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第68話 名君ってのは年に関わらず名君らしいね

 七尾城を見上げる麓にある七尾城下の町外れ、越後・上杉軍の本陣。


 そこには後ろ手に縛りあげられた畠山親子と、その横に並んで上杉輝虎に平伏する三名の姿があった。

 畠山親子を追放した重臣、遊佐続光(ゆさつぐみつ)長続連(ちょうつぐつら)の二人と、彼らに担ぎ上げられた畠山家の孫、畠山義慶(はたけやまよしのり)


「此度の騒動、己の悪事を隠しながら自らを追放した重臣たちを悪と仕立て上げ、我らを言いくるめてこれほどの兵を動員させた罪は重い! 私はこの能登畠山家『()』当主の義続・義綱親子に切腹を命じるのが妥当だと考えるが、どうか?」


 そう言って輝虎は俺と朝倉義景に同意を求める。俺は後々に遺恨を残さないためにもこんな奴は切腹で良いと思うんだが朝倉は難しい顔をして目を瞑り、思案している。こんな変態オヤジ、生かしといてもロクな事ないと思うけどな。また誰かを担ぎ上げて能登を取り戻そうと攻め込まれても困るし。


「とはいえ畠山家と言えば足利将軍家の中で三管領を務めた事もある名家。そのような者を切腹させたとなれば我らとて汚名を被るのは避けられんだろう」


 ハッキリ切腹反対とは言わないが参考意見として、とでも言いたそうに朝倉はそんな見解を並べる。

 それは確かに分かってるよ。だから重臣たちも自分が大名となる下剋上では無くてまだ幼い孫の義慶を自分たちの操り人形とする政治の方を選んだんだろうし。

 しかしそうなるとこの二人の処遇をどうするかが問題だ。


「この度、これほどの騒動を起こしてしまった原因は我らにもあると存じます。もし義続様を切腹となさるのなら我らも腹を斬るが道理。この遊佐続光・長続連も共に裁きをお与えくだされ」


 そう口を挟んだのは義続と年の変わらない感じの重臣、遊佐続光と長続連だった。初めて顔を合わせるが二人はいかにも正々堂々としている事を誇りとする武人、って感じの佇まいだ。そういえば二人とも名前に義続の『続』の字が入っているのは一字拝領、っていう奴なのか。だとしたら『上司の不始末も連帯責任』と考えてしまうのもあるのかもしれない。


 でも、そう言われると切腹を求めるのが更に難しくなってしまう。困ったな。



「私は、尽くしてくれた二人の爺やを失う事は望みません。ですが家臣の信用を失う愚かな行為を行った先々代と、それを見て見ぬふりで揉み消そうとした先代は許すことは出来ません」

「よ、義慶。父や祖父である我らにそのような事を……」


 重い空気の中で口を開いたのは現当主として担ぎ上げられた畠山義続の孫・義慶。聞いた話ではまだ12歳で色々な判断を下せるような年齢ではない、と聞いていたが思ったよりも全然しっかりとしていて威厳すら感じる。


「黙りなさい!このような騒動に巻き込んだ首謀者を父や祖父と思い、敬えるはずがありますか!?

 それに私を排した後、まだ3歳の温井殿の息子を自分の子種だと吹聴して当主に就け、傀儡にして再び能登を牛耳ろうとしていた事も聞き及んでおります」

「父上、そのような事まで企んでいたのですか!?」

「ぐぬぬ……」


 息子の義綱さえ知らなかったのか。やっぱりこんな奴、生かしておいたらロクな事が無いんじゃ……



「この者らを切腹させずに、しかも二度と再起の目が無いようにすれば良いのですな。私に考えがあります」


 末席からザ・優雅という感じで孔雀の羽のような扇子をヒラヒラさせながらおなじみの男が俺達の前に歩いてくる。ってかソレ、何処で手に入れたん?


「その者は?」

「申し遅れました。私、姓は竹中、名は半兵衛、字名を……」

「ああ、ウチの軍師です。切れ者ですが三国志かぶれの変な奴でして……」


 俺が慌てて説明を加えるがそうじゃなかったら完全に不審者だ。戦の流れとか相手の戦略とか地理とか読めるんだからどうせなら場の空気も読んでもらいたいんだが。しかし当の本人は全く気にも留めず、自分の意見を話し始める。フリーダムすぎるだろ、オイ。


「実は加賀よりこちらへ向かう途中、加賀とこの能登の境目・末森城の辺りですかな。その辺りの川でキラリと光るものを見かけて取って参ったのです。こちらを」


 半兵衛が袖の下から取り出したのは小石ぐらいもある金の塊だった。川にある、って事は砂金か?


