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先駆者の導き  作者: 腹ぺっこ
第三章 人魔を渡る者
68/217

3_11_多忙と癒し

こんばんは。

日付が変わる前には投稿しようと思ったんですが間に合わず。


もし楽しみにしていらっしゃる方が万が一にも存在していたと考える事自体が烏滸がましいんですが五百歩ぐらい譲って頂いて恐れ入りますが仮定として脳内に繰り広げますと……ごめんなさい。



あれから10日が経過した。


学校生活に復帰した俺は、授業と生徒会活動で毎日を忙しく過ごしている。


で、そんな多忙の中で新しい行事が始まりそうなのだ。


そう、3大魔法学校の対抗試合である。



毎年の火季に開催される行事であり、特に有名な魔法学校同士で競うのだ。


1年は水季・火季・地季・風季で回っていて、もうすぐ火季に突入する。

一番暑い季節だな。


そして、今年の対抗試合の開催場所は”夢想の都 ドリポート”である。



「夢想?」


俺の正面に座ったイリーナが訝しげな声を上げた。

というのも、俺は夕食のために食堂へ来ているのだ。


かなり遅い時間になってしまい、生徒の数も少ない。

そしてイリーナも仕事に一区切りついたため食事の時間である。


俺の分も一緒に運んできてくれたため、先日に解禁された肉料理を頬張りながらイリーナへ確認した。



「ドリポート知らないのか? 有名な都なんだけど」

「それは知ってるわよ。けど、夢想の都なんて呼び方は知らなかったわ」


イリーナに言わせてみれば”雑多の都”が相応しいらしい。

それは都の広げ方を指していて、ある意味で無秩序と取れるそうだ。



「区画整理も中途半端だし、なにより広げすぎなのよ」

「ん~……まあ、そうなのかもな」



ドリポートは国内で一番大きい。それこそ王都よりもだ。


付近の村や街を吸収して拡大し、今もなお広がり続けているし、名残として区画の名に残っているのも多い。


例えば、ランダ村が吸収されたとすればランダ区になったりする。



そして一定まで広げると防壁を作るため、現時点で7重の防壁が存在するそうだ。


イリーナが言うように区画整理も十全ではなく、いきなり行き止まりになる道も多いと聞いている。



また、武器屋の隣に武器屋があったりと混迷しており、慣れていないと目的の場所に到着できないとまで言われているな。


それこそ案内人などの専門職まで誕生するほどであり、迷った挙句にスラムへ入りたくなければ雇ったほうが賢明だ。


ただし、それも防壁の3重目以降の話であり、それより内側は綺麗に区画整備されている。


3大魔法学校も内側にあり、付近の闘技場で対抗試合が開催されるのである。



「あんな場所で対抗試合なんて、何を考えているのかしらね」

「聞いた感じだと、なるべく陸路を使わないようにしたいらしい」

「……なるほど。魔族への警戒って意味なのね」

「たぶんな」


ドリポートは海にも隣接していて、船で直接に向かうことも可能である。


そのためグランバスから近くの港町までは陸路で移動するが、そこからは海路でドリポートへ向かう移動経路となるそうだ。


そうすれば空を飛ぶ魔族しか襲撃できない。


船には大型の魔法障壁展開用魔具を設置して、近付こうものなら砲台で撃墜すればいいのだ。



「それで? どれくらいの日程なの?」

「えっと、たしか40日くらいだな」

