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第十話 過去の自分の病み具合が思いのほかヤバかったので、ガクブルですわ。




おじさまのあり得ないほどどうでもいい話に耳を傾けたわたくしは、クッションに座ると、ここに来てずっと気になっていたことを訪ねました。



「それで……うしろの彼は、やはりセバスチャンですの?」


わたくしの言葉に、おじさまはニヒルな笑顔でおっしゃいました。


「愚問だな。執事の名前はセバスチャン。これは、世界の理だ…………。」



「私はクラウドです。クラウドめは執事ではございません。」



「まあ!そうではないかと思っておりましたの!見るからに “セバスチャン” ですものね!」


セバスチャンさんは、白髪混じりのチョコレート色の髪に、ヘーゼル色の目をした優しそうな中年の紳士です。包容力ありまくりな大人の男なのにどこか隙のなさそうな雰囲気が、その頑なな心を自分のものにしたい! と考えるお姉様方が沢山いそうですわね。


「うちのセバスたんは私の世話から隠密まで身に付けているすごい子なんだぞ。しかも、私が怪しい行動を取ったときは陛下へ報告しに行くのだが、私が傷付かないように、ばれないところで済ませてくれる気遣いの人だ。」


「まあ! でしたらうちのユリアたんだって、そのクールさの裏側でツッコミが追い付かずに辟易しているところや、それを必死に表に出さない健気さがとっても可愛いのですわよ!」


「言ったな? 言ったな? それを言うならセバスたんも、実は甘味好きなのを隠しているところとか…………



ユリアofセバス(仮)「「…………。」」




閑話休題。




「話し合うこととすれば、この世界の考察でしょうか……?」


「どこから手を付ければいいかわからないが、まあ、それが妥当だろうな。」


わたくしは、持ってきた紙とインク、ペンをテーブルに乗せました。


「準備がいいな。」


「ありがとうございます。」



おじさまと話し合って、今まで考えたことのあるこの世界についてを書き出してみました。



1 わたくしとおじさまが時間を遡っている。


2 わたくしとおじさま以外の世界が時間を繰り返している。


3 今までの世界はどれも違う世界で、時空を越えて平行世界の自分への憑依を繰り返している。


4 実は繰り返してなどいなくて、何者かによって捏造された記憶を埋め込まれただけ。


5 本当は今も処刑の瞬間で、走馬灯を見ているだけ。


6 死んだあとに夢を見ている。


7 そもそもこの世界は存在しない。


8 この世界はチェス盤のようなもので、わたくしとおじさまが駒。


9 この世界はアンネリーゼちゃんのための世界で、始まりからハッピーエンドまでを繰り返している。


10 自分以外のすべてが偽物。


etc………



「うわぁ…………。」


「うわぁ…………。」


なんだかすごい壮大ですわね。



「こうして書き連ねてみると、こんな考えを思いついた過去の自分の精神が如何に不安定だったか思い知るな。」


「あのころは、かなりおかしかったですものね。」


わたくしとおじさまはしみじみと頷き合いました。


「やばい。なんか今にも思考のループに陥りそうだ。くっ……鎮まれッ! …………我が封印されし闇よッ……!」


「落ち着いて! ゆっくり深呼吸をしてくださいまし! ほら、ひっひっふー! ひっひっふー! メディック! メディックはおりませんかー!?」




◇◆しばらくお待ちください◆◇




「エンドレスだな。どうして今になって鬱病を再発させそうな問題を持ち出してきたんだ? 確かに疑問には思うが、ほら、私たちはそういうの悟っちゃったから今さら感があるのだが。」


おじさまのその言葉に、わたくしはゆっくり微笑みました。



「そう、辛気くさい、答えが出ない。そんな無駄な疑問に捕らわれて、わたくしは自分が大事なことを見失っていたことに気付いたのですわ。」


「それは…………。」


言葉に詰まったおじさまに、頷きかけます。


「どうせ死ぬなら、それまで精一杯楽しんで生きたい。一瞬一瞬を大事にしたい。どうせ振り出しに戻るのだからと、わたくしはまわりを疎かにしてきましたが、だからといって周囲の人間に心がない訳ではないのです。たとえ繰り返したとしても、まわりの方々にとっては一度きりの人生なのです。わたくしのせいで、そんな一度きりの人生が滅茶苦茶にされた人もいたでしょう。むしろ進んでしていました。もう、遅いかもしれませんが、わたくしはやり直したい。」



おじさまは大きく深呼吸を繰り返すと、手で顔を覆いました。それはまるで、過去の自分に思いを馳せているようであり、自分の犠牲になった者への懺悔のようでした。

顔を隠したまま、くぐもった声でおじさまは問いました。その声は、どこか、震えているような気がしました。






「…………その心は?」


「遊びたい! 面倒なことを考えるのはやめました! てっぺんから愛を叫びたい! 夕日の射す河原で殴り合いの喧嘩をして、お前もやるじゃねえかとか言いたい! だけど前世ネタが通じないのはちょっと寂しいから、たまにお互いの黒歴史を語り合ったりしながら遊びません?」


「乗った!! 付いて行きます姐さん!」


「OKおじさま。付いてきてくださいまし。四十秒で支度しな!」


「ラジャー!」


立ち上がったわたくしは髪を払い、さっと立ち上がります。

おじさまは、無理やりパウンドケーキを紅茶で流し込んでおりますわ。わかりますわよ。もったいないですものね。でも、あまり急ぐと喉に詰まらせますわよ。



ですが、颯爽と歩き始めようとしたわたくしの前に、立ちふさがる影が二つ。



「…………邪魔をするのですね。セバスたん、ユリアたん。あなたたちのことは友だと信じていたのに!」



「たん……? いえ、私はクラウドですが……。」


「エレオノーラ様。私は侍女です。さらに言えば昨日会ったばかりです。友ではございません。」



わたくしはその言葉に、深い絶望を感じました。

彼らは、わたくしたちと積み上げてきた年月を捨て、かつて無為の友人であったことすら忘れたというのです。それにあなたは、過去の名前すら捨てて敵になるというのですね、セバスたん、いえ、クラウド………!

あまりの衝撃にふらついたわたくしを、おじさまが支えてくださいました。


「エレオノーラ嬢。ここに私たちの知るセバスたんたちはいない。覚悟を、覚悟を決めるしかないんだっ…………!」


「ええ、わかっております。ですが、わたくしと彼らが過ごした時間は、無駄だったのでしょうか。」


「いいや。無駄なんかじゃないさ。だからこそ、私たちの知る彼らのために、ここは戦わなければならない。」


「そう……ですわね…………。」



わたくしとおじさまは構えました。倒すしかない。それしか道はないのです。

記憶のなかの彼らとの、約束を守るために……。



新キャラ登場。

腹黒紳士なクラウドさんを、いかにしてエレオノーラさんたちは苦労性属性へ変質させていくのか……。

というかすでに殿下にふりまわされている予感。



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