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第十一話(最終話)壊れていると知った日
何かを叩く音が、何度も——乾いた音で、続いていた。
「……お嬢様?」
返事はない。
女中は躊躇いながら、そっと戸を開けた。
部屋は、ひどく静かだった。
香の匂いだけが、かすかに残っている。
膳はそのまま、冷えきったまま、誰の手もついていない。
「……あの」
一歩、足を踏み入れる。
少女は、動かない。
呼びかけても、わずかにも反応がない。
女中は、恐る恐る近づく。
「お嬢様……?」
顔を覗き込む。
——その表情は、穏やかだった。
あまりにも、穏やかすぎた。
ふいに。
少女の肩が、小さく揺れる。
くすくす、と。
笑い声が、こぼれた。
視線の先——
ひび割れたガラス。
そこに映る自分を見つめたまま、
少女は、笑い続けていた。
「壊れているのは、自分だと——知ってしまった。」