「長いわね」

「移動が大半だけどな」


往復で20日以上も要するんだよ、しかも海の上が多いし。


そしてドリポートへの滞在が15日間だ。


対抗試合が全部で5日だから、丸ごと1週間以上は観光だったりの自由時間になるらしい。




「ワタシも行きたいなぁ」

「お?」

「だって、ワタシだけ置いてきぼりなんて面白くないもの」

「そう言うと思った」



てことで、俺はイリーナに1枚の書類と銀貨5枚を渡した。



「これは?」

「許可証と乗船代だ。先生に話をつけてさ、一緒に来ても大丈夫だってよ」

「ほんと!?」


イリーナが顔を輝かせて俺の手を握ってくる。


「ありがとうルイス! 大好き!」

「はいはい」

「あら、ちょっとは喜んでもいいのよ?」

「冗談としか思えないからな」

「ふふ……お金は少しずつ返していくからね」

「あんま焦んなくていいからな」



ともあれ、イリーナも対抗試合に同行する。


話をつけるのに苦労はしなかったけど、なんか生暖かい目で見られたな。先生達に。



ソマリなんかも説得を手伝ってくれたんだけど、監視役が必要でしょう? とか言ってやがったし。


最近は皆からの評価が、まるで犬かなんかと同じ程度に落ちているような気がする。



ともあれイリーナに食堂で伝えることは以上だ。

あとは雑談しながら飯を食おう。


「イリーナはさ、もう仕事に慣れたか?」

「とっくにね。今は主力といっても過言じゃないわよ」


綺麗な顔が、今はドヤ顔である。


「そっちは順調なの? 生徒会の仕事とか」

「まあ、忙しいけど順調かな。特に問題も起きてないし」


ご意見箱の開封も既に第7回くらいである。


徐々にご意見も増えてきているため、その日の内に全て開封できない事もあるくらい忙しい。



他にも対抗試合での出場者選抜を手伝う予定も入っている。


1週間後に告知して、それから2週間後に実施。


んでもって更に12日後は対抗試合へ向けて出発である。



ある程度の日数が空いているものの、決して余裕ではない。


他にも仕事はあるのだ。

都歩きは冊子化して学校全体に配布し終わったものの、反響が大きくて大変だしさ。


次の冊子は配布されるのかとか、実際に冊子を参考にしてみた感想とか、そういうのが新入生メンバーを中心に届いてて、ご意見にまで混ざってくる。


やはりシャロンやギッさんなどの名門貴族が関わっているのも大きかったらしい。


可能ならば次の冊子も作っていこうという議題が生徒会内で出ているものの、暇が出来ないのである。


せめて情報だけは集めておこうという話なので、2日後の休みでは何かしらの情報を集めようと思う。



他にもいくつか新しい仕事が入っており、まだ手間が少なそうなので手分けして担当しているのが現状だな。



クリストフ先輩も日を追って痩せているような印象を受けるし、タチアナ先輩などは仮面の留め具が外れても気付かないほどに集中して作業している。


皆がタチアナ先輩の顔を拝見する前に、クリストフ先輩による目潰し(魔法)が行使されたため、何とか事無きを得たけどな。



ちなみにローレライ家勢力としてはご意見箱の後見人的な立場でもあるため、ご意見の解決に尽力してくれている。


まだ何とかご意見を捌けているのも、ローレライ家勢力あってこそと言えるのだ。


そしてゼグノート家としては、学集会なる企画を立ち上げた。


