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チートスキルを生むチート!!  作者: 入江九夜鳥
北のバグ
23/31

番外編 MerryChrusimemas! 後編

番外編の後編です。

お読みでない方は前話からどうぞ。


作者をして「ひっでぇwww」と言わしめる内容ですので、

メタネタが苦手な方はブラウザバック推奨です。


桶?

 

 †



 色々と説明を受けたところ、つまりメリ人形とは厄除けのための、文字通りの身代わり人形なのだった。


 ただし、未来に起こる不幸の身代わりではなく、過去の――というか、今年起こるハズの(・・・・・・)不幸の身代わりである。


 例えば今現在、ある人は怪我も病気も無く健康そのもので過ごしている、とする。


 だがそれは実は、『本来今年はこれだけ怪我や病気をするはずだったのに、それがまだ来ていないだけ』の状態なのだという。


 この時点でちょっともうわかんない。

 なにそのネガティブな方向に全力で肯定的な解釈の仕方は。


 それで、まだやって来ていない不幸が大量に残っているハズなわけだが、聖日を過ぎると病魔や不幸は力が弱まって動けなくなるから、聖日までに今年分の不幸をまとめてもたらしにやって来る。


 だから身代わりであるメリ人形を痛めつけることで、日常生活の鬱憤を晴ら――ではなくて、『え、俺? 今年分の不幸なら既に受け取りましたがなにか?』の状態にするわけだ。

 むしろメリ人形を強くひどく痛めつける程来年分まで先払い(?)すると言われているのである。


 メリ人形を自分に似せて作るのは、そういう理由からのことなのだそうで。


 それがこの異世界プラクトアースにおける、年末の聖日に行われる猟奇的な風習、『MerryChrusimemas』である。

 聖日を前に、街のそこかしこでは子どもたちがメリ人形を地面に叩きつけるという実に微笑ましくなく心胆寒からしめる猟奇的な光景が繰り広げられ――


 なにがメリークルシメマスだざっけんな!

 これ名称といいメリー人形の姿といい、どう考えても地球のクリスマスが原型だろ!? 

 それがどうしてこうなった!?


 俺は最大出力で【通神】を使用した。


『……はぁいもしもし? なんだいアキラか。今日はオフなんだからゆっくり寝かせてよぅ』


『なにがオフだ。それよりなんなんだ、この奇祭は!? なんだってクリスマスがクルシメマスに変わって伝わってんだ!?』


『ん~なんの話だい? ああ、メリークルシメマスのことか。いやそれ、僕や他の創造神は別に関わっている訳じゃないんだけど』


『なに?』


 創造神テン・テル曰く、俺以外にも現代地球からこの世界に転生なり転移することになった使徒が複数いた。

 そいつらが地球の祭りや風習、文化を持ち込んだらしいが、特別な理由がない限り創造神たちはそれについてノータッチらしい。


 だから、誰かクリスマスというモノをこの世界に輸入した奴がいるんだろう。


 だがそれがどういう訳か変な伝わり方をしたか、別の、あるいはこの世界の習慣と混ざったかして定着し歪んだ発展を遂げて(創造神が言いやがった、歪んだ発展って言いやがった!!)今のこの姿になったらしい。


『というわけで、僕はこの件に関してはどうもしないよ。面白おかしく高みの見物するだけさ。そいじゃおやすみー』


『ちょ、高みの見物って言いやがったな待てこら! あ、切りやがった!!』


 再び【通神】を使用するが、


『――なった電話番号は現在使われていないか、電波が届かない場所にあるためお繋ぎできません。しばらく経ってからまたお掛け下さ――』


 【通神】(コレ)携帯電話なの!?

 しかもあいつ、電源切ってやが……いやまじ、どうなってんのこのスキル!? 


 【通神】スキル実はケータイだった説に俺が戸惑っていると、目を輝かせたアニエスが俺に、メリ人形を差し出してきた。


「というわけで、はい、できました! アキラさまの分のメリ人形です!!」


「お、おう。おおきに」


 どないな顔で受け取れちゅうねん。

 なんだよ自分に似せて作った人形ズタボロに痛めつける厄除けって。

 ドМなのかドSなのか全く分からない、ただひたすら猟奇的なだけの風習だ。


 受け取ったメリ人形は、まぁ女の子の格好なんだけど、確かにどことなく俺に似ていた。俺は今からこれを床に全力で叩きつけるのか……。


 なんなんだろうな、この――この、言い表しようのないアレな感覚は!?


