有象無象集合
最強というのは誰だって憧れる。それが男ならなおさらだろう。だって刃牙でも言ってたし。そういう意味ではここ中央国に集まった人間たちはその言葉に相応しい人間たちが集まっているはずだ。だからこそ、俺はこんな場所が嫌だ。俺は人間という種族においては最弱だろう。群れることも出来ず、意思の疎通もできない。だから、この圧力みたいなのに押し潰されそうになる。でも、なんで強いやつってどいつもこいつもなんか変な圧力を出すのだろう? おかしくない? 強くなるだけでそんな圧力を出せるの? じゃあ弱くなると逆に包容力に長けるの? でも弱いと余裕がなくなる気がするんだが? ふむ、人間とは難しいなぁ、と思う今日この頃でした。
ここは、中央国、しかも王城の一室である。
説明しよう! ここはユーエー大陸中央に位置する王国である。名前が王国というふざけた名前なのはどうしてだか分からない。しかし、魔王の危機にいつも怯えているこの世界では国はあまり発展しないのだろう。だからこそ、この大陸に王国と呼べるのはこの国だけなのだろう。国は大きくならず、新たな国は興らない。
だからと言って、別に国がひとつなわけではない。俺が街を作ったように、あらゆる場所で街ができている。それも別に中央の支配を受けている訳ではないので、国と呼べるかもしれない。けれど魔物の危険があるこの世界で、町ができてある程度発展するのは、強い連中が居ないと無理なのだ。だからこそ、この世界で国と呼べるのは三つだけなのかもしれない。南と東、中央だけだ。
そんな国の王城の一室には様々な強者が集っていた。
四大軍団、この世界でも最強の存在である。そもそも軍団とは冒険者のチームである。ある程度、冒険者のランクが上がると、それぞれのチームを作り出す。この世界ではあらゆる危険が蔓延っている。故に個人ではどうしようもないことばかりだ。故に、ある程度の冒険者は全員チームを組む、平時よりチームワークを磨き、あらゆる問題に対処できるように。その中でも凶悪で強大な力を持った四つのチームがある。
それが四大軍団。
まずは南の《悪夢》俺がリーダーのアホ集団だ。個性が強すぎる。個を極めた連中がただ集まったようなそんな軍団。あらゆる問題を起こし、あらゆる災厄を招くただのお荷物。
そして東の《戦団》これは、戦士たちの集団だ。この世界においては魔法一強だ。故に、そんな世界において戦士の集団で最強の一角を担うというのは異常でしかない。それほどの武技を有している存在という事だ。
次に中央の《王国》ここは王国に正式に協力、いや提携かな。完全に癒着している軍団だ。ここは他の軍団とも規模の力も違う。この軍団はこの王国の戦力と言っても過言ではない。この世界では他の国に対応する必要がないため、戦力をほぼこの《王国》に頼っている。その分、このチームは強く、そして大きい。まぁ、ほぼこの国の軍と考えても良いかもしれない。
最後に北の《英雄》これは謎だ。名前は聞くが、全く実情をは分からない。なのに名前だけは誰もが知っている全くの謎の軍団だ。
「さぁて、それが事実なら、もうこの世界は終わりかもしれんな」
一人の男がそう口を開く。その男は《戦団》のリーダー、ガーランドと呼ばれる人間だ。歴戦の勇者と言った風貌の男で、椅子に座っているというのに、その体はまるで大岩のようだった。なんかどんな作品でもメインキャラにはなりそうにないキャラだなぁと思いました。
「そうですね、やはり英雄の不在は最悪の展開ですね」
そういったのが《王国》のリーダー、プリシラ・レゲラ・サー・スウィーリアだったっけ? 長い名前はとても苦手とです。
