2_31_開封
やっぱり休日は良いですね。
年末は忙しくなるだろうと思うので、今の内にコツコツ投稿しておきます。
「いけるか?」
「おう、大丈夫だ」
新たな友情を育んだ翌日の授業後。
俺はモーティと一緒に部屋の窓から一点を見つめている。
そう、生徒会寮の側面にある芝生へ寝転がるハイクを見ているのだ。
昨日のモーティ勘違い事件を引き起こした黒幕であり、
報復をしなければ俺とモーティは屈辱で一睡も出来ない。
……というほどでもないが、まあシメとこうか。ってなった。
作戦はシンプルに奇襲だ。
マリに頼んでハイクを生徒会寮横の芝生へ呼んでもらい、ある程度待たせる。
そして退屈で眠ったところをザックリやっちまう。
本来ならば勝てない相手でも、奇襲なら勝機はある。
さらに今回はモーティも参戦しているのだから数でも有利だ。
で、やっとハイクが寝たようなので
俺達は後ろに用意してある奥の手へと振り返った。
「頼む」
「はいはい。”空駆け舞い踊る風精の誘い……エアブルーラ”」
そう、奥の手であるソマリだ。
ソマリの肩を掴み補助魔法で浮きつつ、3人で窓から飛び出す。
そして、ゆっくりとハイクへ近付いた。
こうすれば足音で気付かれる心配もあるまい。
やがてハイクの真上へ到着し、タイミングを計る。
ル(準備はいいか?)
モ(ああ、いつでもいける)
ル(じゃあカウントするぞ。3……2……1……0!)
ソマリの肩から手を離し、俺とモーティは落下した。
その勢いのままハイクの腹へ重い一撃を……
カッ! とハイクの目が開き、俺達の姿を視界に納める。
「「!!」」
くそっ、気配が漏れてたか!?
瞬時に状況を把握し、寸前でハイクが転がって回避する。
ここで決まっていれば楽だったのに。
起き上がったハイクが問いかけてくる。
「何か用かな?」
「ちょっとした復讐を果たしにきた」
「ダメだよ。復讐は悲劇しか招かないんだから」
「「お前が言うな!!」」
俺とモーティでツッコミを入れると、ハイクは笑って言葉を返す。
「まあ、俺にとっては喜劇だったけどね」
その一言で、戦いが始まった。
「「ぶっ潰す!!」」
……で、負けた。
それはもうアッサリと。
俺とモーティでは連携不足であり、どうしても数の利を活かせなかったのである。
一応はソマリも魔法で援護してくれたが、乗り気ではないので初級魔法が関の山だ。
俺達の攻めは避けられ捌かれ利用され、二人してスタミナが切れたところを転ばされた。
「はぁっ……はぁ……」
「つ、強い……」
「やはり、こうなりましたか」
「ソマリが積極的じゃなかったからね」
ソマリは控えめな援護だけだったので、呼吸が乱れることもなく俺達の側で佇んでいる。
「じゃあ、俺は部屋に戻るから。マリさんの呼び出しも嘘なんだろうし」
「ま、待て……」
「往生際が悪いね。大人しく負けをみと」
「ちょっと待ったあぁぁぁ!!!」
ズダァン! と生徒会寮の窓から飛び降りてきた人影が
俺達の近くに着地する。
……やっと来たか。奥の手その2。
「ラグ?」
「俺も助太刀するぜ!」
「げ……」
ふはははは! 俺がハイクを過小評価するとでも?
当然のように奥の手は2つ用意していたのだ!
「よっしゃ、これで勝てる!」
「さすがルイスだ。作戦が綺麗に決まったな」
もっと褒めてくれモーティ。
ある程度はハイクを疲れさせた上に、接近戦が得意なラグを加えて3人がかり。
そしてソマリも控えめではあるが援護してくれるだろう。
完璧な作戦だ!
「覚悟しろ!ハイ」
ガッ!
「……へ?」
あの……ラグ?
なんで俺を羽交い絞めにしてるんだ?
