わたしの結婚式 RPGの終わり
わたし、源 巴は23才になった。
VRゲーム会社リアルワールド社の正社員としてイベント企画を担当している。
「本当にこれをやるのかね、当人達に了承はとってあるのかね」
「ものすごく嫌がるとは思いますが、業務命令で押し切ってください」
「つまり、説得は私がやれと」
「はい」
「それはまぁいいのだが、二人のファンは納得してくれるんだろうな、売り上げが急に落ち込んだとなれば一大事だからな」
「すでに仕込みは充分です」
「全くチェシャにはかなわないよ」
「なんですかそれは」
なんでもないと、チーフの小田さんは笑った。
チェシャって何よ。
わたしはトモでゲームにログインする。
ゲームを始めてプレイヤーが最初に訪れる町ハツホ、たぶん初歩なんだろう、にヤマトの開くレストランブルーゼファーがある。
2回目の大幅アップデートで非戦闘プレイヤーは町に店を持てるようになった。
目立たない小さな通りに建つ小さなお店のドアをくぐると、ヤマトが暇そうにカウンターで雑誌を読んでいた。
客は初期から少し進んだだけの装備を身につけただけの人が何人か雑談しているだけ。
「ハイ、これ次のイベントの企画書」
ヤマトの首がぎぎぎっと人形のようにこちらを向く。
「マジですか」
「マジで業務命令です」
”リリスとガブリエルの結婚式、デレたリリス”イベント企画書にはそう書いてあった。
ゲーム、リアルファンタジーは大幅アップデートにより、大悪魔サタンが討伐されたことにより、天界と魔界への道が開き、それぞれの世界への転生が可能となった。
そして始まるガブリエル率いる天界軍とリリス率いる魔界軍の戦い。
それぞれを繰るのはバイトの真田君と大和君。
AIでは無くGMが繰る温かみのあるそれは大評判になった。
最初は拮抗していた勢力が、意外なところで崩れた。
リリスお姉さまに踏みつけられるのがいい。
そんな想定外の出来事で対人バランスが魔界側の圧倒的優勢に崩れた結果[人数は天界側のほうが多いのだが]つぎのアップで、異次元からの第三勢力の侵攻と天魔の和解が企画された。
大和君にはウエディングドレスを着てバージンロードを歩いてもらう。
「悪魔!」
なんとでも言いなさい、お前はもう逃げられない。
ふっふっふ。
そして月日は過ぎ、真田君も正社員になったある日。
「あ、巴さんこっちこっち。」
ホテルのラウンジの入り口できょろきょろあたりを見渡していた佐倉さんがわたしを見つけて手を振る。
彼女は病気で暫く病院から出ることが出来なかったけれど、今はすっかり元気になって大学で医学を学んでいる。
「陽菜は一緒じゃなかったの?」
「控え室で花嫁さんと一緒に大泣きしちゃって、お化粧崩れちゃったから今直してる。巴さん行かないの?彼女待ってたわよ」
「ん~私も泣いちゃいそうで、ちょっと行きづらいんだけど、押しかけちゃおうか」
「そうしましょ」
わたし達は親友、真帆の待つ花嫁控え室にとびこんだ。
仮想の人格を作り上げプレイするゲーム、RPG。
わたし達のRPGは妹達の卒業式の日終幕を迎えた。
あまりにも強い衝撃を受けて泣き出してしまった大和君、そしておろおろするだけの真田君そして陽菜。
「思い出した?真帆ちゃん」
全ての始まりは、まだ小学生だったあの恐怖の日にさかのぼる。
私は別の小学校の先生だったお父さんに無理を言って子ウサギを見せてもらいに陽菜と二人で小学校へ行った。
その日の当番は三年生で陽菜と同い年の松永君と真帆ちゃん。
松永君が来なかったのでわたし達は真帆ちゃんに案内してもらった。
少し目を放した隙に陽菜がいなくなり、次に陽菜を見つけたときに、陽菜は変な男に追いかけられていた。
「巴ちゃん、そこのベル鳴らして隠れてて」
そう言うなり真帆ちゃんは陽菜のほうへ走り出した。
わたしは足が動かなくってその場を離れることが出来なかった。
真帆ちゃんが陽菜の帽子とカーディガンを着て逃げ回りだした。
真帆ちゃんは速かった、そして巧みにぎりぎりのところで男の手をかいくぐる。
後は誰か大人が来てくれるのを待つだけだった。
わたしは動けない。
「陽菜!」
4階の廊下の窓からお父さんが大声で叫んだ。
男に追いかけられているのが陽菜だと思ったから。
そしてその声で陽菜が出てきてしまった。
男は陽菜を認め、手にした物を向けた。
銃だ。
