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チートスキルを生むチート!!  作者: 入江九夜鳥
北のバグ
21/31

3-4 野営



 †



 大通りを渡って、俺たちは北西エリアを踏破する。

 魔物との戦闘はそこそこあったが、事前に【感全界析(オールサーチ)】で存在を感知できるし、この遺跡に詳しいクロエがいる。

 奇襲は受けることはないし、戦闘になっても苦戦することは全くなかった。


 そして夕刻、神殿の手前で俺たちは今日の野営をすることにした。

  このまま神殿に突っ込んで行っても良かったのだが、「冒険と蛮勇は違う」というクロエの言葉に慎重を期すことにしたわけだ。

 

確かに【肉体強化】のお陰で、一日中歩き回っていてしかも魔物と戦闘を繰り返しても疲労は少ない。だが、全くない訳でもない。

そして今は、無理をする場面でもない。


神殿に近い一角の廃墟を本日の宿と定めた俺たちは、魔物が近づかないよう結界石で周囲を囲む。一昨日の買い出しで、クロエに言われて購入しておいた、子どものコブシくらいのサイコロみたいな奴だ。


そして火を起こして予定通り蛇の蒲焼きとスープで腹を満たした後は、順に夜番に立って休息しているというわけだ。


パチパチという焚火の爆ぜる音を聞きながら、俺は使用しなかった結界石を手に観察する。


「どーいう仕組みなんだか……」


この異世界へとやって来てそこそこの時間が過ぎた。

その間に超能力としか言いようのない色々なスキルを手に入れたし、狼とか大蛇とかと戦ったりもした。

だが実のところ、所謂魔術具(マジックギア)という奴を手にするのはこれが初めてだ。


この結界石とやらは二つの効果があって、魔物が近寄りたがらない気配を発するのと、同時に魔力を通した複数個の間に魔力の線が繋がり、その線を超える魔物がいた時異音を発するというものだそうだ。

実際の効果のほどはともかく、俺が魔力を込めると十個ほどの石はピカッと輝きを発し、その後ずっと燐光を帯びたままだ。あちらの方に目を凝らすと、夜闇の中にうっすらと光の線が走っているのが見える。結界石同士を繋いでいる魔力の線だ。


もっと高価な結界石だと、それこそ障壁を張って物理的な侵入すら拒むことが出来るらしい。便利そうなのでそのうち手に入れたいと思う。


さて、こんな不思議アイテムが店売りしてある以上、これは人工物なわけだ。

どういう仕組みかまではわからないが、現代地球の科学でいうなら赤外線センサーと警報装置と虫よけスプレーの組み合わせというところか。

それを、魔術的なアレコレで再現――というか、実現しているのである。


「この掘りこんである魔法陣がなんか、そういう効果を発揮させてるってことだよな」


 サイコロの各面にはそれぞれに魔法陣が彫り込んである。というか、魔術具はどれもどこかにこれみたいな魔法陣が存在しているそうだ。

 その魔法陣に魔力を流すことで、魔術具はその効果を発揮する。


「プログラミング……いや、電子回路みたいなもんか」


 電気の代わりに魔力を流すと作動する。

 電化製品みたいだな――と考え、いや違うな、と思い至る。


 この世界は、そういう世界(・・・・・・)なのだ。


 俺のいた元の世界が科学技術というものをその礎としたように、この世界は魔術というものを礎に発展しつつある世界なのだ。

 あっちに科学技術で開発された警報装置があるなら、こっちに魔術によって開発された警報装置があってもおかしくは無い。


 いずれはそういった差異についても色々調べて考察するのも面白いかも知れないが、それまでに世界がどうにかなってしまっては元も子も無い。


 先ずは目の前の、廃墟と化した神殿にいるハズのバグに相対しなければならない。


 そんなことを考えていると、【感全界析(オールサーチ)】にひっかかるものがあった。といっても魔物が近づいているとかではない。焚火の向こうで毛布に包まっているクロエが、目を覚ましたのだ。

 そのまま二度寝するかと思ったら、彼女は身を起こして大きく伸びをした。そして俺の隣へとやって来る。


「おっは」


「どうした。交代にはまだ少し時間があるぞ」


「んー、まぁ、でもいいか。少しくらいならさ」


 次の見張りはクロエの番だ。まぁ、本人が起きたいというなら無理に寝かせたいわけでもない。俺は苦笑しつつ、【無限収納】からマグカップを取り出した。焚火の傍で保温しておいたヤカンでポットにお湯を注ぎ、茶を淹れる