ゼグノート家主催で複数の教室を借り、そこで授業の埋め合わせを補助するのである。


埋め合わせというのは、怪我をしたり緊急の用事で学校を数日離れていたりした生徒達が、授業の遅れを取り戻す事を指す。


本来は個人で埋め合わせていたのを、ゼグノート家勢力が補助するのだ。


しかも定期な開催であり、別に埋め合わせじゃなくても復習として参加可能だ。


かなり人気のある企画である。みんな勉強熱心だよな。



てなわけで、今は各勢力が忙しく動き回っており、特に人数が少ない生徒会は多忙の極みにある。


そのような事を疲労混じりにイリーナへ説明すると、茶を飲みながら一言コメントされた。


「若いうちから禿げそうね」

「言うに事欠いて禿げかよ……」


と、力なくテーブルへ突っ伏した俺の頭に、イリーナが手を置いてきた。


「限界を超えてるわ。適度に休みを貰えるよう上司に頼みなさい」

「……ダメだ」

「どうして?」

「皆で話し合ったんだ。のんびりする時間は無い、ってさ」



クリストフ先輩が生徒達から怖がられないようにする。


エグラフさんの自己犠牲を半年で終わらせる。


一般の生徒だって表舞台に出られると認識させる。


貴賎に関係なく充実した学校生活を送れるようにする。



こんな、様々な目標があるんだ。だから止まってはいられない。



「……でも、休みは必要よね?」

「………………そだな」




まあ、2日後は休みだ。リフレッシュしようと思う。


それに、ここまで忙しいのも対抗試合までである。



なぜならば、人材の募集を行うからだ。



今回の対抗試合にクリストフ先輩は参加しない。


そして他の生徒達も、半数ほどは学校に残るのである。

試合に興味が無かったり、授業に集中したいとかの理由だな。



なにせ、40日間も学校を離れるのだ。


対抗試合に参加する生徒達だって道中で簡易授業を受けられるけど、やはり十全に学習するなら学校が適している。



参加者には戻ってきたら補習が待っているし、それが嫌で見送る生徒も存在するくらいだ。


けれども対抗試合の日程中は、学校の授業も比較的だが緩やかな進行度になるらしい。


あまり進めすぎては補習でも追いつけなくなるからであり、参加者への救済措置とも言える。



で、その期間を狙ったクリストフ先輩の計画が"体験会員"であった。


生徒の半数が学校を離れ、生徒会の仕事も落ち着く期間。人材の募集と育成にはもってこいである。


その計画を支えるためにタチアナ先輩とギッさんは対抗試合の参加を見送っているし、上手くやってくれるだろう。


帰ってきたら俺達より優秀な会員が用意されてたりしてな……


立場が危ういかもしれん。いや、元から立場とか無いか。



とまあ冗談は置いといて、全容は聞いていないものの人手を増やす計画が予定されているのである。



「……ってわけだ」

「聞いたところ、今の生徒会長は怖がられてるんでしょ?」

「そうらしいな」

「その人が教育するのって、色々と課題がありそうね」

「そこはギッさんが補助すると思う」

「ふ~ん……」


なんか気になるな、その感じ。


「何だよ。何か問題でもあるのか?」

「別に? 上手くいくと良いわね」

「……」

「そんな顔しないで。何か企んでるわけじゃないんだから」



ま、いっか。



「でさ、今夜イリーナの部屋に行ってもいいか?」

「えっ!?」


なんだ? そんな驚く事か?


