俺ひとりとりのこされた
なぜかいきなり距離が近くなった。
「クランの名前、ブルーゼファーに決まったよ」
陽菜の声がものすごく近くから聞こえる。
俺の左腕にご機嫌でぺちょっと張り付いているんだ。
「エステもばっちり、かわいくなったんだから楽しみにしててね」
何を楽しみにするんだと、周囲の、特に同じ年頃の男女からの視線がいたい。
その視線が電車に乗り込み駅にひとつ停まるごとに暖かい物に代わる。
俺たちの周りに同じ学校の女子達が増えてきて取り囲まれた。
ちょっと皆さん隣の車両がすいてます。
そして夜いつもの時間にログインする。
学生の本分を忘れてはいけない。
心身ともに鍛えるべし。
「ところでサクラさん、それはなんですか? What is it?」
どう見ても初心者には引けないレアクラスの弓を背中にかけて、腰につけたショートソードは鋼鉄製。
「ちょっと、待ちきれなくてレベル上げしちゃった。トモさんたちは上級ダンジョンに行くって言ってたからわたし達は二人で初級ダンジョンペアしましょ」
パーティー組んで確認する。
サクラLV21ヤマトLV6。
レベルが10以上開いている場合、低いほうにはクエスト報酬以外の経験値が入らない。
自分よりレベルが10以上低いモンスターと戦っても経験値が入らないし、ドロップも悪くなる。
サクラ、公式の注意書きちゃんと読もうよ、と心の中で呟いて、口では別のことを言った。
「初めてだからミニダンジョンへ行こう、【転化】はダンジョンに入ってからするよ」
「うん」
LV20相当のミニダンジョンはフィールドに3つあった。
ゴブリン洞窟、狼洞窟、猿洞窟。
ダンジョンには待ち合わせのために入り口入ってすぐに安全地帯がある。
「転化。」
エフェクトが俺を包み、俺は薄桃色の髪を腰までたらしたマホになる。
初心者用の布の服に一本の桜の小枝。
これでやるのかぁ。
サクラは装備が男性用に代わりショウになる。
リアルにいたら蹴飛ばしてやろうと思うほどいい男だ。
「必ず俺が一撃入れてから攻撃してね」
「わかった。」
「始める。」
腰に粗末な布を巻きつけただけの剣を持ったゴブリンが一匹、LV16、同じゴブリンがフィールドでは棍棒を装備しており若干の強化がなされている。
俺が駆け寄るとゴブリンも俺を認識して叫び声を上げて突撃してくる。
充分弓の間合いであることを確認して枝でぶん殴る。
ピシッ。
ダメージが入らないが命中判定は出たようだ。
大きく振り回される剣をかわしながら攻撃を入れていく。
ピシッ。
ピシッ。
矢が来ない、なんでだ。
「矢、撃って」
「動くから狙いがつけられない」
おぃ。
「狙うだけでゴブリンって名前が出るだろ」
「うん」
「出たらそのまま撃てば自動で当たる。スキルの名前を叫んでもいい」
あえて俺のようにロックオンせずに敵のいる位置に武器を振るって当てることも出来るが通常は狙いをつけて攻撃意思を示すだけでいい。スキルはそのとき名前を叫ぶかスキルウインドウから目線で選択すれば発動する。
ようやく矢が飛んでくる。
4本目でゴブリンは消える。
「グッジョブ」
俺は指を立てる。
「ありがと」
それからは、ゴブリンが2匹や3匹に増えても、安定して進めるようになった。
魔法を使うメイジも出てきたがショウがスキルでキャンセル出来たので、ほかを俺がひきつけている間に倒すことが出来、問題にはならなかった。
だが。
「大きいね」
「でかいな」
通常ボスとして君主が湧いている位置にゴブリンキングが出現している。
もしかしたら正規ダンジョン異常の見返りがあるかも、なんだがちょっとこのペアだときついだろう。
「ひとつ死に戻り覚悟で特攻しようと思うけどどうする?」
「おもしろそうね」
それじゃあ、と始めようとしたとき声がかかった。
「俺たちも入れてもらえるかい、さっきちょっと見たけど回避盾に弓だろ。俺たちも火力に盾だから一緒にやろうや。俺はマルス」
と、言ってきたのはフルプレートの戦士だった。
「ヒーラーがいないからあまり持たないと思うけど同じ突っ込むなら一緒にしませんか?私はダイアナ」
と、後ろから来た狩人。
「俺がマホ、こっちがショウです。低レベルと初心者のペアですので解散しますからそちらから誘ってください。俺は少しなら回復が出来ます」
これで俺は男だとことわりを入れておいたことにもなる。
「よろしくね」
「よろしく」
「よろ」
「よろしく」
PTを組んだとき一瞬俺のLVに驚いたのか二人ともこっちを見たが何も言わなかった。
「防御アップかけます。範囲魔法が回避できませんのでキャンセルお願いします」
と俺、エフェクトが全員にかかって防御力が5%上がる。
「OK。ショウ君はダイアナに合わせてくれ、カウントしていくぞ、3、2、1、ゴー」
マルスが飛び出して、大喝しキングのターゲットをとる。
弓の二人は射程ぎりぎりまで下がり撃ち出す。
おれは三人の中間でスキルを発動する。
手足が自然に動き舞をまう。
【桜の舞】、味方のHPとMPを少しながら同時に回復していく。
レベルが低いこともありそれほどの回復量も無いが、MPも回復できるのでマルスたちは遠慮なくスキルをぶっ放せる。
魔法の予備動作を見逃さずダイアナがキャンセルをいれる。
「ショウ、合図したらキャンセル入れて」
「OK」
「3、2、1、キャンセ」
これはキャンセルスキルのクールタイムを二人で補い合うためである。
この二人非常にうまい。
キングのHPは少しずつ減っていき、20分かけてやっと倒した。
「おつかれさま」
「おつかれ」
「おつ」
ドロップのログは4つ出てた。
ダイアナが伝説の武器の箱、ショウが伝説の防具の箱、そしてマルスが伝説の武器の箱と同じく防具の箱。
これらには間違いなく装備できるレジェンドクラスの武器や防具が入っている。
俺には何もなかった。
レベルが低すぎたためだ。
「ま、気を落とすな。ぁ、もしかして経験値も入ってない。クエストでボスやるときは手伝うからそのときは呼んでくれ」
お互いにフレンド交換をして解散した。
「ん?サクラ、どうしたの」
スキルをといて始まりの町へ戻り雑魚ドロップをうりに行こうとしても、サクラがむすっとした顔をしてついてこない。
「一言経験値が入らないって言ってくれればいいのに」
「はらはらして面白かっただろ、ちょうどいい場所を選んだだけさ。ゲームだから面白くなくっちゃだめだろ。それだけのことさ。今日は楽しかったよ。フレンドが増えたのが一番の収穫じゃないか」
「私、防具の箱が出たからあとヤマトが全部とっといて」
「それじゃぁ遠慮なくいただきます。とりあえずいくら稼いだか店売りしに行こう」
「うん」
サクラは笑顔がかわいい。
清算してお互いログアウト。
しかしほんとに楽しかったよ。