横目に見ると、モーティもソマリに捕まえられている。
え?なにこれ……
「二人ともさ、肝心な事が抜けているよ」
ハイクが心底楽しそうに俺とモーティへ語りかけてくる。
「仕返しに来るだろうと、俺が予想できないと思う?」
「そ、それは……」
「とっくにラグとソマリは俺が引き込んでるよ」
「「くっそおおぉぉぉぉ!!」」
ラグもソマリも既に黒幕の陣営だったとは!
予想できたはずなのにっ……確実に勝てる戦力を意識しすぎて抜けていた!
「ま、悪く思うなよ」
「単純すぎなのが悪いんです」
「ぐぬぬぬ……」
「ルイス! 他に手はないのか!?」
こっから起死回生できる一手は……
「おっと、考える時間は与えないから」
絶望に染まる俺とモーティであった。
・・
・・・
今、俺とモーティは生徒会寮のエントランス中央にて、柱に縛りつけられている。
そして負け犬である俺達を生徒達が眺めていた。
すぐに飽きたのか何も言わずに通り過ぎていく者ばかりだったが、
やがて近くを通ったマリが二度見したうえで近付いてくる。
「何してるの?」
「してるってか、された……だな」
「マリさん……見ないでくれ」
ハイク、そして味方だと思っていたラグとソマリの裏切りによって無様な姿を晒す俺達。
いや、元からハイクの陣営だったんだろうから裏切りではないのか。
俺が策に嵌ってしまっただけの話である。
「クリストフ先輩が皆を呼んでるの」
「あ、そうなん?」
「ご意見箱を回収しなきゃいけないでしょ?」
そういや、もうそんな時間か。
んじゃ仕事すっか。
「”灯し照らす火精の瞬き……トーチ”」
指先に種火を灯し、縛り付けられているロープを焼き切る。
ブツン、と解放された俺はモーティのロープも焼き切った。
「っし、これでよし」
「……なんでもっと早く抜け出さなかったの?」
「決まってんだろ。負けたからだ」
甘んじて受け入れるべし、ってのが俺達のルールだ。
モーティにまで適用させたのは申し訳なかったけどな。
だがモーティは別の理由があるらしく、胸を張って答えた。
「次こそ負けないために、しっかりと胸へ刻み込むんだ」
おお、なんかカッコイイ!
「ん~……じゃあ、次は勝てるの?」
えげつない質問をしてくるな、こいつ。
「それは……まだ勝てそうにない」
「なら、あんまり意味は無さそうね」
「ぐふぅっ……!」
モーティは落ち込んだ。
・・
・・・
「それでは、ご意見箱を回収してもらいたい」
落ち込んだモーティに肩を貸しつつクリストフ先輩の部屋へと赴く。
これで全員が揃ったので、早速ご意見箱の回収を始めるようだ。
「もう1セットを職員室に置いてあるから、それと入れ替えればいいからね」
「はい」
「ところで、友人かい?」
なんとなくで連れて来てしまったモーティの事を聞いているのだろう。
すっかり緊張してしまっているので、申し訳ない気持ちになってくる。
だが、そんな緊張する要素あるか?
「友達のモーティです。俺と同じで冒険者に憧れてるんですよ!」
「そうか。生徒会長を務めているクリストフだ。よろしく」
「はっ、はい!!」
クリストフ先輩の挨拶に、モーティは大きく頭を下げて答える。
それから他のメンバーも自己紹介を始め、まずハイクの番となった。
もう既に知り合ってるけど、改めてって感じだな。
「新入生のハイク。よろしく」
「……よろしく」
がっちり握手して、しばらく固まる両者。
やがて手を離したモーティは小さな声で呟いた。
「握力には自信あったんだけどな……」
張り合ってたのか。
ハイクは剣を2本持って戦うから、
それこそ握力なんかは鍛えまくってる。
なかなか勝てる要素が見つからないんだよな。
そして自己紹介が済むと、モーティはクリストフ先輩の前へと歩み出た。
「ん? なにかな?」
「握手して頂いてもよろしいでしょうか」
「……私の系統を分かっているのかい?」
少し驚いたような顔をしつつ、クリストフ先輩が確認する。
それにモーティは頷いて答えた。
「ルイスから軽くですが聞いています。ただ、以前から生徒会長の人となりは知っていましたよ」
「ふむ……そういえば入学式で話した覚えがあるね」
「はい。訓練場の場所が分からない自分を案内してくれました」
そう言ってモーティは手を差し出す。