「ルイスの方から来たいなんて、珍しいわね」

「そう、だっけか?」

「だって、あれから来てくれないもの」

「あ~……そういえばそっか」



俺も忙しかったんだよ。


演習で行方不明になった俺を心配したのは、なにも生徒会メンバーだけじゃない。


先生達もそうだったし、他の生徒達もである。


ゴルマック先生なんかは泣き叫びながら俺を胴上げしたり、ババロン先生は愛の鞭として反省文を書かせたり。



ジャホースやオールト達も心配……というか魔族について話を聞きたがってたな。




他にもシャロンとチャールスとリンは、生還祝いを俺の部屋まで言いに来てくれた。


……落ち込む生徒会メンバーを励ますのに苦労した話を聞かされたから、それが目的だったんだろうと思う。



あとは、エグラフさんである。


なんとエグラフさんから”バカ”と認定されてしまったのだ。


これで俺はケートス先輩とバカ友になったのである。嬉しくはない。



と、そんな感じで色んな人に絡まれていたら10日なんて一瞬である。イリーナの部屋へ行く時間すら無かった。



それはつまり、イリーナの手料理を食えなかったのと同義であり、久々に食いたい。



野菜料理だけでも美味かったのだ。肉料理だったらと思うと期待に胸躍るのも仕方ないだろう。


それに、話したい事もあったからな。



「来るのはいいけど、他の子達も一緒?」

「いや、他に誘うつもりはないけどさ、どしたん?」

「あの子達も食堂でしか会ってなかったから、一緒に来るなら料理でも振る舞おうかな、って」


そういえば、あいつらも忙しかったよな。


マリだけは何度かイリーナの部屋へ遊びに行っていたらしいけどな。


「まあでもさ、今度でいいだろ」

「二人きりがいいのね?」

「まあな、話があ」

「下着の色とか好みはある?」

「聞けよ! 下着とかどうでもいいから!」

「あら、雰囲気も大事にしないとダメよ?」

「そっち方面から離れろ!」



・・

・・・



「いらっしゃい」

「おう、これ土産な」

「ありがと」



短めのやり取りを経て、俺はイリーナの部屋に入った。


あれから少しばかり小物が増えているけど、あまり雰囲気は変わっていない。



そうやって眺めながらリビングで待っていると、イリーナが料理を運んできた。


「今日はもう遅いから、これくらいにしておきなさい」

「あいよ」


量としては軽食くらいだな。肉をパンに挟んである。


早速、良い匂いのするそれを口に運ぶ。



パンはカリカリに焼かれていて、ザクッと小気味良い音が響いた。


香ばしさと一緒に、濃い目の下味を施された肉の味が広がる。



「美味い」

「そう、良かった」


出来立てのようだし、まだ熱い。いくらでも食べられそうである。


しかしながら用意されているのは2つだけだから、味わって食べよう。



「それで、何の話をしにきたの?」

「ん? ああ、これを返しとこうと思って」

「なんだ、食堂で渡せばよかったじゃないの」


俺が返したのはイリーナのギルドカードだ。



マークベルの街で俺とイリーナが互いの事を教えあった時、気になって教えていない情報があった。


それは生徒の行方不明、存在しない一般生徒、職員に魔族が紛れ込んでいる可能性……魔法学校に渦巻く不穏な情報の数々である。


俺は、これらにイリーナが関与しているかもしれないと懸念を抱いたのだ。


もし人魔転身が無制限で人と魔物に入れ替われる能力であったり、性別や姿が指定可能だとしたら…


そんな、イリーナが嘘を吐いている可能性だってある。



もし嘘だった場合、あの存在しない一般生徒がイリーナであるかもしれないのだ。





本音を言えば、そうであってほしくない。


けれど、関わっている可能性を見過ごす事なんて出来ない。


だから俺は学校生活が再開されてからイリーナのギルドカードを預かった。そのまま学校長にギルドカードを渡し、他所から入ってきたイリーナの身辺調査を勧めたのだ。



特に事情も説明しないままイリーナにギルドカードを渡すよう頼んだんだが、あっさり渡してくれたのには驚いた。


