまった。その時まで、自覚は無かったが、俺は、クローディの事を、本気で思っていた。

泣くクローディを宥めながら、俺は、彼女と故郷に帰る日は無いだろうのに、と思った。


クラマーロに関しても、捜査チームが組まれた。俺は志願したが、身内が被害者なので、通らなかった。

だから、奴の代わりに、リゼを殺した、連続殺人犯に全力を注いだ。


紅黄草は、マリィの髪の色、「黄金のマリィ」の名を持っていた。ジェネロスが、愛の告白の時に、マリィに贈った。だから、マリィは、紅黄草が好きだった。俺も、マリィの花だと思うと、親しみを持っていた。

しかし、事件以来、俺には、紅黄草は、嫌いな花になっていた。時々、見てもいないのに、現場の夢を見たからだ。

血まみれのマリィの体から紅黄草が生え、どんどん、マリィが青ざめていく。俺は助けようと、花を武器で払うが、追い付かない。焦りは風になり、花が舞い散る。

死んでいくのは、マリィの代わりに、クローディだった事もある。


紅黄草の記憶は、俺には、押し込めるべきものだった。だが、それでは、ただの「逃げ」だ。

追跡チームができる時に、アロキュスが、

「腹部をねらう事と、最初に話しかけている事と、ラッシルにいた事を考えたら、模倣したのではなく、彼が本人、と言うことはありませんか?」

と、課長に意見を述べた。しかし、標的のタイプ(特に身長)が異なる事や、火薬を使ってない事、昔のクラマーロの所業をいくらつついても、人殺しはないこと、を理由に、関連はないと判断された。アロキュスは、諦め切れなかったようだが、俺は、上の判断を良しとしてしまった。


クローディを選んだから、彼女の身内が連続殺人犯だという考えより、田舎にはありがちな馬鹿のエスカレートだと思うことにしたかったんだろう。俺は、「逃げ」を打ってしまった。


奴が昔、殺しまでしなかったのは、まだ少年の身で、やらかす力が無かったからだ。保護者たち(あの母親は除くとしても)の目もあった。体だけ大人の男に成長し、保護者がいなくなれば、事情は異なる。


俺は、アロキュスに賛成しなかったことを、苦々しく思い出す。


すべて終わった、後になっても。


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