2_19_都歩き ラグ&ソマリ編
長らく投稿が滞っていしまい、申し訳ございませんでした。
言い訳はありません、怠慢です。
「ありがとうございましたぁ!!!」
カララン……と書店の扉に備え付けられている鈴の音を響かせ、僕とラグは都の大通りへと出てきました。
もうすぐ昼に差し掛かるためか、大通りは人の往来が多く活気に満ちています。
「ソマリさ、選ぶの時間かかりすぎだろ」
「そんな事ありません」
僕が本を選ぶ上で重視しているのは、繰り返し読めるかどうかですから。
軽く数ページを斜め読みして文章構成や内容の密度を確認し、そこで興味が持てたなら候補として採用します。
とはいえ候補なので即決ではありません。
他にも沢山の本があるんですから。
「だからそれが長いんだっつの」
「仕方ないでしょう。しかも今回はラグとルイスの奢りですよ?」
碌に精査もせず購入するなど、二人に申し訳ありません。
「……さっきの店員さ、やけに嬉しそうに見送ったじゃん?」
「そうですね」
入店したときは小さい声でした。
五冊も購入したからでしょうか、店を出る際には大声で嬉しそうにしていましたね。
「お前が散々粘ってたからだ」
「はい?」
「会計に向かっては止めてを繰り返しただろうが」
そうですね。最後の一冊が中々に決め難かったので、ついつい悩んでしまいました。
「ですが、それが何か?」
「俺も姉貴の職場で手伝わされた事あるけどよ、あれは駄目だ」
たしかラグの姉は武具屋で働いてましたね。
「棚卸ししてただろ、あの店員」
「まあ……何冊か床に置かれていて管理が杜撰に思えました」
「そうじゃなくてよ……」
「?」
「他の用事が忙しい中で会計を意識すんのって、疲れるんだぜ?」
そうは言いましてもね、開店してたら客が来るのは当然でしょう。
ならば会計も同じですよ。
というより開店時間中に棚卸しなんて、しないでほしいです。
「まあよ、ソマリが遠慮しろって言いたいわけじゃねえけど」
「……けど?」
「店員の気持ちも分かるから、俺が居心地悪かった」
そうですか。
そうまで言われては仕方ないですね。
「次からは気を付けますよ」
「頼む。てか4時間も手持ち無沙汰なのが一番キツい」
「分かりましたって」
ラグもルイスも体を動かしたい性格ですからね。
折角の休みを買い物で潰させてしまうのは、さすがに可哀想だと思いますよ。
少し僕の配慮が足りなかったようですね。
本を選ぶのに夢中になってました。
そう話している内に、飲食店の多いエリアに入ったようです。
丁度空腹になってきたので昼食としたいです。
「ラグ、昼食にしませんか?」
「そだな、何食う?」
そうですね……ん?
悩んでいると、少し遠くの飲食店にへ見知った姿が入っていくのに気付きました。
あれはケートス先輩とギリク先輩ですね。
「あの店に先輩達が入っていきましたよ」
「お、じゃあご馳走になるか」
なぜ奢ってもらう前提なんですか。
「んなの先輩だからに決まってんだろ」
「そういう考えには賛同しかねますね」
「あのな、来年からは俺達だって奢る立場だぜ?」
「そういうのを引き継がなければいいでしょう」
毎回のように奢っていては、経済的に苦しいじゃないですか。
「分かったって。自分の分は出せばいいんだろ?」
「そうしましょう」
そんな事をラグと言い合いながら、結局は先輩達と同じ店に入りました。
すると僕達を見つけたのか、手を振ってきています。
近付いていくと案の定気付いていたようで、4人用テーブルの一角を空けてくれていました。
「よお、都を楽しんでるか?」
「これからっすね」
「さっきまで本屋に居ましたので」
「おいおい昼まで篭ってたのか?」
どうして皆が呆れるんでしょうね。
本屋こそ、どこの街でも都でも変わらず楽しめる場所だと思うんですが。
「先輩達は観戦終わったんすか?」
「それがな……昼までのつもりだったんだがよ」
注文をしつつ先輩達の話を聞いてみると、どうやら午後も観戦するらしいです。
「すげえ強いやつが出場しててよ、もしかしたらチャンピオンに勝つかもしれん」
「へえ、それは見てみたいっすね」
「ケートス殿、あまり興奮されては傷が」
「いやいや、開くような傷は無えから」
今のチャンピオンが誰だか分からないですが、きっと見ごたえのある試合になるんでしょうね。
「なあソマリ」
「見たいんですか?」
「まあな」
……特に行き先も決まっていませんからね。
「ケートス先輩、試合は長くなりますか?」
「いや、次が準決勝だから2時間ぐらいで終わるんじゃねえの?」
それなら都歩きとしても時間を確保できますね。
あまり固まって動くと情報が収集できませんが、昼過ぎに終わるなら問題ないでしょう。
「では見に行きましょうか、ラグ」
「よっしゃ!」