 なんという銘柄かは知らんが黒い茶葉なのに、薄桃色のお茶になる。そして味はどことなく生姜湯の様な感じだ。


 出会ってまだ三日目だが、そろそろクロエという人物が見えて来たような気がする。

 姉御肌というか、苦労性というか。面倒見が良いのだ。

 思えば昨日後輩冒険者たちに色々語っていたのもその顕れなのだろうし、今起きて来たのもきっとそうだ。


 マグカップを渡すと、クロエは「ありがと」と呟いた。

 二人並んで、桃色のお茶の香りを楽しむ。

 闇の向こうからかすかに何かの虫の鳴き声が聞こえてくる。

 近いところから聞こえるのは、焚火のパチパチと燃える音、アニエスのかわいらしい寝息。


 夜の沈黙を並んで楽しんでいると、クロエがこちらを見ていた。


「なぁ、訊いていいかい?」


「答えれる事なら」


「秘密があるんだね?」


「誰だってそうだろ。特に女性の体重と年齢は暴いてはならない秘密だ……グーパン食らいたくなければな」


 子どもの頃何気なく尋ねて酷い目にあったことがある。

 俺もデリカシー無かったと思うけどさ。いやぁ腰の入った右ストレートだった。


「そりゃアンタが悪いさね」


 とクロエも呆れつつ苦笑した。


 まぁ体重はさておき、人なら誰だって秘密にしたいことの一つや二つあるものだ。

だが俺の秘密はバレた時の影響がでかすぎる。だから俺に忠誠を誓ったアニエスですらスキルで縛った。

 そんなことはできるだけしたくないのだが、場合によってはクロエにも【禁止】を施すのを躊躇わないよ俺は。


問答の内容は勿論、『訊ねた』という事実を思い出すことすら【禁止】する。


「どうしてアキラは――あー、その……アレだよ。えーっと、……ご、ご趣味は?」


 思わず俺は吹き出した。


「なんだそりゃ、見合いか?」


「話の枕って奴だよ。その……直球で訊いていいものか分かんなかったからね」


 笑って、目線で促す。何が訊きたい?


「……あんたら、一体ナニモノなんだい?」


 まぁ、そういう質問だろうな。

 

「アキラ・コウジロとアニエス・アマーハイだよ。純人族と獣人族犬人種」


「そういうことが訊きたいんじゃなくて! ……わかってて言ってるだろ」


 まぁね。


「ヒビキ遺跡に案内しろというくせに、冒険者ではない。とんでもないスキルを身に着けていて遺跡の魔物を物ともしないくせに、どこか動きが素人くさい。呆れるほどの魔力を持っていて操れるくせに、魔術具の使い方すら知らない。……アタシは桃茶を初めて見たって奴を初めて見たよ」


 へぇ、このお茶ってこの世界では一般的なんだ。それともこの地域は、か?


「悪い奴じゃないのは、わかるよ。でなきゃ、アニエスみたいな娘があんなに懐くわけないし……って、考えてみればアンタとアニエスの関係もこう、不思議なもんがあるね?」


鋭いな。本当によく見てる。


「アニエスはノーストの街に来る前にたまたま助けたんだよ。ほら、クロエがやろうと思っていた賞金首からな。それで懐かれた」


「……ふうん」


 事実なんだけどなぁ。

クロエの目が、「まぁそういうことにしておいてあげる」と言ってる。


「じゃあ次の質問。冒険者でもないアキラたちが、ヒビキ遺跡に来た目的は? 冒険者で無いからランクアップの為ではないし、素材集めかと思えば魔物を積極的に狩る訳でもない。殆ど真っすぐ神殿を目指してる――神殿には何があるんだい?」


「……探し物、かな。実のところ、俺たちはただの一般人だ。だがちょっとした事情があって、探し物をしている。その探し物があるらしいのが、この遺跡ってわけだ」


「アンタが一般人って、ちょっと無理があると思うんだけど」


「失敬な」


 俺は苦笑を返す。だけどそれが事実なんだよな。

まぁ、異世界からやってきた人間とその従者が一般人に分類されるかについては議論の余地があるかも知れない。


「それに探し物なんて。この遺跡、もう何百じゃきかない数の冒険者たちが探索してるんだ。何を探しているんだか知らないけど、大抵のものならもう持ち去られているだろうけど……ほんと、アンタの探し物って一体何なんだい?」


 俺は肩を竦めてみせた。


「これ以上は言えないな」


「……それは残念」


 一瞬もっとしつこく訊ねたそうにしていたが、思い直したのかクロエは引き下がった。


 そのあと暫く雑談を交わして――クロエはこっちの境界を探るような会話になってしまったが、そろそろ交代の時間という頃になって俺もひと眠りすることにした。

 が、クロエがそれを引き留めた。


「最後に一つだけ、尋ねていいかい」


「内容にもよるなぁ」


「アンタのその探し物――探している理由は?」


 思いがけない角度からの問いに、咄嗟に答えがでなかった。


 探し物――バグ退治。


 それをしなければこの世界が宜しくないことになるから。

 それをしないと答えれば、俺はそのまま死んでいたから。


 どちらもその通りなんだけど、しっくりくる答えではなかった。


 神様に頼まれたから。

 嫌とは言えなかったから。

 異世界で人生をやり直したかったから。


 それもちょっと違うな。


「……認めてもらいたい、からかな」


 ふと口について出た言葉だったが、それはとても、不思議なくらいにしっくりくるものだった。


「認めてもらいたいって……だれにだい?」


「もう二度と会うことのない人にだよ」


 そう言って微笑んで俺は、毛布に包まって横になる。

 クロエはそれ以上尋ねては来なかった。


 ……我ながら不思議なもので、具体的に言葉にして初めて自分自身でもわかることがある。

 

そうだな。

 俺は実のところ、死んで別の世界にまで来て、未だに親離れが出来てないのかも知れないな。そもそも、そんな機会すら俺には無かったわけなのだが。


 目を閉じる。

 恐ろしく静かな心持の中、意識は急速に眠りの中へと落ちていく。


 ちょっとだけ危惧していたけれど、俺を捨てた母さんの夢は見なかった。




昨日は投稿できずに申し訳ございません。

お詫びという訳ではありませんが、明日はクリスマス特別編を投稿といたします。


……にしてもわれながら酷い内容だ。

誰だよ、こんなんクリスマスに投稿するとか。

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