第49話 西洋甲冑で水神の末裔とか、そんなワケねぇだろ!?
前回のあら寿司
武田の美濃平定作戦に参加し、同じく美濃を狙う織田軍と対峙する寿四郎たち。
秀吉の一夜城作戦を見破り、いよいよ織田軍を川沿いまで追い詰める。
戦が始まって約一刻(2時間)
戦いは終始俺ら武田勢の優位に進み、ついに織田勢はボロボロになったハリボテ城を前線として使うのを諦めて後退し始めた。俺は前線の指揮をマグロに任せ、馬を切り返して味方の本陣へ向かう。
「何?深追いを止めて川沿いに追い込んで待て、だと?」
俺の進言を聞いた義信や他の武田家臣たちは「何で?」という顔をしながら説明を待つ。いや、そんな顔をされても『大蛇が来る』とか俺も意味わからんし説明しようがないんだが……
「これより一刻半(3時間)の後、木曽川の上流より昨日降った雨により、鉄砲水が押し寄せます。その姿はそこに居る者全てを飲み込む、さながら大蛇の如き勢いなれば」
誰かと思って振り向くと、西洋甲冑を着込んだままの軍監が荷車の上で微動だにせず説明を入れる。
「その者は?」
「我が名は水神・天水分神の末え……」
「ああ、ウチの軍師です。戦況を読むのは得意なんですが、いかんせん変わり者なんで」
そういって荷車を引く者にアイコンタクトを送って下がらせる。軍監は指一本動かせないまま「ちょ、待」とかブツクサ言いながら高速で運ばれていった。
「なるほど、ならばこの辺りで前線を張り、その時を待つとしよう」
義信の発言に皆が頷き、それぞれの隊に下知を告げる。勝頼の隊が大人しく従ってくれるか不安だったが、一夜城を見破ったことが効いているのか今回は素直に言う事を聞いてくれたようだ。そして前線は警戒状態を解かずに交代で食事などの休息を取って一刻が経過する頃。
「殿のお下知通り、木曽川にて大水発生! 河野島の織田本陣は飲まれ敵軍前線も大混乱の様子! 」
どうやら半兵衛の言っていた事が本当に起こったらしい。その知らせを受けてにわかに本陣が動き出す。
「ここが勝負所だ! 今のうちに逃げ道の無い敵前線を殲滅し、水が引いたら河野島本陣を叩き潰す!全軍でかかれ!! 」
義信の下知に敵から距離を置いて睨み合うだけだった前線が一気に押し出され、敵を追い込んでいく。洪水に逃げ場を失ってこちらへ向かってくるものは討ち取られ、こちらの槍から後退して逃げ惑う者は急流に呑まれて流される。敵軍にとっては地獄のような二択だろうな。
そうしているうちに水が引き、馬が渡れる水位になった木曽川を渡り河野島の織田本陣に辿り着く。だがすでにそこは何もかもが川底の泥にまみれ、溺死を免れた兵もすでに戦意を喪失していた。
当たり前だろう、命があっただけで儲け物だ。彼らはあっさりと投降を認め、捕虜になる事を承諾した。
「それで、織田信長はどうなったのだ?」
その場で主だった者が集められて捕虜となった者への尋問が始まる。しかし捕虜の話では織田信長は『頭痛い、それになんか嫌な予感がする』と告げ、昼前に河野島を出て尾張側へ川を渡ったのだという。柴田勝家、前田利家ら重臣も付き従って川を渡ってしまったため、本陣と前線の兵は指揮官不在で取り残される形になったのだとか。
嫌な予感なんて曖昧なものでそこまでするとか、野生の勘が凄まじいタイプなのだろうか?それで実際洪水に呑まれる状況を回避してるわけだから凄い能力だとは思うが、部下をあっさり見捨てて生き残って平気でいる感覚が俺には到底、理解できない。
「一大事です!勝頼さまが軍勢、織田本体の姿が無いとみるや支流を渡り、尾張小牧山城方面へ単独で進攻!! 」
野生の勘で動くやつ、こっちにも居たああああ!! それで返り討ちにでもあったらどうするつもりなんだよアイツ!?
報告を聞いた一同が騒然となる中、更なる伝令がもたらされる。
「御屋形様、稲葉山城の奪取に成功! 斎藤龍興一行は船で逃げるため木曽川方面へ逃走中。捕えるために木曽川沿いの警備を固めよとのお達しです! 」
反抗の芽を残さず潰しておくためにも、あの阿呆は此処で逃がすわけにはいかない。かといって武田の猪野郎も返り討ちに遭って死なれた日には責任問題だ。それが分かっているのでここに居る全員が頭を抱える。いやもうホントに、余計なことしやがって!!
「私と、私の手勢で四郎を連れ戻しに行って参ろう。皆は木曽川を渡り、逃走してくる斎藤龍興に備えるのだ」
誰もが何かを言いたそうしながらも口火を切れないでいる中、義信がさらっとそう話す。その言葉に「拙者が代わりに」とか「追いかける必要はない」という意見が口々に出るが義信はそれらをサラッと躱してさらにこう言葉を継ぐ。
「血気に逸る未熟な弟を止めるは兄の役目。それに身内一人の暴走を止められない者がどうしてこの武田家臣団を一つにまとめられようか。ここは私の裁量を信じて、託していただきたい」
そう言って信玄の代からの重臣たちに軽く頭を下げる。その態度に秋山虎繁も高坂昌信も顔を見合わせ、仕方ないという表情をして首を振る。そうして俺達の軍勢は義信の本隊5百を残して美濃側へと川を渡った。
でも、それが武田のパーフェクト御曹司・義信の姿を見る最期になるとは、この時は誰も気づかなかったんだ。
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