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第50話 名軍師と『ふるぷれーと』

前回までのあら寿司

 美濃を攻める織田信長を撃退し、暗君・斎藤龍興から美濃を奪った武田・浜連合軍。城から逃げた龍興を捕まえました。

 その日の夜に差し掛かる頃『斎藤龍興(さいとうたつおき)ら一行が発見され捕縛された』との情報が、俺達の泊まっている寺に入ってきた。それを聞いて主だった者達が稲葉山城へと集合する。ちなみに、義信・勝頼兄弟がどうなったかはまだ、何の知らせも入っていない。


「おい! こんな事してタダで済むと思ってんのか!? 俺を誰だと思ってんだ斎藤様だぞ! 」


 稲葉山城へと続く山の中腹にある篝火が焚かれた場所。そこに斎藤龍興とその一行は後ろ手に縛られて正座させられていた。威勢よく喚き散らす龍興の声が山中にこだまする。だがその股間からは離れてても分かるような糞尿の混ざった、悪臭。


 コイツ、漏らしたどころじゃない状況なのによくこんな偉そうにできるよな……映画なんかで見たシーンだとこういうのって普通は城の前庭なんだろうけど、そこにすら入れたくなくなる気持ちがよく分かるわ。


「斎藤龍興! 貴様はこの武田が『同盟があるから』なんて理由で、本当に何の得も無く救援に駆け付けるとでも思ったか!? 」


 信玄が簡易的に用意された椅子にドカッと座り、龍興を正面から睨みつけながら大声で尋ねる。その姿はまるで地獄の閻魔大王の裁きだ。俺がこんなんされたら恐ろしくて小便漏らしちまうだろうな……ってもう充分にやっちまってたか。


「何が望みだ、酒か?女か?両方か?どちらも出来る限りの物は用意してやる! だから殺さないでくれ! 命だけは助けてくれぇ、お願いだ!! 」


 いかにも悪役の退場前のテンプレ的な言葉と新たな悪臭をまき散らしながら龍興が喚く。


「貴様の昨夜からの言動、態度。甲斐の虎・武田信玄を舐めてかかるのもいい加減にせい! この者らの首を撥ねよ、主だった者は軍議に戻るぞ! 話は以上だ。」


 まったく耳に届かない様子で信玄はそれだけ命令すると立ち上がって椅子を蹴り倒す。それを見て高坂昌信や山県昌景といった信玄の重臣たちも一斉に無言で立ち上がって後に続く。軍議には呼ばれていないが俺もこんな現場を最後まで鑑賞している趣味は無いので、信玄たちが稲葉山城に戻っていったのを確認するとその場を離れる事にした。



「おお、これはこれは寿四郎殿。お久しぶりでございます」


 陣へ戻ろうと下山する途中、声を掛けられる。絹のような白い衣に手には孔雀の羽のような扇、見るからに「The・優雅」って感じの雰囲気。間違いなく何処から見ても竹中半兵衛だ。


「半兵衛どの、今回はお知恵を貸していただきありがとうございました。おかげで被害も最小限にとどめながら織田勢を追い払う事に成功しました」

「寿四郎殿には一宿一飯の御恩がありましたからな、それを返させていただいたまでの事。それに流れる血は少なく済んだ方が良いですからな」


 俺の感謝の言葉に飄々とした表情を崩さずに応える半兵衛。しかし結果的にはその事によって主君である美濃斎藤氏の滅亡に加担した形になるわけだが、そこは平気なのだろうか?


「斎藤家など義龍(よしたつ)様が亡くなった段階で元より半分くらい滅亡していたようなもの。あのような愚者が主君では、元より長くはなかったでしょう」

「それで、半兵衛どのはこれからどうされるのですか?」

「しばらくは我が嫁の実家、西美濃の安藤守就殿の元に身を寄せ隠遁生活を送る所存。舅殿はすでに武田に従属することを決めておられましたので、その使者として参ったところです」


 そう言って稲葉山城へと踵を返す半兵衛。史実だと斎藤家が滅亡した後、豊臣秀吉の軍師になるんだよなこの人。こんなチートキャラ敵に回したくないし、なんとか阻止できないものだろうか。


「あのぅ……もし良かったらですけど、隠遁生活に飽きたら当家(ウチ)に来ませんか?今回の事もそうですが貴方ほどの人材なら当家は喜んで歓迎しますよ! 」


 イチかバチかだけどスカウトを掛けてみる。少なくとも織田・豊臣陣営が彼の有能さに気付いてスカウトするよりはこちらの行動の方が早いはずだ。


「そうですぞ! 半兵衛殿どの!! 」


 大声に振り向くと槍を持った全身銀色の甲冑が篝火に照らされながらこちらへと一歩一歩迫ってくる。だがその一歩一歩は鈍く、三歩進んだところでガシャンと音を立てて盛大にコケて兜が転がり、軍監の痛そうな表情があらわになる。ってか、まだコレ着てんのかお前……もはや意地だな。


「これは軍監どの!! ……その鎧はまさか、南蛮渡来の話に聞く『ふるぷれーと』ではありませんか!!? 」


 軍監の登場にか、話には聞いていても実物を見るのが初めてな西洋甲冑にかわからないが、興奮した様子で軍監に駆け寄る半兵衛。……多分後者だと思うけど。そして倒れた軍監を助け起こすでもなく、甲冑をペタペタと触って何かを確かめるとこちらに向き直る。


「この竹中半兵衛、その話お引き受けいたしますが条件があります! ……こちらの『ふるぷれーと』を私に下さるのであれば、喜んでお仕えいたしましょう」


 ……ねぇ、世の中の『軍師』って言われる人たちってこんな変なのばっかなの?こんなクソ重くてマトモに動けない甲冑にそこまで価値を見出してるの、今のところ君たちだけしか見た事ないよ?


「軍監、いいか?」

「え、ええ。この甲冑の価値を認めてくださる半兵衛様であれば、仕方ありますまい」

「ならば契約成立ですな♪では早速」


 言うが早いかキラキラした目で倒れている軍監に走り寄り、甲冑の一部分をバリバリと剥がし始める半兵衛。


「ふむふむ、此処がこうなっているのか。実に興味深い」

「いやあああああ! 高かったのにコレ! そんな剥がして元に戻せんの!? 」

「元に戻らずとも、後の世に鎧の進化をもたらせるのであればこの甲冑も本望でしょう。次は此処か」

「止めてええええ! ソコだけはやめてえぇぇぇぇぇ! 」


 その夜、男同士で何をしているのかと勘違いされそうな悲鳴が稲葉山に響き渡り、俺はこの時代においてチート級の強力な新戦力を手に入れた。

ご覧いただきありがとうございます。

皆様の応援のお陰で連載話数50話をついに

迎える事が出来ました!!

記念回がこんな内容ですが(笑)

これからもよろしくお願いします。

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