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狂人転生記  作者: aki
むくむく成長編
12/55

チュートリアルとか欲しくね?

  村の郊外、人の手が入っていない未開の地にそれはあった。ぽっかりと空いた穴、その穴が地中深くまで続いている。その穴は不思議で、何か人を引き寄せるような、不思議な力を持っていた。


「不思議な場所ですね」


「そうだな、俺たちには理解できない場所だ」


 ダンジョンは成り立ち、発生、仕組みなどが全く解明されていない。気づいたら存在していた、そういうものなのだ。


「怖いですね」


 アオも猫かぶりモードなので、平和だ。気分が悪くなるが、それはアオの相手をしなくていいというのであれば、平和だと言えよう。


「アオちゃんは帰ってもいいんだよ?」


「アルトだけ特別は嫌です」


「負けず嫌いだねぇ」


 アルバも、アオ相手にはタジタジだ。どうやら俺ら親子は、代々女に弱いようだ。まぁ、アオが特別と言えばそこまでなのだが。


 ざわざわとしている村人諸君。まぁ、普通の人間は怖いよなー、俺も怖いし。というか、こんなので大丈夫なのか? 本職の冒険者でも、ダンジョンが壊れていないということは、攻略できていないのだろう? だったらこんなクソみたいな布陣でいけるのか? パンピーだらけだぜ?


 ケントとアルバは、村人たちと作戦の最終確認をしている。やはりしっかり確認をしておかないと、村人たちは不安だよなぁ。


「大丈夫なの?」


「大丈夫じゃないんじゃない?」


「そうよねぇ、勝てる気がしないものね」


「勝てない勝負はしないたちか?」


「勝てなくちゃ意味がないでしょう」


「まぁそりゃあそうか」


 勝てなくちゃなんの意味もないか。ここで、かっこいいことが言えれば、俺も主人公としてやっていけたのかもしれないな。まぁ、無理か。


 どうやら話し合いが終わったのか、アルバが先頭に戻ってきた。


「ではこれよりダンジョンに入る」


 アルバが、先頭に立ち指揮を執る。二十人ほどの村人たちが後ろに居て、拙いながらも、みんな武装はしていた。

 だがまぁ、多分役には立たないだろう。畑を耕しているような人間が、戦闘で役に立つとは思えない。


 しかし、俺が心配することでもないか。別に村人が何人死のうが、俺にはそんなに関係ないし。


「ダンジョンではなるべく固まって行動してくれ。このレベルのダンジョンなら、罠もないと思うし、範囲攻撃などもないだろう」


 ダンジョンでは、様々な罠や、仕掛けがある。上のレベルのダンジョンになればなるほど、それは嫌らしく、えげつないものになっていく。なので、上のダンジョンになればなるほど、少数精鋭が好まれる。しかし、ここは比較的安全なダンジョンだ。固まって動いても、何の問題もないだろう。


「今回の遠征は、魔物の間引きが目的である。決して、奥の方までは行かないように」


 もちろんダンジョンは、奥に行けばいくほど危険が増す。まぁ、RPGとかではお約束だろうな。最初から強いモンスターが出たらくそげーだろう。最近のゆとりには、鬼畜難易度は厳しいのです。

 それに、一番奥には、迷宮の主と言われる魔族が居る。あまり詳しくはないが、その魔物は、そこいらの魔物とはけた違いらしい。ダンジョンを壊すには、その魔族を倒さなくてはならない。しかし、その魔族は強すぎる。これが、この世界から、一向にダンジョンが減らない理由だ。ここいらの簡単なダンジョンでも、かなりの危険が伴うらしい。故にダンジョンは増える一方のようだ。そのうち人間は滅ぼされてしまうのかもしれないね。


「では皆、覚悟ができたらダンジョンに入るぞ!」


 俺たちは、アルバの掛け声で、君の悪い穴の中に入っていくことにした。





          ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





 中は暗く、じめついた空間が広がっていた。ジメジメ、ヌルヌル、なんかこれだけ聞けばエロいな。だが実際は、不快な空間なだけであって、なんのうれしさも含んでいなかった。

 ダンジョンの中は、アルバを先頭、その後ろに俺とアオ、その後ろにモブである村人さん、最後にケントという布陣だ。まぁこれが一番安全なのかな? お家でぬくぬく暮らしていた俺には、何がなんなのやら全く分からないが。


「ここは、お前らぐらいなら多分大丈夫だろうが、気は抜くなよ? どんなときでも油断大敵だ」


「「はーい」」


 油断大敵ねぇ? こんな怖い空間では俺のような小動物は、気が気ではないんだがな。油断する隙ぐらい欲しいもんだ。

 ダンジョンは知識としては色々持っているが、実際にやるのと知っているのでは色々違うのだろう。実際そのような場面に直面すれば、俺のような人間は、足がブルブル、歯はガタガタ、全身が震えてしまうのだろう。