「あの時から良い人だと思っていましたよ。系統なんか気になりません」
「……ありがとう」
握手を交わし、どことなく嬉しそうなクリストフ先輩を、俺達は見守っていた。
この光景を全ての生徒達に広げていこう。
そんな目標を改めて意識できる瞬間であった。
「さて、余韻に浸りたいところだが、ご意見箱の回収後は生徒会室で開封する予定だからね」
あんまり時間に余裕はないらしい。
てなわけで、新入生組が率先して回収に向かった。
先輩達は一足先に生徒会室へ向かうようである。
「モーティってよ、生徒会に入らないのか?」
回収の最中、手伝ってくれていたモーティにラグが話しかける。
すると少し困ったような顔で答えた。
「今は授業に付いていくので精一杯なんだ。生徒会の仕事までは余裕を持てそうにない」
「そっか。しゃあねえな」
「モーティ、そこは大丈夫だよ」
「な、なんだ?」
ふとハイクが混ざってきて、モーティが少し警戒している。
その様子に苦笑しながら、ハイクが何やら説明を始めた。
「俺達は夜に集まって授業内容を復習したりしてるからさ、そこに混ざれば理解度は高く維持できるよ」
「なるほど……」
「それに、ルイスが一緒に仕事したがってるよ?」
「俺? ……まあ、そうだな」
モーティは話が合うし一緒に仕事できるなら楽しいだろう。
そういう意味を込めて頷くと、モーティは少し悩んだものの頷きを返してくれた。
「分かった。足を引っ張らないか不安だが、手伝ってみよう」
「おお!」
「よろしくね」
「なんとかなるって」
新しいメンバーの誕生を喜びながら、俺達はご意見箱を回収して生徒会室に向かうのだった。
・・
・・・
「しつれいしまーす」
「ああ、ご苦労様」
俺を先頭に、新入生組が生徒会室に入る。
すると他の出席者達は揃っているようだった。
まず、生徒会としては全員だ。
クリストフ先輩、ケートス先輩、タチアナ先輩、ギッさん、俺、ハイク、ラグ、ソマリ、マリ、モーティ。
以上の10人である。
小声でモーティの生徒会加入を確認してみると、快く了承してくれた。
他の先輩方も反対しなかったので、そのまま会議に参加する流れとなった。
そしてローレライ家としてはシャロン、チャールス、後は名前を知らない連中が6人だ。
ただ、名前は知らないけど顔は知っている者が2人居た。
実技授業で赤を基調とした服装をしている貴族と、俺が試合をした貴族だ。
前者は話す事も無かったが、シャロンと雑談しているときに何度か割り込んできたのを覚えている。
俺を警戒しているのか、もしくはシャロンと話す事が多いのだろう。
シャロンの取り巻きの中でも目立っている印象だ。
後者は試合をしただけで、特にこれといって何も無かったな。
結果は俺が勝ったけど、しっかりと型が浸透しているから隙が少なかった。
たぶん俺の動きが我流すぎて混乱したのが敗因だったんだと思う。
そしてゼグノート家としては、名前が分からない5人だ。
全員が上級生なんだろな。
ただ、その内の1人だけは見覚えがある。
以前に生徒会室で俺とラグとマリを追い払った女性だ。
背が高めで茶色の髪は結い上げている。
キリッとした顔立ちだし、いかにも有能って感じの印象だな。
ゼグノート家連中の一番前に立っているし、この場での代表格かと思う。
「それでは、早速だがご意見箱の中身を確認しようか」
クリストフ先輩の号令から始まり、回収してきたご意見箱を開いていく。
そして出てきたのは2通だけだった。
全部で10箱用意していたから流石に少ないとも思うが、
始まったばかりだから仕方ないのだろう。
「さて、記念すべき1通目だが……誰か開封したい者は?」
クリストフ先輩が聞くも、誰一人として名乗り上げない。
そのためクリストフ先輩が開封する事になった。
ちなみに、俺とマリが名乗り上げようとしたけど、さりげなくギッさんに止められた。
後で聞いた話だと、そこは会長に譲った方が良いと判断したそうだ。
そんなわけで開封された1通目だが、なんとババロン先生からだった。
しっかり名前まで記入しているのだ。
「内容は……ルイスに宛てたようだね」
「へ? 俺?」
「ああ。交渉試合の放送に出てきた、ドルアーザという人物の話を聞きたいそうだ」
いや、そういうのは直接言えばよくね?
