わたしが望んだ
もうすぐ梅雨に入ろうかという季節になり、俺はリアルワールド社の廊下で医者に名前を呼ばれるのを待っていた。
最終チェックのために健康診断を受けている。
「立花大和さん入って下さい。」
俺は順番を後回しにされて診察室に入った。
「非常に珍しい事例だったので血液検査に時間がかかりました。お待たせして申し訳ない。」
「いつものことです。俺はA型なんですが抗体検査で出にくくてOに間違えられるんです。」
「あらかじめいわれていなければOだと判定していたよ、まあ君が輸血を受けるときは間違えられてもO型を入れられることになるからそんなにも心配しなくてもいいよ。ただ間違えてO型の人に輸血すると大変なことになってしまうけどね。」
この後よく言われるんだよな。
「お父さんがAB型だったりするといろいろ言われたりしたかもしれないけどね。」
やっぱり。
「親父はそのAB型だったんですが、常識とは例外があるで押し通しました。ずっと仲は良かったですよ。」
空気が思い。
実際俺がO、ありえないと一時は一族の間で大変な問題になって、それでも親父はお袋を信じて動じなかった。
俺が本当はA型だと分かったのは、親父が事故で死ぬ1年前だった。
体を見るから上を脱いでください。
聴診器を当てられ、次に後ろを向く。
「この傷銃創みたいだけどどうしたの?」
「この近くの小学校で夏休みに銃を持った男が暴れた事件があったでしょ、あれです。」
「確か女の子が撃たれたと思ってたんだけど君だったのか。」
「実況中継していたアナウンサーが間違えたので女の子だと思っている人が多いです。」
「へ~、手足にしびれとか残ってないよね。」
いきなり話題を中断された。
どうも話題が暗いほうにしか行かないので事務的に流すことに決めたみたいだ。
「ありません。」
「では、VRマシンをセットしますので隣の部屋でお待ちください。」
マシンに横たわり、ふっと意識が途絶えて眠りに落ちる。
モニターを点けた様に意識が戻る。
俺は下着一枚でアバター作成ルームに立っている。
目の前には鏡のように俺が写っている。
鏡ではないのはその俺の像が自由に視線を変えてみたり、拡大してしてみたりすることが出来る。
光が渦巻くエフェクトが現れて蝶の羽をはやした妖精が現れた。
本来はサポートNPCだが今は明智さんが入ってる。
「大和くん調子はどう?佐倉さんの希望に最大限こたえてできるだけオリジナルに忠実にしてみました。ちょっと手直ししたけどね。」
やっぱり手直しが必要だったのかと少し悲しく思ったのはこの際置いておく。
「佐倉さんが優先なんですね。」
「そう、あきらめて。小田さんが佐倉さんに入れ込んでるから変更できないわよ。」
ふつう、リアルと同じ外見は使わない。
ゲーム内の出来事をリアルに影響させない様に匿名性というものが重要になる。
ただ俺の場合、例の事件でバランスブレイカーとしての俺がリアルで悪目立ちしたためにあえてこの戦闘できないアバターを一目にさらす必要が出来た。
俺のキャラクターの職業は農夫。
VRRFの世界は平和的な非戦闘職業を選択することにより、生臭いことをせず、のんびりと園芸や芸術を楽しむことも出来る。
画家や音楽家それから農夫などがそうである。
これらは、PKの対象にもなるし戦闘出来ないというものではないが危険地帯に出なくていいので荒事と無縁に暮らすことが出来る。
だが俺はあくまでも普通にMMORPGがしたい、それで俺だけのオンリーワンスキル【転化】が用意された。
このスキルを使用すると俺は農夫のヤマトからPT専用キャラ、桜仙”マホ”になる。
ヤマトはくにのマホろば…小田さん止めてくれよ。
回復系、能力上昇系のみのスキル群。
武器は桜の枝のみ、舞い踊れだと…小田さんそこまでやらなくてもいいじゃないか。
一応相手にダメージ1の通常攻撃を入れることができる。
外見は和風のスレンダー美女、おれはたゆんたゆんが…小田さんは彼女の味方でした。
この【転化】は一緒に行動するパーティーメンバーの外見と名前だけをあらかじめ登録してあるものに変更することも出来る。
つまりPTメンバーも匿名で行動できる利点がある。
最後にユニークスキル【死者の逆襲】が常時発動スキルとしてある。
PKされたときに即時完全な状態で復活することが出来、そのときあらかじめ選択した使用不可の武器を装備することが出来る。
つまり俺はつかえる剣を持った状態で復活することが出来る。
つまりPKの勝率は1/2…以下、これが運営サイドとの妥協点だ。
俺が同じレベル同士で戦うとき勝率は100%に限りなく現時点では近いからだ。
世の中どんな人がいるか分からないので100%とはいえない。
最終チェックにOKを出し、いまさらながらの操作説明をすっ飛ばしてスタート地点、始まりの町郊外のちいさな社の前にでる。
初期装備のみすぼらしい布の服にそれしか装備できない木の棒。
さわやかな風の吹き渡る中、小鳥のさえずりを楽しみながら待っていると、社の前の景色が揺らぎ、俺と同じ布の服を着て、木の剣を装備した狩人、”サクラ”が降り立った。
包帯無しの佐倉さんを見るのは何年ぶりだろうか、おれは差し出された手を恭しくとった。
「さぁ、姫様、参りましょうか。」




