鹿を狙うならやはり矢毒が必要かな
さて、ウリボウたちも模様が消えて、それなりに体もでかくなってきた。
イノシシの牙はオスの成獣でしか目立たない。
どうやら二匹がオスで二匹がメスのようだ。
となると来年になったらオスの二匹は他の群れのメスを求めてここからさって行ってしまうのだろう。
猪の繁殖期は冬の12月頃から2か月ほど。
そのときは発情した雌を捜して活発に山などを徘徊し、交尾を終えた雄は次の発情雌を捜して再び移動していく。
強い雄は複数の雌を獲得できるため、イノシシの婚姻システムは一種の一夫多妻であるとも言える。雄は長い繁殖期間中ほとんど餌を摂らずに奔走するため、春が来る頃にはかなりやせ細るので春先から夏の猪は美味くないことが多い。
成熟した猪の雄は単独で行動するが雌は子と共に暮らし、定住性が高いため人と一緒に暮らし続けることもできたのだろう。
ちなみに猪は泳ぎが得意で、さらに泥浴や水浴も大好き。
なので、今4匹はのんきに沢で水あびしていたりする。
「きゅぴー」
「ぎゅー」
牙が生えてくればそれを使って芋などを掘り返すことも難しくはなくなるから、俺と一緒に歩き回る必要も特にはないはずだが、あいかわらず俺と一緒にちょこまか動き回っていたりする。
ちなみに猪の牙はいわゆる犬歯で、他の歯と違って一生伸び続けるが、土を掘る時に削れたり折れたりすることも珍しくない。
それはいいとして冬に差し掛かって木の実や棗が手に入りにくくなってきたので本格的に狩りをする必要があるだろう。
もちろんどうしようもなくなれば猪たちを屠殺することもあるだろうが、芋探しには猪がいたほうが便利だしな。
「お前ら。
今日は小屋でおとなしくしていてくれな?」
俺がそう言うと猪たちは何かを察したらしい。
おれは猪たちを小屋に残して、弓矢と縄を持ち獣道に入ってそこをよく観察する。
そこに残った足跡を見れば、何がどのくらい前に通ったかは大体わかるものだ。
そして山の中に生えているトリカブトを探し塊根を取り出し矢へ塗布する。
ついでに生えていた生姜も引っこ抜いた。
トリカブトの毒は、矢毒として古くから用いられ、動物の体内に入ってしまえば毒性はかなり弱まるから、矢の刺さった箇所の周囲の肉を握りこぶしほどの量ほどえぐり取って捨てれば、ほかは普通に食べても問題が無い。
猟犬がいればもう少し楽なのだがいないものは仕方ない。
鹿は夜行性なので今はねぐらで寝ているはずだ。
一番新しいだろう足跡を追って行くと樹皮が食べられている跡が見つかる。
ねぐらもおそらくそうは離れていないだろう。
そして”ピィッ”という警戒音を発して逃げる中程度の大きさの鹿を見つけた。
「あたってくれよ」
獣道を逃げ去ろうとする鹿めがけて矢を放つと、それは尻に刺さりやがて鹿は倒れた。
ほぼかすり傷でしかないがトリカブトの毒はそれだけ強いとも言える。
矢の刺さった部分の肉をえぐって捨てて、 鹿を仰向けにして横隔膜のところを切り裂き、心臓の近くの動脈を切り裂く。
股から胸の方向にかけて腹の皮を裂いて、胸骨まで皮を切り、そこから薄い膜を切ると内臓が見えるので、内臓を傷つけないように刃の先よりも指を先行させ、胸骨を開き、食道や直腸は結索して、胆嚢や膀胱などを傷つけないように、食道と気道を引き出して切って、そこを持って肛門方向に引きずりだしていく。
内臓をすべて取り出し、それらに異常がないか確認し、病気や寄生虫などの問題はないか確認して、腸を水でよく洗ってからそこに胸腔や腹腔に溜まった血を入れて縛り、足を縄で縛って冷水にさらして血や泥やダニなどを洗い流しつつ、肉の自己消化による腐敗劣化が起きにくいようにする。
後は鹿を肩に担いで小屋へ戻るだけだ。
小屋へ帰ると猪たちが俺を待ち構えるように鳴いていた。
「きゅびー」
「ん、腹が減ったか?
ちょっと待っていろよ」
採取していたドングリを水につけて選別し浮いたほうを猪たちに投げてやるとバリボリと食べ始めた。
おれは鹿の皮を剥いで、適当に骨ごと切り取って、火を起こしてそれを炙り焼きにし、胆嚢、膀胱、などの食えない場所は捨てて、血を詰めた腸や骨と一緒に内蔵を骨ごと、生姜も入れて煮込み食べた。
一人で担いでこられる程度とは言え鹿一頭からは結構な量の肉が取れるし、煙で燻して燻製にすればしばらくは持つかな。
鹿の毛皮も有効活用しないといけないな。