わざわざご意見箱に入れなくてもさ……
「これは他の職員も気になっているらしいから、今度時間が空いた時に職員室へ向かうといい」
「了解です」
まとめて説明すりゃいいんだな。
なんとも気が抜けたが、2通目へ進む。
「次は……強引に席を譲れと言い寄られた、という内容だ」
苦情関係なんだろうか。
場の空気に緊張が走った気がした。
「ふむ……これは議論の必要がありそうだね」
その言葉を皮切りに、シャロンが発言した。
「食堂へは基本的に前半の時間帯を利用しているわ」
どういう事だ? とハイクへ顔を向けると、目線でローレライ家とゼグノート家を交互に示した。
つまり、別の名門勢力が同じ場所に留まらないように配慮しているという事なのだろう。
食堂などは食事が目的なのだから無視しておけば良いと思うが、
何かしらの言い争いになったりするのだろうか。
「あまり細かく決めてはいないけれど、前後半で分けていたわね」
「ふむ。それに関して不都合は無いかい?」
「ええ。むしろ変える方が色々と面倒よ」
「なるほど、ありがとう」
それからも続くクリストフ先輩とシャロンの対話を聞きながら、ソマリが補足してくれる。
2人が話し合っているのは、今回のご意見が何を原因としたかを確認しているのだ。
名門貴族勢力は同じ場所に留まらないようにしている。
しかしゼグノート家の時間帯で、下っ端だけが食堂に残っていた場合に、
シャロンが入場してくると一体どうなるか。
本来であればシャロンが入場する事が問題なのだが、身分でいえばシャロンが圧倒的に上である。
こうなると下っ端がシャロンへ”出て行け”と告げるなんて不可能に近い。
他に対処できる人員が控えているなら話は別だが、そうじゃないなら怒りを覚えつつも下っ端が退場する方が無難だ。
そして後で偉い人に告げ口してやればいい。
こういった展開は小競り合いの口実として利用する場合もあるらしいが、そこは置いておく。
というわけで、今回のご意見だ。
半ば強引に席を奪われたとあるが、誰の席が奪われたのか。
さきほどクリストフ先輩とシャロンが確認し合った際の雰囲気では、ローレライ家勢力ではない。
ゼグノート家が口を出さないのだから、こちらも同じだ。
となれば下級貴族か一般が被害者となる。
では、加害者は誰か。
席を奪うなどは褒められた行為じゃないのだから、名門にとっては攻撃材料となる。
そうやって順当に考えれば、名門は関わっていないと想定。
また、一般が下級貴族の席を奪うなどは可能性が低い。
となれば下級貴族が一般の席を奪った、もしくは一般が一般の席を奪った、というのが最有力となるが……
下級貴族だって他者の席を奪うような行いが褒められる立場ではない。
さらに一般同士は相互に助け合う関係が強い傾向らしい。
そうなると、どの被害者・加害者の関係もズバ抜けて有力ではないな。
「つまり、どうなんだ?」
ソマリの補足を一緒に聞いていたモーティが眉を顰めている。
色々と聞いた挙句に結局は分からない、ってなれば眉も顰めたくなるだろう。
「なんとも言えませんね。情報が足りないです」
部屋に居る全員に聞こえるような声量でソマリが答える。
その言葉に頷きながら、クリストフ先輩が提案した。
「ご意見元は席を奪った相手に対して処罰などを求めていないし、学校の規則でも罰則を定められているわけではない。となれば犯人探しよりは再発防止を優先する事が肝要かと思う」
その提案に、両家は特に否定する雰囲気ではない。
「まあ、妥当ね」
「異論ありませんが、どのように?」
「見かければ注意する、という程度から始めたいね。それで問題が起きれば他の対応を検討したい」
両家の代表格は少し考えるようにし、後ろのメンバーは小声で議論を繰り返している。
しかし3分ほど経過すると、まずはシャロンが宣言した。
「提案に賛同するわ。個人同士の諍いに口出すのは好きじゃないけれど、ひとまず様子見ね」