真帆ちゃんが、陽菜に覆いかぶさったと同時に渇いた音がタンとなった。
良かった、中らなかった。
おまけに銃は反動で吹っ飛んだ。
助かったと思った。
でもちがった。
男は開きっぱなしの口からよだれをたらしながら陽菜に覆いかぶさっている真帆ちゃんの足首を片手でつかみ、そのまま開いていた体育用具倉庫の中へ引きずっていってしまった。
男が見えなくなってやっとわたしの足は動くようになった。
泣きじゃくる陽菜のそばに拳銃。
真帆ちゃんを助けなくっちゃ。
わたしは夢中で拳銃を拾い上げて真帆ちゃんの泣き叫ぶ声が聞こえてくる体育準備倉庫に駆け込んだ。
テレビで見たとおりに構えて引き金を引く。
タン。
倉庫の天窓が割れ、わたしはしりもちをついてしまう
真帆ちゃんに覆いかぶさっていた男がこちらを向いた。
にらまれ動けなくなる私。
男はゆっくり近寄りわたしから銃を取り上げた。
そしてそれはわたしに向けられる。
「ぎゃー」
タンッ、タンッ、タンッ
男が悲鳴を上げ、足元に向かって銃を乱射した。
真帆ちゃんが足に噛み付いていた。
背中を真っ赤に染め上げて。
次の瞬間男の腹に穴が開き…
気が着いたら病院のベッドで寝ていた。
転んで出来た擦り傷しか無かった私と陽菜は次の日には退院できた。
真帆ちゃんは同じ病院で手術が成功して暫くすれば元気になれるらしい。
しかし何度も真帆ちゃんのお見舞いに行ってるわたし達のお父さんの顔は暗かった。
理由は何ヶ月か経って明らかになる。
検査で行った病院の廊下で後ろから呼び止められた。
「トモちゃんじゃない?陽菜ちゃん大丈夫だった?」
点滴の袋がぶら下がった衣装ハンガーみたいなのを押した真帆ちゃんがいた。
「退院までまだ少し掛かるんだってさ、ここって暇で暇で」
「陽菜も私も元気だよ、真帆ちゃんも元気そうで良かったね」
真帆ちゃんの顔が曇った。
「みんな俺のことを真帆ちゃんって女の子と間違えるんだ。トモちゃんぐらい間違えないで欲しいな。俺大和だよ」
え?
「あっ先生こんにちは」
「大和くん、お母さんが探してたぞ、血液検査の時間が過ぎてるって」
「大変だ、じゃぁまたね」
いっちゃった。
お父さんは悲しそうな顔をして後姿を見ていた。
わたしの手を握る力が強くなる。
「真帆ちゃんね、自分が男の子だと言い張るんだよ。」
真帆ちゃんは中学卒業まで自分は立花大和、男で押し通した。
胸もほとんど膨らまず、鍛えて筋肉質の彼女は、なかなかの男前の少年としてわたしの高校に入学してきた。
女扱いする者は実力で黙らせてきたらしい。
わたし達一家が区画整理のため。に引越しした先は偶然にも真帆ちゃんの家の隣だった。
出張がちな彼女のお母さんに頼まれて毎日どちらかが一緒に学校まで通うことにする。
真帆ちゃんとの接点はもう一つあった。
それがVRMMORPGリアルファンタジー
VRゲーム運営会社のチーフをしていた叔父さんに頼み込んで真帆ちゃんのキャラクターを3重にしてもらった。
自分がそうであると思い込んでいるヤマトと真実の姿マホ。
そして緩衝材としてのリリス。
そしていつしかわたし達姉妹と真帆ちゃんの間に真田くんが割り込むようになった。
彼は事情を聞かされてもまっすぐ真帆ちゃんだけを見つめていた。
本人は胸に筋肉がついてきたなどをお馬鹿なことを言っているが春を待ってたつぼみが開くように、一気に女らしくかわいくなっていく。
真帆ちゃんの卒業式の日、いつものように三人が連れ立って帰ってきた。
窓から手を振るとそれを見つけた三人も手を振りかえしてくれる。
わたしは固唾を呑んで待つ。
真田君が真帆ちゃんに告白するのを。
もちろんわたしがけしかけた。
ぎゅっと抱きしめてコクっちゃえ。
彼は真帆ちゃんを抱きしめて、おっ、キスまでした。
真帆ちゃんは彼を振りほどいて、ダダダダッと階段を駆け上がってくる足音がわたしの部屋の前で止まりドアが開いた。
真剣な表情の真帆ちゃんに抱き寄せられキスされそのままベッドに倒れこむ。
わたしは力を抜き次を待つ。
限りなく長い一瞬が終わった後真帆ちゃんは泣き出した。
「ともちゃんごめんなさい、わたし女だった」
真帆ちゃんの自分を偽るロールプレイはこのとき終了した。
わたしひとりを取り残して。
ありがちな仮想空間とありえない現実世界
ロールプレイが行われていたのは現実のほうでした。