「さぁ、アキラさま! どうぞご遠慮なく! 全力で!」


「どうしたんだいアキラ! いつものアンタらしくないじゃないか。ははぁん、さてはハジメテのメリクルだから、怖気づいたんだね? 大丈夫、ハジメテの時は緊張するもんさ。さ、あたしも一緒にヤってあげるからさ。大丈夫だよ」


「あっズルいですクロエ! アキラさま! わたしもご一緒させてもらってもいいですよね? えへへ、アキラさまのハジメテ……」


「なんだニィちゃん。メリクルはハジメテか? そっか、でも大丈夫だ。こんなんなァ、勢いでヤりゃいんだ勢いで! なぁ、そうだろうお前ら!?」


「そうだそうだ! オンナ二人をヒイヒイ言わせるくらいの勢いで、こう、スパーンとだな。腰が大事だぜ、腰がよ!」


 えっ、何この流れ。

 気が付けば、俺を中心に人が集まっている。

 その全員がメリ人形を手にしていて、


「「「「めーりくるっ! めーりくるっ!」」」」


 と合唱している。


「さぁ、アキラさま。一緒にメリクルしましょう」


「アキラ。さぁ、こっちに来な。やさしく教えてあげるから……」


「「「「めーりくるっ! めーりくるっ!!」」」」


「「「「めーりくるっ! めーりくるっ!!」」」」


 やめろ、おまえら、来るな! 来るな!


  気が付けば、俺を囲んで合唱している奴らの姿が――赤い服に白い髪、とんがり帽子になって……。


 なんだ!?

 これは一体何なんだ!?


 後ずさった俺はしかし、それ以上動くことが出来ない。


 突如伸びて来た巨大な何かに、がっしりと胴体を掴まれてしまったからだ。


「!?」


 一体なにが。


 そう思って振り返ったそこにはいたのは、





 見上げるほども巨大な、どことなく俺に似ている――






「メリ人形……」



 俺に似た巨大メリ人形は、この世の声とは思えないような、けど見た目に反して意外とキーの高い声で啼いた。



 オマエモ 

 メリニンギョウニィ

  シテヤロウカァァァァァァァァアアアアアア 



「うおアアアアッッッ」


 次の瞬間巨大メリ人形に鷲掴みにされた俺は、勢いよく投げ付けられる。


 そして落下と、衝撃。























 †



「……という夢を見たんだ」


 そう、天上に向かって独り言ちる。

 いまの俺の姿勢を例えるならば、ベッドから転げ落ちた状態によく似た――というかベッドから落ちて目が覚めた。


 そうだよ前後編で引っ張って、まさかの夢オチだよ!


 ったく。

 あー、変な夢見た。

 ベッドから転げ落ちるなんて、一体いつぶり以来だろう。


 そんなことを思いながら身を起こし、窓の外を見る。

 そこは、白銀の世界だった。 


「……夜の内に積もったか。道理で冷え込むと思ったぜ」


 窓を閉めて、俺は【生活魔術】の【温風】を使用した。

 冷えきっていた室温が温まり、ようやくひとごこちといったところか。


 雪はいまは降っていないが、空模様は薄曇り。

 天気が崩れれば午後からまた降るかもしれないな。


 窓の下では、厚着した子どもたちがわぁわぁ言いながら雪を投げ合ったり、雪かきをしていたり。屋根に積もった白い雪がドサリと落ちたりしていた。


「ああいう光景は異世界でも変わらないな」


 微笑ましく思った俺は着替えると、食事のために階下の食堂へと降りて行った。

 今日は休日と事前に決めていたので、普段より遅い起床だ。


 それで人気の少なくなった食堂でアニエスとクロエの姿を探す――居た。


「ああいた。おはよう、ふたりとも」


「おはようございますアキラさま」


「おはようアキラ。随分ゆっくりな御目覚めだね?」


「偶の休みくらいは……――ふたりとも何やってんだ?」


 既に朝食を食べたらしい二人が手にしていたのは布の端切れと糸と針だ。



 嫌な、予感が。



「これですか? ああ、アキラさまは――そうですね、ご存知ないんですね」


 得心したようにアニエスが微笑む。


「メリ人形を作っていたんだよ。ほら、そこには飾ってあッ――ってアキラ!?」


「アキラさま!? どこに行くのですか!?」


 俺は一目散に、全力で逃げ出した。








「なぁ、おい。いま、走っていく男を見てさ。そこの暖炉のメリ人形が笑ったような気がしたんだが――」


「はァ? お前こんな朝っぱらから酔ってんのか?」


「だよなぁ。そんなはずないよなぁ……」







……俺は一体クリスマスに何をやってるんだろう……

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