「こちらも異存ありません。規則の見直しなどにならないと良いですね」
「では、そのように。マリ達も見かけたら注意してくれたまえ」
「はーい」
どうやらスムーズに進んだようで、俺も安心した。
これにて”第一回ご意見箱開封”は終了したのである。
「さて、他に議題はあるだろうか?」
「ないわ」
「ありません」
「ふむ。では少し早いが解散としようか。スムーズなのは良い事だからね」
全員が生徒会室から退出し、俺達は一旦クリストフ先輩の部屋へと移動する。
これからの事を話し合うためだ。
「さて、まずはお疲れ様」
「「「「「お疲れ様です」」」」」
出されたお茶を啜りながら、モーティが生徒会に入る決意をしたと改めて発表する。
拍手で迎えられながらモーティが軽く挨拶をして状況の説明が始まった。
「生徒会室でも言ったように、犯人探しは優先しない……というより実行しない方がいいだろう」
「なんでっすか?」
ラグの疑問にソマリが答える。
「吊るし上げるような事でもないからです。再発しなければ問題ありません」
「そういうもんか?」
「特定の人物が繰り返すようなら別ですが、まだそれも分かりませんから」
とりあえず現場に遭遇すれば注意するし、何かあれば追加で対処するという方針だと。
結果告知でも同じような文面で展開するそうだ。
「名門勢力が席を奪った、なんて内容だと波乱が起きたけどね」
「それでも情報が不足しすぎです。丸っきり嘘かもしれませんし」
「かといって疑い続けるわけにもいかない。まずは再発防止で充分だろう」
「ルイスは注意する時に喧嘩しないようにな」
ケートス先輩が釘を刺してくるが、先輩には言われたくないっす。
「ただ、懸念すべきは名門が注意する際だ。あまり高圧的だと相手が潰れてしまうかもしれない」
「心配しすぎじゃないですか?」
「ふむ……まあ、そうだね」
「高圧的ってさ、どんくらい?」
俺が聞くと、クリストフ先輩はハイクへ顔を向ける。
すると軽い咳払いの後、俺へ向かってハイクが実演してみせた。
「見苦しい真似してないで空いた席に座れ、愚民が」
「おぅ……」
「そもそも貴様みたいな下等生物が俺と同じ空間に存在するだけで不快だから」
「えぇ~……」
「せめて視界に映らないよう隅で縮こまっていろ、下種が」
「ちょ……」
「それすら出来ない汚物なら、汚物らしく外で泥水でも啜ってろ」
「言いすぎだろ!!」
流れるように罵倒すんなし!
「ってかその言い方だとさ! 注意する側が悪者じゃね!?」
「途中で論点ズレてっし!」
「ちょっと泣きそう……」
「マリが心にダメージ負ってる!」
「マリさん!! 気をしっかり持って!」
自分に言われたわけでもないのに落ち込み始めたマリ。
正面から実演された俺より深刻なダメージだ。
そんな様子を見かねたのか、クリストフ先輩が茶菓子を出してくれる。
「あっ!」
すぐに目を輝かせたマリだったが、そこで待ったをかけたのはモーティである。
「マリさん、ダイエットは?」
「!」
「ん? マリはダイエットをしていたのかい?」
「そ、それは……はい」
「そうか。悪い事をしたね、すぐに片付けよう」
「ぁ……」
この光景に、俺は目を逸らすしか出来なかった。
・・
・・・
甘味を封印されたマリが落ち込んでいるので、手早く打ち合わせを済ませた俺達。
部屋を出る時、申し訳無さそうに見送るクリストフ先輩だったが、何も悪くないから気にしないでほしい。
ともあれ脱力しきったマリを部屋に放り込み、俺達は夕食のために食堂へ向かった。
ちなみにタチアナ先輩はマリの頬を突いて遊んでいたので置いてきている。
「席を奪う現場に遭遇したりしてな」
「そういう紙一重な展開はルイスが得意ですね」
「だったらルイスも置いていけば面倒にならないかな」
「酷くね!?」
そんな事を言い合いながら歩いていると、嫌な感覚が首筋を舐める。
バッ! と振り返ると、3人の生徒が少し遠くから俺達を見ていた。