彼女は修道服のようなものを着ているが、それは普通の修道女が着るものとは段違いだろう。鉄とは思えない程の硬度を誇る鈍い色の金属はヒヒイロカネか? トラペゾヘドロンか? それともアダマンタイトか? もしかしたらミスリルかもしれない。そんな上位の存在である。また、顔は整った顔立ちをしており、優しく少し垂れた目に、筋の通った綺麗な鼻立ち、長い銀の髪はまるで光を受けているかのように輝いていた。聖母と言われればそう信じてしまうかもしれない。彼女が戦場に咲く花、プリシラ。修道服のスリットからのぞくその脚はとても艶めかしいものだった。なぜ座っている彼女のそんな姿が分かるかと言うと、俺は今テーブルの下を覗いて彼女の方を見ているから。
「そうですね、やはり世の中能力がある人間が全てをやれば良いんですよ」
俺は机の下から声を掛ける。この世界は危険が多いのになぜかゲーム世界みたいな服装の女性が多いので、机の下はパラダイスだ。ここでじっとしていてもパンツや脚を見れて幸せだし、追い出されそうになっても、みんなの攻撃手段としては一番近い足が出てくるはずだ。見れて幸せ蹴られて幸せの一石二鳥作戦である。
「何だ!? 机の下から声が聞こえるぞ!?」
岩さんの山のような声があたりに響く。ここまでテンプレだとなんか残念になってくるね。この作品こういう無個性な人間には厳しいから。それはそうと、しまったな会議をしてるアピールを読者にするために声を出してしまった。その場のノリでの行動は良くないね! まぁこれからもするけど。
「すいません申し遅れました。喋る机です。皆さんの会議を円滑の行うために私が進行を努めます」
何だこの完璧な嘘は! 誰だって喋る机なんて言われたらあー喋る机なのかーと納得するに違いない。
「おい、lこのクソ野郎。いいから早く出てこい。これ以上恥を晒すなら独房に突っ込むぞ」
ズボンゾーンから声がする。この声はエリナさんか。畜生、ズボンソーンには興味がなさすぎて疎かにしていた。己ズボンめ、あ、今はパンツか。でもなんでパンツなんだろう。パンツとややこしいじゃない? そもそもズボンってなんだよ。ネーミングセンスなさすぎるだろ。でもパンツもどうかと思う。パンツという響きには惹かれるが、それはパンツであるからこそパンツには惹かれるのであって、パンツという響き自体にはそこまで、いや興奮するか。というかパンツという言葉がゲシュタルト崩壊しそう。
「なんのことやら。私は喋る机です。クソ野郎とは初対面なのに失礼ですね」
俺は男は何事も成し遂げないとダメだって聞いた。こういうどうでも良い行動もやっぱり最後までやり遂げてこそ意味があるよね。まぁ都合の良い時だけだけどね。
「そうか、喋る机なんて気味が悪いな。壊そうか」
え? 気味悪いと壊すんですか? なんなのその暴力ヒロイン。というか幽霊とかも物理で何とかしちゃう系の女子ですか? 最近の子は本当に嫌だわ、情緒というものを理解していない。
その時なぜか俺の視界がクリアになった。漆黒の楽園に居た俺の肉体は光の世界という会議室に解き放たれた。そしてそれは俺の罪が白日のもとに晒されたということだ。
そして罪を認めるほど俺は殊勝ではないのだ。
「どうして俺はここに? まさか悪の手先によって、こんな場所に? 己魔王め! 俺がそれほど恐ろしいのか!」
「そうか言い残すことはそれだけか?」
「あ、エリナさん、スカート履いたほうが良いですよ?」
俺の記憶はそこで途切れてしまったのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「知らない天井」
行ってみたいセリフトップテンには入る言葉だ。むしろどこでも言えるが、どこで言ってもなんか変な奴だとしか認識されないので、あまり言えないのだ。
「真っ白だね」
「そうですね」
俺も一人が極まりすぎたようだ。一人で会話ができるレベルになってしまったようだ。さすがは俺だ。やはり俺がボッチのスペシャリストのようだ。
「あれ驚かないのですか?」
