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第102話 多少の事は目を瞑るけど、大トロは微妙なところ

長らくお待たせいたしました。

寿司天・第4幕、開幕です!!



 俺が駿河するが国主に続いて甲斐かい信濃しなの美濃みのの国主になってから3年の月日が流れた。


 

 信玄から引き継いだ領土をそのまま守れれば良かったのだが、俺が勝頼かつより信虎のぶとらに苦戦している間に、越前朝倉をほとんど壊滅させた織田・徳川連合軍と飛騨勢からは美濃に攻め込まれ、信濃は勝頼が治めていた諏訪すわ領を筆頭にして武田古参ではない国衆が反乱。

 

 まだ旧・武田家臣団と俺達・はま軍団の連携が完全に取れていない中でその両面に兵を送らなければならない状況となり、結果、信濃の反乱は何度もの戦いの末に鎮圧できたものの、美濃のほとんどは織田に奪われる形になってしまった。



 それらの一連の戦いの影響か、義輝将軍が『後足利幕府』と名付けた東側幕府の団結にもかげりが見え始める。ことに東北側の大名たちの中には船でわざわざ京へ上って信長に土産を持って謁見する者まで現れ、元々草食系男子っぽい義輝よしてる将軍は完全にメンブレしていた。


「北条氏康(うじやす)殿のように戦局を変えるほどの力も無い『お飾り将軍』の、何もできない私など……居なくても良いのだ……」

「おっおおお落ち着いて下され義輝将軍様! 将軍様がそんな態度では周りの皆も困りますぞ」


 と北条家との取次役・北条氏照(うじてる)を慌てさせるほどだったとか無かったとか。そんなやり取りやこれまでの気苦労が祟ったせいか、氏照は最近、頭頂辺りから髪が薄くなってきている気がする。アイツ……まだ30代半ばなのに。


 

 だが俺達も一枚岩とはいかなくなったのと同じように、西の方もこの数年で変化があった。


 

 若狭わかさ武田・北近江きたおうみ浅井・近江六角(ろっかく)を滅ぼして飛騨を傘下に置き、美濃のほとんどまで手に入れて中日本で大きく勢力を伸ばした織田信長だったが、それまで同盟関係にあった三好みよし松永まつなが本願寺ほんがんじとはたもとを分かち、さらに将軍・足利義昭(よしあき)や公家達とも手を切っていた。信長側が『貴様らの力などもう不要だ』と言ったとも、京の公家衆が信長の力が強くなる事に危機感を覚えたためだとも言われているが、真相は定かではない。


 それらの理由で信長の本軍が近畿きんき西側の制圧に力を割かなければならなくなった事から、ようやく微妙に緊張が解かれた状態になったのが今年、天正3年(1575年)に入ってからだ。



 この3年の間で織田信長と直接兵を交えた事は無かったが、小谷こたに城を攻め落とされて殺されかけた時の陽炎に浮かぶ悪鬼のような姿を思い出すと、何時あんなのが大軍を引き連れて美濃から甲斐へ乗り込んでくるのかと思うだけで相当な重圧だった。アレが来る心配をしなくて良い、ってだけで心が軽い。


 

 よぉし、こんな日には寿司に天婦羅に日本酒で気分転換だ♪


 

 ここ甲斐甲府かいこうふの町の北側・赤坂台に新たに建てられた新府しんぷ城から海のある田子の浦までは20里(約80km)離れているので、荷駄で物を運ぶには1日以上の時間がかかる。なので新鮮な海の幸を持ち込むのは無理とされてきたのだが、俺とウチの軍団が持ち込んだ雪と保冷ボックス(ヘチマ樹脂を漆で固めた箱)によって多少なら冷蔵輸送が可能になった。


 そのおかげでこんな山地の甲斐であっても新鮮な真鯛やマグロ・初鰹といった駿河湾で獲れる魚の寿司が食べられるし、山で獲れた山菜の天婦羅も食べる事が出来る。酒は勿論、雑味が強いどぶろくが主流のこの時代でも俺が越後で開発した澄み酒、つまり淡麗辛口の清酒が日本食には絶妙のマッチングだ。



「うん、やはり美味しいものが安心して食べられるって幸せだな♪」

「誠にその通りでございますな」

「うんうん♪……って、え!? 」


 独り言のつもりで呟いたセリフに返事があったのでビビッて振り返ってみると、そこには信玄時代からの甲斐軍師・真田昌幸さなだまさゆきがいつの間にか居た。しかも許可してないのに、もしゃもしゃと口が動いてすでに何かつまみ食いしている!!


「ああ~っお前ッ!! 俺の楽しみにしていた大トロの漬けを食いやがったな! 」

「はて?拙者は赤身の魚がいくつも並んでおったので色が悪かったものを毒見したまで」

「それは『漬け』って言って醤油に漬けて腐りにくいようにしたヤツなんだよぅ~」


 軍師として知恵が回る上に隠密行動までこなせるスーパー軍師な昌幸だが欠点がある。それは完全に空気を読めない上に神出鬼没な所だ。


 3年前は先祖伝来だという熊だか猪の毛皮を使ったくっさいベストを着ていたので、現れると臭いで分かったのだが(それはそれで迷惑だったのだが)義輝将軍に頼んで直々に止めさせたら、今度は現れても全く気配が分からなくなってしまった。


 この前なんかは正室の光と久しぶりに夜のお楽しみな所を、音も無く偵察の報告に現れたかと思えば「気にせずに続けてくだされ、信玄殿なら構わず続けておりましたので」とか言い放つもんだから光がブチギレて続きどころじゃない騒ぎになったものだ。



 まあ、軍師という人種に裏切られたらどれだけ厄介な事になるか身をもって知ってる人間としては多少の事は目を瞑るしかないけど。大トロ食われたのは多少かどうかは微妙だけど。



「それで昌幸、要件は何だ?」

「はっ。織田方の撤退に合わせ、越後の長尾輝虎ながおてるとら様もこちらに引き上げて来られたご様子。先々の方針について話したい故、海津かいづまでお越しくださいとの伝言でございました」


 淀みなく報告してくれているが、今度は楽しみにしていた江戸前煮穴子まで皿から無くなっているのに気付く。コイツ……いくら何でもやりすぎだろ!?


「心得た。だが1つ、言っておきたい事がある」

「何なりと」

「今度はお前の分も用意しとくから、つまみ食いは止めろっ!! 穴子も楽しみにしてたのにぃ~」


 こうして俺は数年ぶりに越後の長尾輝虎と話し合う為、信濃の海津城へと向かう事になった。

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