今は食堂で働いてるから使わないだろうけど、そんな気軽に他者へ渡せる代物でもないはず。



ともすれば、俺はイリーナに信じられているのか? とも思ったほどだ。


ただ、そうなると俺としては心苦しい。


可能性の話とはいえ、俺はイリーナを疑っていたのだから。



で、結果としては幸いな事に潔白だった。

というのも、ギルドカードには様々な情報が記録されている。


今まで受けた依頼の履歴や、滞在していた場所などの情報だ。


完璧に毎日の記録があるわけでもないが、交渉試合のあった日は遠く離れた街に滞在していたし、活動に不審な点は無いと記録されていたのである。


それにより関与していないと見て問題無い、とされた。


ギルド経由で調査した学校長から、そんな回答が返ってきた時は俺も安堵したものだ。


というわけで、今更ながらイリーナへと諸々を説明した。



「……というわけで、疑って悪かった」

「仕方ないわね。まだ信じきるのは無理だと分かっているもの」

「なんていうか、魔物だからって疑うわけじゃないんだ」

「分かってるわよ。今の状況なら、少しでも怪しい者を調べるのは当然よ」


ただ、とイリーナは付け加えた。


「それだけではワタシの潔白に繋がらないわね」

「へ?」

「そうでしょ? 分かったのは冒険者として生きてきた、って事実だけなんだから」


つまり、ギルドも察知できないぐらいの慎重さで魔族と関わっている可能性は否定できないらしい。


それはそうなんだけど……



「それを言ったら、みんな同じだろ」

「ふふ……そうね」


なんにせよイリーナの経歴は調査されて、ひとまずの潔白は保証された。


俺はスッキリした気持ちで夜食を頬張るのであった。



・・

・・・



「ごっそさん」

「お粗末さま」


いやあ、美味かった。

2つ目を食い始めたらソースを出されたんだが、それを塗って食べると全く違う味わいだった。


がっつり肉! って味から、さっぱり爽快な味わいに変わるのである。


こうすれば飽きずに食べられるとイリーナが言っていたものの、美味いから心配する必要は無さそうなのにな。


ともあれ食器を持ってキッチンへ片付けに向かう。



「いいわよ、後でやっておくから」

「いや、俺がやるって」

「そう? ならお願いします」


皿1枚だしな、手間にすらならないだろう。


と思ったら、それなりの洗い物が積み重ねられていた。



調理には道具を使う。使ったら汚れるのは道理だ。つまり、皿1枚洗って済むわけがないのである。


「……しゃあねえ、やるか」


別に皿洗いが苦手なわけじゃない。家でも手伝わされてたし。


布は、これか。あとは……


「なあ、泡の種は?」

「下の収納に入ってるわよ」

「お、これか」



取り出したのは堅い種だ。これは泡の種と呼ばれている。


とある果樹の実らせる果実に入っている種が2種類あり、これはその内の1種類なんだ。


もう一方は普通の種だな。

新たな芽を出すための種である。



で、本題は俺が手に持っている方の種……これは芽吹くことがない。


中に液体しか詰まっていないのだ。芽吹くはずも無いだろう。



しかしながら、その液体こそが人々に重宝されているのだ。


「よっ、と」


布で泡の種を包み、金槌で叩き割り中身を布に染み込ませる。

そして殻だけ取り除いてから、布を水で濡らして揉む。


そうすると、どんどん泡立ってくるのだ。これが泡の種と呼ばれている理由だ。


この泡は食器の汚れがよく落ちるため、洗い物で必ずと言っていいほど使う。

大量生産できて安価だし、広く普及しているのである。



「ん? どしたん?」

「なんだか落ち着かないから手伝いにきたの」

「そっか」


イリーナが俺の隣に立ち、泡を流し終えた皿から水気を拭き取っている。


しばし無言で洗い物を続けていたら、イリーナがポツリと言葉を零した。


「こうしていると夫婦みたいね」

「いきなり夫婦かよ」


恋人とか、互いに意識するとかの関係を全て飛ばしてんじゃねえか。


「……過去の人生では夫を持った事もあったのよ?」

「へっ!?」


結婚したことがあるのか!?