「気を付けろ! 前方に、魔物の気配がある」


 アルバが、大声で警戒を促す。魔物かー大変だなー。というか、よく気配なんてわかるな。俺にはなんの気配も感じなかったぞ? まぁ湿気は感じることは出来るが。

 俺たちダンジョン攻略組は、前方に注意を向ける。暗く、怖いダンジョンの奥から何か変なものが出てくる。

  それは緑色をした大きな芋虫のようなものだった。全長二メートルほどので、目玉のようなものが二つ頭から飛び出しており、足は蜘蛛のようなものが、体中のあちこちから生えていた。

 そのような変な生物が、十数体ほど奥から現れていた。その姿は、まさに地獄絵図、この世のものとは思えない光景だった。


「これは酷いな」


「ええ、最悪ね」


「戦闘準備! 前方二十メートルのとこに魔物複数!」


 その掛け声で、各々武器を構えだす村人たち。緊張が当たりを支配する。

 俺たちの存在に気付いたのか、その緑虫(大)が物凄い勢いでやってくる。緑色の大波がこちらに迫ってきているようだ。


「接近、アルト! アオ! 魔法頼む」


 俺たちは、言われて通り魔法を放つ。俺は、炎の魔法を前方の気持ち悪い集団に打ち込む。隣のアオさんは、小さい炎の玉を、投げつけていた。うん、楽したいだけだね。

 前方の緑色の集団は、一瞬にして灰になる。まぁ、俺があまりにも気持ち悪いと感じたので、超火力で焼き尽くしてしまっただけなのだが。いやだって焼け落ちる芋虫とか見たくないじゃん! あんなのが、燃えながらこっちに接近してくるなんて、俺は想像しただけで死にそうになるね。


「こりゃあ、すごいな」


 後ろの方から、感嘆の声が漏れる。はっはーもっと褒めてもいいんだぜ? 俺は褒められて調子に乗るタイプだからな!


「さすがアルト君だわー」


「やめてくれないか? その棒読み」


 俺たちは外行きようの仮面をかぶり、会話をする。まぁ、いつもの感じで会話してたら気持ち悪いことこの上ないしな。


「想像以上だな。これなら思った以上に楽に行きそうだな」


 さぁ、もっと褒めたまえ! そしてらもう、このダンジョンごと燃やし尽くしてあげようかね!

 俺たちはどんどんダンジョンの中に入っていく。魔物も出てくるが、そこまでの数ではない。こんな数でダンジョンからあふれ出てくるのか? どんだけこのダンジョンの内容量は少ないんだよ。もっと大きな気持ちで魔物のことも受け入れてやれよ。


 しかし、かなり進んできたが、どうやらここに出てくる魔物は、気持ちの悪いものが多いようだ。村とかで見たような、犬のような魔物は一握りで、あとは虫のでっかい版や、よく分からない肉塊のようなものばかりだ。

 故に、大体俺が跡形もなく燃やし尽くしてしまっている。あんなのと剣で戦うと想像したら、俺は発狂しそうだ。あのぶよぶよとした体躯に、剣がヌメッと食い込む感じ。うう、本当に気持ち悪いな。


「おかしいな、こんなはずはない」


 変な言葉を呟くアルバ。どうやら、何か計算外のことが起きているようだ。


「どうしたんですか?」


「ああ、普通魔物が溢れるときってのは、ダンジョン上層に魔物が集中していることが多いんだ。しかし、これはおかしい、上層部分の魔物はいつもより少ないぐらいだ」


 俺も考えてた通り、魔物の数は少ないようだ。そうだよなぁ、流石にこんな数では溢れないよな。ここに入って半日ぐらい経ったが、魔物と会うのは一時間に一度ぐらいの頻度だ。このぐらいで溢れるなら、世界中のダンジョンが魔物で溢れちゃうもんな。


「これは、一回引き返すぞ」


「いいんですか? 問題は解決してませんよ?」


「このメンツじゃ無理だ。上層をちょこっと行く分には大丈夫だが、中層以上に潜る必要があるなら、しっかりとしたパーティーを組む必要がある。一回みんな集まるぞ!」


 俺たちは、少しひらけた場所で、一度休憩をはさむことにした。一時間おき程度に毎回休憩を入れていたが、今回は少し趣が違うようだ。アルバはケントと二人で深刻そうに話し続けている。


