戦い
「さて、準備は出来たようだな?」
「あぁ、いつでもかかってこいよ? コルペ、お前に負けを認めさせてみせるぜ」
「必死に魔法使いについて調べていたようだが、お前では私に勝てぬよ」
「それはどうかな!?」
俺は一気に走り出す。力いっぱいに地面を蹴る。自慢じゃないけど運動神経はそこまで悪くない。自分史上最速の一歩を踏み込む。
日中、他の奴隷達から情報を集めた感じだと、魔法は水を出したり火を出したり無から有を生み出す能力ではあるが、一概に破壊力がある訳ではなく、コルペが農業用の水を出したり料理用に火を出すとこ以外は目撃されていない。
全力を出す必要がないだけかもしれないが、どちらにせよ高度な集中力が必要であるらしい。農作業ですら即時に魔法を使うことはできていない。
ならば、速攻で決めれば行ける!
「まぁ、予想通りだな。では、燃えろ」
瞬間、顔が熱を感知したと同時に——
「熱っ、ぐぁぁぁ!?」
目の前に火が現れた。
何もないそこに突然炎が揺らめいていた。全力疾走していた俺が止まり切れるはずもなく、熱源へと突っ込んでいた。
普通に生きていたならば、俺が感じるはずの無い痛み。熱い、ああああああ!!! 熱すぎる。苦しい、嫌だ。なんなんだこれは!? うわああああ!! 痛い痛いいたいいたい!
まともに思考が働かない。頭の中でさえ悲鳴をあげている。少しでもこの熱さを収めなければ、はやくはやくはやくはやく!
俺は地面に顔からつっこみ、辺りを転げ回った。
「熱いのか? それでは冷やしてやろう。凍れ」
コルペが何を言っているかはよく聞き取れなかった。俺はただ熱くてあつ、冷たい? 冷たい寒い寒い寒い!
体が動かない。手の自由が効かない、目が開かない、口の中が変だ、そうだ! 降参だ。もう無理だ!
こんなのに勝てるわけない。たった一言でこんな現象が起こせるようなやつに勝てるわけが無い。
そうだよ、俺はただの人だし。神だって言っても信者がいなきゃなんにもできないんだろ? そんなのって神じゃないだろ? なにかできての神さ! そうに違いないだから! 早く降参を!
「……あ……? ……あ……!!!」
声が出ない。口が動かない。なんだこれ、俺どうなってんだ? 目も開かないし何が起きてるんだ? 感覚もあんまわからなくて、寒くないなそういえば——
「口だけだったな。その程度で神を名乗るとは……余はお前に期待してしまっていたのだろうな。ここまでがっかりさせられるとは……。それ以上喋ろうとすれば、口元が裂ける程度ではすまないぞ。体を少しでも動かすことは勧めないな」
口元が裂ける? 何を言っているんだ? こいつは。上手く喋れないならどうにかコルペに伝えなきゃ。うずくまってまだ反撃の意思があるって思われちゃ困る。もう痛いのも苦しいのもやってられない。俺は一般人で学生だぞ。若気の至りでこんなことしてるだけで、こんな目にあういわれはないんだ!
降参って手とかあげればいいのか? 手を上げよう! そうだ! 降伏の意志を表さなきゃ。
ボトッ。
何かが落ちた。
「だから言ったであろう。両腕が落ちては、奴隷にすらなれんな」
腕……? 俺の?
全身の感覚はない。目を開くことさえ叶わない。でも腕が落ちるなんてそんなはず、そんなのは俺を脅かすための冗談だ。そうだろ?じゃなきゃおかしい…よな?
「これではもう使い物にはならぬな。一思いに殺してやろう」
は? 殺す……??
なんで? 俺はまだ働ける! だいたい俺が働けるかどうかなんてお前に取っちゃどうでもいいだろ!! 誰かこいつ止めろよ! なぁ!?
クソッ! 口が動かない。そんな、俺、死にたくなんて、まだそんな覚悟。
「やめてください! お兄さんを! お兄さんを殺さないで!」
「ほう。少女よ。こいつは遅かれ早かれここの主に殺されてしまう運命だ。なんの意味がある?」
「わかんない! わかんないけど!! お兄さんは私に優しくしてくれたの! お父さんもお母さんもいなくなって、やっと私にできた繋がりなの! これ以上私から奪わないで!!!」
そ、そうだ! アリア! そいつを止めてくれ! 俺は死にたくなんて——
「ならば少女よ、お前も共に殺してやろう」
「え?」
「炎よ!」
さっきとは比にならない熱を感じる。コルペはさらに大きな炎を魔法で起こしているのか。もう助からないのか? 俺は……死にたくない! 死にたくない!! だれか誰か!! 誰でもいい助けてくれ! 神様!!!
急に体の感覚が戻った。
周囲の景色も鮮明に見える。
目も開けていないのに。
体を動かすことは叶わないが何故か周りを知覚できる。普通じゃありえない。何も感じないはずが何もかも感じることができ、それなのに体が動かない、誰も動くことはない、アリアの流す涙さえも頬から流れ落ちることはなく。世界の時が止まったかのようだった。
そう、それはまるで神の御業のように。
—早かったですね。もう少し持つと思っていたのですが。—
こ、この声は……!?
—我が名はカミエル。迷える仔羊よ、我が力により救いを授けよう。—
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