「付近の者に聞けばその川は宝達山(ほうだつやま)より流れてきていると聞く。ですので、宝達山をくまなく調べ金山として拓く事が出来れば国を豊かにするための資金も手に入りましょう。

 しかしそれは何年にもわたる過酷な重労働……まさに罪を償い、この国の為に働くにはぴったりの場所では無いですか?」

「貴様! この老体に、それも元当主であるワシにそのような下賤の者の重労働をさせようというのか!? 」

「黙れ! 女の尻を追いかけまわす元気はあるくせに何が老体か!? 」


 輝虎が立ち上がろうとすると義続は慌てて膨れ上がった顔を背ける。あー相当なトラウマになったんだなアレは。


「よかろう。ならば畠山義続・義綱! その者らは新たに拓く宝達金山の人足となる事を今回の償いとする! 遊佐続光を末森城主に、長続連を宝達金山の奉行とするゆえ、その者らの監視と能登国の新たな富を生み出すよう、しっかり務めてくれ」


「我らは元より義慶様を曾祖父・義総様に並ぶ名君の才があると信じ従う身。必ずや能登の地を義総様の時代を越える豊かな地とする為、努めましょうぞ! 」

「義慶様をお支えする役目は我が倅たちに引き継ぎましょう。盛光・婿殿・それに長殿……任せましたぞ」


 半兵衛の意見を受け的確に裁定を下していく若干12歳の当主と、その意図を完璧に汲み取る重臣とその息子たち。これだけ盤石の体制ならばもう、俺達がなんだかんだと介入する必要もないだろう。こうして無駄な攻城戦や重要な将の命が失われる事なく、能登平定戦は幕を閉じた。


 何か忘れているような気もするが、問題は無いだろう。



 そして駆り出されていた朝倉・上杉の大群が引き揚げ、抵抗しようと集まっていた能登の軍勢も各地に帰っていった後の七尾城の天守閣の大広間。


 能登・越中・加賀三国の混乱平定の祝賀として、朝倉・上杉の主だった者に能登守護の畠山義慶とその重臣、遊佐盛光・温井景隆・長慶連などが集まり、そこに俺が寿四(寿司)を振舞う席が設けられた。


 今回提供する寿司は七尾湾産のノドグロ・皮ハギに石崎エビ、輪島で採れたアワビやサザエ・岩ガキなどの貝類の軍艦巻きなども並ぶ。それ以外にも能登では伝統的に食べられていたナマコの酢の物やフグの卵巣の糠漬けなども小鉢として添えられている。米は実り豊かな平野部の越中の米を使い、寿司酢はビネガーでは無く朝倉家が京料理を提供する時にしか使わない、この時代では貴重な酢と砂糖を使用した逸品だ。


 輝虎などは食べ慣れない貝類の寿司やナマコに最初、戸惑っている予定だったが実際食してみると目を輝かせて歓び満面の笑みを見せた。普段は難しい顔をして表情を変える事が少ない朝倉義景も顔を綻ばせている。他の面々も感嘆の声を上げ、おそらく初めての美食に満足している様子だ。



「我らの普段食しているものが更にここまでの美食に引き上げられようとは」

「この能登は訪れてみて本当に食の宝庫だと感じました。味と新鮮さを損なわず違う土地へ届ける事が出来るならば、新たな豊かさと価値をどんどん生み出していけると思うのです」


 俺はあらかじめ半兵衛と軍監から記入されて説明された地図を広げ、七尾-穴水-輪島の陸路の整備と越後直江津~越中富山湾湊~能登半島の先・飯田湊を通って輪島~金沢~越前三国(みくに)湊と繋がる海路を整備することについてプレゼンする。ここまでの範囲がすべて商業で繋がれば皆が豊かになるのは間違い無いハズだ。


「我が朝倉家・上杉家・そして能登畠山家で手を取り合って三越・加賀・能登の越州五か国を豊かにし、いずれは関東小田原も京の都をも凌ぐ豊かな地を作り上げていこうではないか」


 俺のプレゼンに胸を熱くしたのか、普段は冷静な朝倉義景が立ち上がって強く拳を握りしめる。


 だがその時だ。


「くっそー、やっと着いたと思ったら戦終わってんじゃねえか!? しかもお前ら美味そうなモン食いやがって!俺らの分はもう無い? なんだよチックショウ!! 」


 ただっぴろい大広間の奥、更に閉めた襖の向こう側からでも響き渡る大声で聞き覚えのある声が乱入してくるのが分かった。


 あ、やっべ……遅れて陸路で半島回ってきた鬼トリオの分、考えてなかったわ。


(北陸平定編 -了- )

ご観覧ありがとうございます。

これにて北陸編完結です。

今後も面白い作品に仕上げていきたいと

思っておりますので感想戴けると嬉しいです♪


次の更新まで1週間ほどお休みします。

理由は近況報告にて!

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