「これは何やら難しそうですな」


「そうね、謎が謎を呼ぶようね」


「それは少し違う気がするがな」


 この場合は、一つの謎がめんどくさいという感じだな。まぁ、俺には謎自体なんなのか分からないけど。


「あら、そう? まぁどうでもいいことよね」


「そうだなぁ、帰れるに越したことがない。僕は平和が一番なのですよ」


 ダンジョンよりも家、家イズベスト、ベストオブ家なのです。


「平和な世界では生きていけないくせにね」


「できないから人間は望むんですよ」


「なんというジレンマね。手に入るはずないのにね」


「望まなければ手に入らないんだよ」


 宝くじだって、買わなければ当たらないのだ。うん、そういうことだよ。


「望むから辛くなるのに」


「そうだね。まぁ、僕の心情を簡潔に表すなら、早く人間になりたいんだよ」


「あら、悲しい生き方ね」


「そうだねー、悲しくて生きてるのが辛くなるよ」


 アオと話していると、自分がいかに不完全かを気づかされるから嫌なんだよ。克服するチャンス? 何をバカな、俺は嫌なことからは逃げていたいんだよ。


「しかし、話し合い長いねー。暇になってきたよ」


「あら、私との時間がつまらないの?」


「君との時間は内容が詰まり過ぎて疲れるんだよ」


「あら、中身がある女なんて褒めないで」


「単純にめんどくさい人間なだけですけどね」


 しかし、こんなジメジメした空間に居るのはつらいな。こちらの気候はかなり過ごしやすい。一応四季というものもあるようだが、そこまで気候の変化は見られない。一年を通して温暖な気候が続いている。暮らしやすいのはいいが、変化がないというのが欠点だな。


「なんか、面白いことでも起きませんかねぇ?」


 俺には安全で、アオが面白いような状況に陥らねぇかな。そんな状況に陥ったら、俺は笑い続ける自信があるぜ。


「そこら辺の壁にでも話しかけていたら、面白いかもしれないわよ?」


「そうだな、お前に話しかけるより、壁に話しかける方が有意義かもね」


 嫌な現実から逃げられるという点に至っては、壁の方が人間より優れているかもしれない。壁からは何も帰ってこない代わりに、何も気づかないで済むしな。


「では、俺は一人壁に話しかけてますかね」


 俺は壁に向かって、座りなおす。アオさんと話し続けるよりも有意義だしな。


「あら、本当に壁とお話しするの? 引くわ―」


 言っとけ、アオさんと話し続けるのは、俺のMPを消費し続けるんだよ。HPは平気だが、精神を減らすんだよ。


「ん?」


 あれ? なんか壁に違和感を感じる。なんなのか分からないが、少し変な感じがする。

 ん? 俺のファンネルと呼ばれる妖精(仮)さんが反応している。こんなこと今までなかったのに、どうしたのだろう? もしかして、壁に話しかける絵面がいけなかったのだろうか?


「どうしたん?」


 なんだろう? なにか必死にこちらに何かを伝えようという意思がうかがえるが、全く分からない。俺は昔から人の気持ちが分からないと叱られたもんだが、こんなところでそんな弊害が起こるとは。いや? これは人なのか? いや! 同種の気持ちが分からないやつが、妖精さんの気持ちを分かるはずがないか。いやその理屈はおかしいか。


「まぁ、どうでもいいか」


 俺に害がないのであれば、なんの関係もないや。俺は鈍感系主人公だ、世界の謎に気づかず、平和な夢の中で生きて行きたい系主人公なのだ。


「ってあれ?」


 なんか引き込まれている気がする。俺、壁に引き込まれている気がする。


「あれ? どうしたの? 壁にめり込みたいお年頃なの?」


 半分以上壁にめり込んでいる俺を指さしながら笑い転げているアオ。


「ちょ、壁に半分以上めり込んでるんだけど、超めり込んでるんですけどー」


 そういえば、俺もさっきアオが不幸になったら笑い続けるとか言ったな。これは因果応報なのか? しょうがないじゃない! 俺だってアオが壁に吸い込まれたら、笑っちゃうもん。そして絶対に助けないし。


「しょうがないわね。助けるふりだけはしましょう」


 クソっ! この期に及んで、世間体を気にしやがる。なんて野郎だ、俺が居ない家でも平凡に暮らしていこうとしてやがる。


「う、うう、あんなにいい子だったのに」


 そして、なんか俺の葬式の練習までしてやがる。さすがに一人で壁の中に行くのはごめんだ。こんなよく分からないところに行くのに、一人だなんて心細すぎる。


「おら! 巻き添えだ!」


 俺は最後の力を振り絞り、アオの腕をつかみ、壁の中に引きずり込む。壁の中、みんなで潜れば怖くないだ。


「やめなさい! 一人で死になさい!」


「うるせー巻き添えじゃ! 一人じゃ寂しいんじゃーい」


 俺たちは、そんなふざけたやり取りをしながら、壁の中に引きずり込まれるのであった。

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