俺は見た
次にイベントは金土日と三日間続く予定だった。
俺の出現日時、つまり出勤時間はそれぞれ夜の一時間だけ。
その短さに抗議が殺到していた。
曰く、平日しかログインできないものを無視するのか。
曰く、深夜にもやれ。
曰く、夜勤組みも客だろう。
曰く、なんちゃらかんちゃら。
アンケートをとった結果やることにしました。
「お~ほほほ…」
はずかしい、上司の小田さんの見てたアニメってそんな悪役ばかりらしい。
この突発イベントは、めんどくさいから最初にやった森の中だけ。
今度は両手にでっかい爪をつけて駆け抜けた。
処理速度、何のって聞くな、が倍に跳ね上がる。
この突発イベントに限っては、アイテムロストが無い代わりに経験値ロストはしっかりとある。
ただのバイトを何時間働かそうと思ってやがるんだ。
みんなぶっちらばれや~。
みんな逃げ出したフィールドでやけくそになって高笑いしてやった。
「お~ほほほ…」
俺危ない人になりそう。
最近普通にしてて、おほほほほって笑っちゃいそうで怖いわ。
しかし、殺されて踏みつけられるのが好きだってファンレターがどっさりと届いてげんなりしてしまった。
最終日、予定通りというかお約束というか、ラスボスのサタンと俺とのペアが残った。
まず俺から出陣する。
今度のフィールドは草原、天気は快晴。
地平まで続く小さな花の咲き乱れる草原にさわやかな風が吹き渡る。
その草原の中ほどに巨大なとがった岩がいくつか大地から生えており、俺はその上に出現する。
「お~ほほほ…」
恥かしい、消えてなくなりたい。
おやっ?
周りを見渡してびっくりする、何で誰もいないんだ。
もしかして出現ポイントをミスったのか、かかないはずの汗が頬を伝ったような気がした。
探知範囲ぎりぎりのところに反応があった。
走って近づくとプレイヤーの反応が増える。
ボムッと足元が爆発したのは、遠距離攻撃のぎりぎり届く距離に入った時だった。
ダメージトラップつまり地雷。
地味にHPが削られる。
ボムッ。
ひるんだところに矢の雨が降ってくる。
全てを叩き落せないし、かわす事も出来ない、数が多すぎる。
いつの間にか360度全てを取り囲まれ、ほぼ全てのプレイヤーが矢を放つ。
ジャンプしようとしても地雷が爆発しキャンセルされる。
どんどん削られるHPに覚悟を決めた。
一人でも多く道連れにしてぶっ散らばってやる。
回避を考えず直線的にダッシュする。
プレイヤーの集団から全身をプレートメイルで覆い隠し巨大な盾を構えた戦士たちが走り出て来た。
ガッ。
くそっ、硬すぎる、レジェンド級の防具か。
ガリッ。
片手で振り下ろされた槍を左手のガントレットで滑らせ流す。
そのまま目の前の戦士を踏み台にして大ジャンプ、2段ジャンプ、居た!
この軍団を率いるマスターが前方に見えた。
パーティーを集めて作るレギオンはその司令官の頭上に印が浮かぶ。
そのレギオンが敵対していると印の色は赤である。
矢が降り注ぐ中、プレイヤーを蹴散らしてまっすぐ赤い印に向かって突き進む。
赤い印ごと、マスターを叩ききろうとしたとき、脇から巨大なハンマーを振りかぶった髭だらけのドワーフが飛び出してきた。
避けようとステップを踏みかけたとたん、ドワーフが高速回転した。
ここで範囲攻撃だと。
そしておれのHPは0になり、身につけていた装備も、カバンいっぱいにつめた99個の宝箱も消えてしまった。
身につけていた神話級の下着も消えたがそこはゲーム、初期装備の下着姿で俺は転がっていた。
俺が完全に消滅するまでの間周囲のプレイヤーが上げる雄たけびは消えなかった。
「すいません。頭に血が上りました」
サタンに入っていた細川さんに平謝りに謝る。
「ユーザーの方々が喜んでくださったからいいじゃないか。すっごく楽しかったってさ。」
笑いながらメールを見てとりなす小田さん。
細川さんが不機嫌なのは、出現したのはいいけれど、俺が倒されるまで無視されたことだ。
巨大モンスターのサタンは力が半分封じられていて、下半身がめり込んだ状態でしか出現できない。
つまり移動できなかったんだ。
誰もいなくてすっごく寂しかったらしい。
「それに、スタート地点に戻って共闘したら討伐できなかっただろう。倒されてこそのボスだ」
「でもおいしいところを全部持っていかれましたからね~」
「とにかくおつかれさん。のむぞ~」
そのまま打ち上げになった。
「へ~そんな彼女いるんだ、VRRFに連れてくればいいのに。病院の中ばかりじゃつまらないでしょ。」
「何でも、ヘッドギアにかぶれるとかでなんとも」
「それぐらいなら何とでもなるよ、一応病院で生活してるんだろ?そこで使ってる材料で、マシンをつくればいいだけだと思うよ」
「おねがいします」
俺はうまれて始めて、自然に小田さんに向かって土下座していた。
「ちょっと高くつくけどなんとでもなるなぁ、ぁ、宣伝というか、ちょっと情報出させてもらえるなら無料でやったげるよ」
精神的な面で患者の治療にもなると、VRマシンの病室への持ち込みもむしろ歓迎される感じで許可が出た。
後は本体の完成を待つだけになった。
病院で佐倉さんの担当の先生と話をしにいってきた明智さんが予定より遅く戻ってきた。
「代わりにGMパトロールしておきましたよ」
あれ以来俺はリリスの姿でゲーム内をパトロールするバイトをしている。
GMコールで駆けつけ不具合の処理をしたり、セクハラなどに対して警告を出したり、結構忙しい。
「ありがと、大和君キャラ決まったわよ」
「そうなんですか?」
「うん、場面によって利益不利益があるなら、いっそキャラを切りかえれるようにしてしまえばいいのよ。つまり対モンスターはPT支援100%にして、単独の時は生産100%にして、対人するときは、PKされて死んだらリミッターが外れるようにすればいいのよ」
「それ意味がよく分からないんですが、とにかくゲームができればいいんでお任せしますけどね」
「お姉さんに任せなさい、ついでに彼女のも大和君に合わせて調整してあげるから期待して待ってなさい。」
シュミレーションの結果も上々みたいで、俺と佐倉さんは梅雨が終わる前にはゲームにログインできる見通しとなった。
大急ぎで防塵服に着替えてマスクもつける
いつものように面会開始になると同時にあわただしくノックをして病室に飛び込む。
そして大慌てで飛び出て後ろ手にドアを閉めて叫ぶ。
「ごめん、着替え中だと思わなかった」
決してたゆんたゆんではないけれど、きれいなカーブが俺の目に焼きついていた。
しとしとと雨の降る中俺は相変わらず陽菜と一緒に通学している。
明日からいよいよゲームにログインできる。