「そりゃあね、俺を驚かすなら裸でポールダンスぐらいしてもらわないと」
あれ? 自分に何を言っているんだろう? 余りにも声が可愛らしいから変なことを言ってしまった。自分で自分にポールダンスを要求するなんて気持ち悪すぎる。吐き気がしてきた。
「顔色が悪いようですね。どこか気分が悪いのですか?」
「気分はいつだって最悪だよ」
この世界に居ても、元の世界に居ても気分が晴れることな有得はしない。
ここらへんでこれは俺の妄言でも一人脳内会議でもないと気づき始めた。
「そうですか貴方にとって世界とは地獄なんですね」
「生きるってことはそういうことさ。まぁ死んだ先がここよりマシとは限らないがね」
一度死んだ俺ですらそれは分からない。ここが死後の世界というなら前と変わらずクソだということだけだ。
「そうですね。死なんてものはその程度のものですから」
「で、あなた誰?」
ここでやっと本題に入る。もうこの声が自分ではないと分かっていた。そしてこの声には聞き覚えがあった。
「喋るベッドです」
「マジかよ!? すげー!」
最近の医務室って喋るベッド完備してんのかよ。俺の世界にもなかったのに、ベッドだけこの世界の方が進んでんのかよ。きっとこの世界のベッドは夜の営みの最中にも色々文句を言ってくるんだろうな。もっと激しくとか、そこは優しくとか。
「ねぇねぇ、どういう仕組みで動いてんの!?」
詳しく知りたい。こんな可愛らしい声、声優は誰だ? というかこの世界にも声を当てるなんて文化があるのだろうか? 声優派閥で戦争が起こったりするのだろうか?
「それはーえっと、内緒です」
マジかよ、こんな反応まで完璧かよ。もしかしてベッドの中に女の子が入ってるんじゃねーのか? そういうプレイなんじゃないのか?
「えっと本気で信じてますか?」
「本気? いつだって本気さ、俺はね!」
なんのことだろう? でもこうやって答えとけって漫画に教わった!
「まぁ、これ以上は話が進まないのでこれやめますね」
ベッドの下から修道服の女が這い出てきた。人のベッドから出てくるとかこいつクレイジーすぎんだろ。頭可笑しいんじゃねぇのか? でも可愛いからオッケー。
「先ほどは挨拶ができませんでした私の名前はプリシラ・レゲラ・サー・スウィーリアでございます」
「これはご丁寧にどうもアルトさんです」
絶対覚え切れなさそうな名前なので、記憶することすら諦めました。まぁ完全記憶能力の設定とか知ったこっちゃねぇよ!
目の前には修道服の美少女が立っていた。銀の髪はベッドの下に居たせいか少し乱れていた。その豊満な胸はぴっちりとした修道服が扇情的に守っていた。深く切り込みの入ったスリットからは白雪のような脚が覗いていた。そして下着の色は白だ。
「あのー流石に真下から見られるのは恥ずかしいのですが」
しまった、パンツがあったら除きます党の党首である俺は、そこにスリットがあれば指を突っ込み開きたくなるのだ。パンツが隠れていれば見たくなるものだし、パンツが白日のもとに晒されれば途端に興味がなくなるのだ。
「あ、すいません。で、お話とは?」
謝ったが別に下から覗かないとは言っていないので、そのまま態勢でお相手をする。
「特にこれといってないのですが、まぁ世間話です」
「世間話? 世間の話って興味ないんですよね」
「あら、会話拒否ですか、困りました」
人とのコミュニケーションは求めているが、求められると答えたくなくなっちゃうのが俺の美点なのです。
「そうですか、じゃあ出直します」
「そうしてください」
彼女からは嫌な予感しかしない。例えるなら付き合うより一晩だけの関係でいたいタイプだ。まぁ童貞だけどね!
「なぁひとつだけ。会話しようか。あんたは何だ?」
「しがない修道女です」
そう言うと部屋から出ていってしまう彼女。
「死がない……か、いや考えすぎだね」
俺はもう一度惰眠を貪るのだった。




