第103話 海津城と越後の後進
甲斐から北上して峠を越えて佐久・小諸に入り、千曲川の流れに沿って行く事約35里(140㎞)
ここ、北信濃の海津城は川中島平を望む千曲川のほとりに建てられた城で、かつて信玄が川中島の戦いで上杉輝虎との戦いに備えて築城を命じたのだという。香坂昌信、今は春日昌信と名乗る武田四天王の中でも一番のお気に入りの重臣が治めるこの地を信玄はとても愛しており、俺と出会って新・三国同盟が結ばれてから、戦の無い時はそのほとんどをこの城で過ごしていたらしい。
季節は春。千曲川の緩やかな流れに沿って植えられた桜が景色を春の色に染め上げていて、たしかに素晴らしい風景だった。
「寿四郎どの、久しぶりだな」
「輝虎さまもお変わりなく、お元気そうで」
川中島平を一望する天守閣で面会したのは、出会った頃からほとんど変わらない美貌をたたえる越後・越中の国主・長尾輝虎と、その息子で信玄の子でもある景信。もう12歳になる男子だが父親似の立派な鬼瓦……ではなく母・輝虎の若かりし頃を想像させる中世的なキリっとした美少年で、聞くところによると剣の腕も模擬戦術も教育役が舌を巻くほどの秀才だという。
そう言えば甲斐武田を継ぐはずだった嫡男・武田義信も才能に溢れるイケメンだった事を思い出す。なんであんな大雑把で型破りな顔面鬼瓦からこんなチート息子が生まれてくるのか全く分からない。
まあ戦闘ステータス的な話で言うなら父母ともにチートキャラだからこうなるのは想像付くけど。でもそんなら顔面ぐらいは般若か鬼瓦にしてくれないとこっちは納得いかないんだが、キャラクターバランス的に。
「寿四郎どの。今日は大事な話がある。
景信ももう元服じゃ。これを機に越後の当主を景信に任せ、私は越前に入ろうと思う」
「え?それは、どういう……」
さすがにチート級の優れたお子様だし、この時代では12歳で元服、つまり成人と見做されるとは言ってもイキナリ大国の当主は荷が重いんじゃないの?と口を挟みたくなったが、そこには輝虎なりの考えがあったようだ。
「信長めの率いる軍勢は強く、加賀へと攻め込む勢いも日に日に勢いを増している。私がこのように越中を離れ、当主としてあちらこちらへ動いていては、奴らにとって攻め込む良い機会を与えてやる事となろう。
それゆえ当主の役目は景信に一任し、私は越中にて我が越後と越中を守るための織田からの楯となる。それが私の終の役目だ」
出会った頃と変わらずキリっとした表情でそう告げる輝虎。かなり思い切った決断なのに、越後の譜代家臣たちは輝虎の決断に賛同し、越後に残り後進を育てていく事を決めた者と、最後まで輝虎に帯同する者とに上手く分かれたのだそうだ。素晴らしい家臣団の結束だと思う。ウチも同じような決断があったとしたら……多分みんなオレを見捨てて田子の浦に残るだろうな><
「あに……寿四郎さま、同盟の盟友として、若輩者ではありますがどうかよろしくお願い致します」
「ふふふっ、この子、景信は寿四郎どのの活躍ぶりを聞くのが好きらしく、勝手に兄者と呼んでいるのですよ」
非の打ちどころの無い完璧な挨拶を見せる景信と、珍しく普通の母親っぽく息子自慢に顔を綻ばせる輝虎。
「ははう……御屋形様。寿四郎さまと二人で話させていただいてもよろしいですか?」
「ふむ、良いだろう。私はその間、春日殿と信玄様の思い出話でもしながら桜を愛でるとしよう」
そう言って踵を返し、傍らに控える本来の海津城城主・春日昌信と天守閣を後にする輝虎。
え、待って待って!? 2人とも信玄とアレなの知ってる俺としては、そんな2人が信玄(故人)のコト話したらジェラシーで火花バッチバチになっちゃう気しかしねぇんだけど!?
「ご心配めされるな。同じ武田晴信という一人の男を愛した者同士、通じるものがあるのです」
俺の慌てように何かを感じ取ったのか、そんな補足を入れる元美少年で現イケオジの春たんこと、春日昌信。
うーん、俺は女子しか好きになった事無いし、他の誰かと同じ女を取り合ったとかそういうのが無いからわかんないんだけど、そういうものなのだろうか?しかし亡くなって数年経ってまでイケオジと美女に偲ばれるとはあの鬼瓦、女泣かせどころか、とんだ男女泣かせだぜ。顔面鬼瓦なのに。
「さて、っと」
襖が閉まり、天守閣から完全に他者の気配がない事を確認した途端、唐突に態度を変える輝虎の息子・景信。
この感じはもしかしたら……「これで誰にも気付かれまい。死んでもらう! 」ってバサッと殺られるとかそういう展開があるの!? それかもしかしたら……あの鬼瓦の息子なだけに貞操的な意味でガバっと遣られるとかそっちの展開があったりとか……いやいやいや、そんなワケが。
「ようやく二人きりになれたね、兄貴」
「いやっえっちょ待って、俺……いやそれがしにはそういう趣味はないのでご勘弁を!! 」
「え、何を勘違いしてんの??」
意味深な台詞に俺が2番目の方だったかーと慌てふためくと、急に爆笑しだす美男子。しかしその顔に似合わない笑い方は、どことなーく見覚えがあるというか親近感を覚えるものだったのだが、次の衝撃の一言で俺は意外過ぎるその理由を知ることになる。
「寿兄ぃ、俺だよ俺! 弟の義仁だよ」