ケートス先輩、ギッさん、ハイク、ラグも気付いていたようで同じく振り返っている。
「どうしました?」
「いや、なんか変な視線を感じてな」
「ん? あいつらか?」
ソマリとモーティも振り返り、全員で3人組を見つめる。
周囲は少し暗くなっているため、顔は見えない。
が、すぐに歩いて近付いてきた事で、ギッさんが反応した。
「お前達は……」
その呟きに答えるかのように、先頭を歩いていた生徒が跪き、残りの2人も後に続く。
ゼグノート家の勢力か? でもそれにしては、さっきの視線が気になる……
「ギリク様、本日もご壮健なお姿であられ、なによりの喜びです」
「……何の用だ」
「いえ、ご尊顔を拝謁させていただきたく……引き止めてしまい申し訳ございません」
「そうか。特に用が無いなら」
「本来であれば、お渡しする情報などもございました」
ギッさんの言葉を遮りつつ、跪く男が続ける。
「エグラフ様を支え続けられましたギリク様には、かねてより敬服しておりました」
「……」
「時には休息を、などと差し出がましくも御身を心配してしまうほどでしたので」
なんか恭しいけど、全く別の雰囲気を感じ取ってしまう。
それは他のメンバーも同じようであり、ハイクなんかは興味が失せたように欠伸をしている。
「しかし我々が進言せずとも、このようにお戯れにて日頃の疲れを癒されているご様子」
「おい」
「更には今後を見据えた準備まで兼ねておられる手腕には、情けなくも形容の言葉を持ちえませぬ」
ケートス先輩がギッさんの肩をポンッと叩き、先に歩き出す。
それにラグとソマリも続いていった。
「であれば我々のような至らぬ者が用意した情報など、ギリク様には塵芥にも等しく、不要なものでしょう」
3人組が立ち上がり、礼をして立ち去ろうとする。
その背中にギッさんは声を掛けた。
「一緒に食事でもどうだ?」
その言葉に、1人だけ振り返って首を振った。
「残念ですが、こう暗くては足元が不安ですので、日の当たる道を探します」
「……そうか」
今度こそ去っていった3人組の背中を見送りながら、ギッさんが呟いた。
「あれが現状だ」
どうやら残っていた俺達に向けた言葉であるらしい。
何が現状なのか分からんけども。
「あの……どういう意味ですか?」
するとモーティが俺の代わりに聞いてくれた。
ギッさんが歩き出し、俺達も続くと答えてくれる。
「あれは兄上の取り巻きだ。俺にも頻繁に情報を届けていた」
「へえ」
「といってもプライドが高くてな。理性はあるが、色々と隠しきれない輩だ」
「さっきはどんな会話だったんですか?」
ぐいぐい聞くモーティ。
ギッさんは別に気分を害した様子は無く、呟くように言葉を返す。
「俺が生徒会に入るのを酔狂だと感じたんだろう。もしくは生徒会長の座を狙う野心家と見たか」
要するに、お前には付いていけねえよ、って宣言だったらしい。
ギッさんがエグラフさんを支えていたのは本当で、周りをウロついてアピールしていた者達である。
どういう意図でギッさんが生徒会に入ったか理解していないものの、
単純に考えればエグラフさんの利益になると見えないだろう。
実際に利益なんて無さそうだしな。
てことで、エグラフさんからの覚えを良くするための活動において、ギッさんを見限ったのだ。
「ハイク、一言で頼む」
恒例のバッサリ要約をハイクに頼む。
「そうだな……ギッさんが小蠅に唾吐かれた、って感じかな」
なんじゃそら。
「ハイクは無礼すぎる」
「ども」
「褒めてない!」
ギッさんが少し元気になったようだ。よかったよかった。
「別に小蠅と評すほど無能ではない。それに、少しは仲も良かったんだ」
「あらら、言いすぎちゃいました?」
「いや、いい。他だって同じような心情だろう。わざわざ告げに来たのは呆れたがな」
ーーーあの行動も、忠誠心の高さと見れば憎めないんだがな
そう言いつつギッさんは振り返る。
だけど、もう暗くなった道の先に、彼らの姿は無かった。
次回・・・特訓風景