「興味本位が半分、熱心に告白されて絆されたのが半分ね」

「なんて言っていいか分からん」

「そうでしょうね。ワタシ自身、不思議に思ったんだから」


およそ人らしさが板についているイリーナであったが、誰かを愛するという感覚は自覚出来なかったらしい。


けれども一緒に過ごす事で安心できたり、相手の帰りを楽しみに待つ気持ちは感じたそうだ。


「あれが愛なのかしらね?」

「どうなんだろな」

「まあ、ルイスにも分からないわよね。まだ男じゃなくて子どもだもの」

「お前も子どもじゃんか、とはならないか」

「精神は成熟してるからね。大人かどうかは、そちらが大事なのよ?」





そんなこんなで洗い物を済ませ、茶を飲みながら緩い時間を過ごす。


「イリーナが男だったら部屋を物色するんだけどな」

「良い趣味じゃないわね」

「なに言ってんだ。友達の部屋に行ったら恒例の行事だろ」


ソマリなんか蔵書が多いからな。

皆で大人向けの本が紛れてないか探したりしたもんだ。


ちなみに、俺の部屋を皆が物色した過去は無い。


探したところで何も出てこないだろうから、とか言われたんだ。

なんだか少し寂しい気もする。



「あなたの部屋って、あれで荷物は全部なの?」

「そうだけど、どしたん?」

「なんだか生活感が無いから、もう少し物を増やしてみたら良いんじゃないかな、って」

「ん~……」


物はあるんだよ、実家に。


けどさ、全身重鎧とか図鑑だったりを置くと狭くなるだろうから持ってこなかったんだ。



「そういえば、2日後は休みだったわよね?」

「そだな」

「なら、買い物に行かない?」


どうして女子は買い物したがるんだろうか。


いや、買い物自体に文句は無い。必要な物があるのなら仕方ないんだからさ。


けど、何を買うか決めてもいないのに長時間ふらふらと店を渡り歩くのは、文句も言いたくなる。



母さんもアーシェも長いんだよな……これなら留守番してたほうがマシだと何度嘆いた事か……



「ってわけで、買い物は断る」

「長い説明ありがと。あなたらしい考え方ね」

「だってさ、結局買わない事もあるんだぜ?」


もうさ、すげえ品定めしてて、値段も手頃だわぁとか呟いてて、これ似合う? とか聞いてきて、うん似合うって返事して、そっかぁ似合うかぁって乗り気な表情をして……




で、買わない。



「なんで!? なあ、そこまでいって買わないって有り得ねえだろ!」

「落ち着きなさい」

「しかも帰り道でさ、やっぱり買えば良かったかな……とか後悔してんだぜ!? 信じられるか!?」

「ルイス、落ち着きなさい」

「んむっ!?」


息巻いてる俺の両頬がイリーナの手で挟まれる。


細くて繊細な指は少し冷たい。冒険者として生きてきたとは思えないほど綺麗な指だ。


「そういうものなの」

「は?」

「思い悩む事こそが、買い物の楽しみなのよ」

「わ、わけ分からん!」


脱出しようとする俺だったが、なぜかイリーナは手を放してくれない。


「いいえ、あなたにも分かるはずよ」

「そんなこと」

「よく思い出してみなさい。あなたが冒険関連の買い物をする時は、同じ気持ちになるはずよ」


言われて思い返してみる。


あれはたしか地元に住んでいた頃……冒険に必要な知識を集めようとして立ち寄った本屋での記憶だ。



あの時はアーシェも連れてたんだが、安くてページ数の少ない図鑑と、高くて沢山の情報が載っている図鑑で悩んだっけな。


結局は高い図鑑を選んだんだが、気付けばアーシェは帰っていた。


どうやら1時間ほども考え込んでいたらしい。



……たしかに、どっちにするかで悩んだ時間は苦痛じゃなかった。


むしろ時間を忘れるほどに熱中していたんだ。



「たしかに、あった……」

「ね? そんなものよ」


イリーナが俺の頬から手を放す。

けれども納得できたわけじゃない。


「でも俺はさ、何を買うか決めてて、その場で買うつもりで悩んだし、実際に買ったんだ」

「何を買うかも決めてない事が納得できないの?」

「おう」

「それは……説明が難しいわね」




そう言って考え込み始めるイリーナ。


俺はその思案顔を眺めつつ、そういえばイリーナも買い物が好きだよな……と思い出していた。



マークベルで過ごした平和な時間、イリーナはよく買い物に向かっていたっけな。


俺としては放置する気が無かったため、よく買い物に付き合っていたのである。


大抵は冷やかしというか、ぷらぷら眺めつつ雑談しつつ、店を練り歩いてたんだ。


のんびりとした時間を楽しんでいる感じだったな。



「これで伝わるか分からないけど……」

「ん?」


どうやら考え終わったらしい。


であれば是非ともイリーナの意見を聞こうじゃないか。



「ワタシは買った場合を想像したり、どんな商品があるかに期待して楽しむの」

「ほうほう」

「あとは、安くて良い物が見つかれば達成感があるわね」


と、そこまで話したイリーナが何かに気付いたような表情をする。


「そう……そうよ。簡単な事だったわね」

「へ? 何が?」

「冒険よ」

「はい?」


何が冒険なんだ?


「ルイスにとっての冒険と一緒なの」

「そうなん?」

「そうよ。結果じゃなくて、過程を楽しむの」


そういう意味か。たしかに冒険は過程が大事だ。


結果も大事ではあるけれど、そこに至るまでに何が起こったか、何を見たかが楽しみなんだよな。



そんな風に買い物を楽しんでいると言われれば、分かる気もする。


でもな……


「どうやって過程を楽しむんだ?」

「それは……あなた次第ね」

「ん~……」


結局、肝心の楽しさは分からないのであった。



次回・・・休暇の正しい使い方? 午前編


午前編と午後編に分けて投稿します。

いつもの約2倍ほどに文字数が増えますので、もしかしたら2日に1回投稿とするかもしれません。


はい、時間稼ぎです。ごめんなさい。

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