話に一区切りがついたタイミングで料理が運ばれてきました。
日替わりのメニューを頼んだんですが、かなりボリュームのある内容ですね。
ただ、先輩達は野菜とパンとチーズ……肉抜きのメニューを頼んだみたいです。
「ギリク先輩がしっかり監視してるんすね」
「当然だ。心苦しいがケートス殿のためだからな」
「お前まで野菜食う必要ねえだろ」
「そうはいきません。誰かを律するならば、まずは自身からです」
なんとも硬い性格なのがギリク先輩の特徴でしょうか。
気配りも出来る人のようですが……
「俺が申し訳なくなるからよ、好きなの食えって」
こうやって、気遣った相手に心苦しい思いをさせる場合もありますね。
そういうわけで、ギリク先輩も追加で肉類を注文しました。
それが届く前に食べ始め、皆が箸休めとして雑談していると……なにやら店の外が騒がしいです。
「おい、あの店で凄い子が出たらしいぜ!」
「もうケーキ20皿目だってよ!」
「嘘だろ!? あんな甘ったるいもんを20皿も!?」
「もう少しで最高記録に到達するぜ!」
「可愛い顔して底なしの胃袋だなおい!」
……聞かなかったことにしましょう。
「なあ、あれって……」
「ラグ、知らなくてもいい事です」
追加の注文が届き、しばらくは食べることに集中します。
そして会計のために席を立つと、ケートス先輩が手で制してきました。
「ここは俺が持つからよ、先に外へ出といてくれ」
「いいですよ、払います」
「そうですよケートス殿」
「いいから! ほら!」
やや強引に奢ろうとするケートス先輩だったのですが、僕とギリク先輩が渋っている間にラグが伝票を会計に持って行ってしまいました。
「4200メルです」
「細かいのないから、これで」
「へ……お、黄金貨!?」
店員の驚く声にケートス先輩が振り返り、目を剥いています。
どうしたんでしょうか?
「えぇと……お返しが995800メルだから……あわわ……」
「金貨9枚と銀貨9枚に銅貨5枚、あと鉄貨8枚ね」
「すいません、お釣り持ってきます!」
店員が店の奥に入ってしまいました。
金貨なんて多くは置いていないでしょうからね。
「おいラグ! こっちこい!」
ケートス先輩が慌ててラグを呼び、そこからは声量を下げて耳打ちし始めました。
「お前……黄金貨なんてもってたのかよ」
「あ〜……まあ」
「実は家が金持ちだったりすんのか?」
「そんなとこっすよ」
これは嘘です。
本当は自分達で稼いだお金です。
僕達はよくルイスの要望に応えて森や山などへ行ってましたからね。
そこで討伐した魔物の素材や、採取した薬草などを売れば収入になります。
それだけだと黄金貨まで届くのは時間が掛かるのですが、たまに希少な魔物も見つけたりするので思ったより稼げました。
特に稼げたのは、アル・モノリスでしたっけ。
モノリス種に分類される魔物なのですが、基本的に鉱山に潜んでいて無害です。
それどころか人間にとって有益な魔物で、鉱物を体内に蓄える性質があるんです。
その中でも運搬を担うのがアル・モノリスであり、蓄えた鉱石を別の鉱山に移すのです。
そうして到着した鉱山で蓄えた鉱石を吐き出し、別のモノリス……たとえばセル・モノリスだったりが飲み込んで分析、精製します。
こういったサイクルが形成され、時に新種の鉱石が発見されたり、埋蔵量が増えていたりと、有益な働きをしてくれる魔物です。
「にしても一般家庭が子どもに黄金貨なんて持たせるか……?」
「あ〜……4年分を一気に貰ったんで」
少し苦しい言い訳ですが、隠し通すしかありません。
なにせ収入の大部分を担ったアル・モノリスは討伐が禁止されているのですから。
当時は知らなかったんですが、よく考えれば納得できます。
アル・モノリスは鉱山から鉱山へ移動する……
つまり体内に蓄えている鉱石は、元の鉱山所有者の所有物なのです。
しかし魔物の仕業であり、もしかすると他のアル・モノリスが別の鉱山から鉱石を持ってきてくれるかもしれません。
そういう点では、どの鉱山所有者にもチャンスがあるので、アル・モノリスそのものには文句を言わないのが規則となっています。
しかしアル・モノリスを討伐すると、鉱山へ齎されるはずだった恵みが個人の手に渡ってしまうのです。
明るみに出れば討伐で得た鉱石類が没収され、最寄の鉱山に譲渡されるのが規則ですね。
そういった規則を知ったのは鉱石を換金した後でしたし、そもそも僕達が手を出す前から死んでました。
ぼっこりと山の中腹にある崖から突き出していたのを見つけ、驚きましたよ。
分厚い鉄板のような姿をしているのですが、古代文明の遺産だ! などとルイスが興奮してしまい、何はともあれ引きずり出すことに。
僕とハイクが魔法で浮きながら引き抜いたんですが、予想以上の重さな上に裏側がモサモサしてて気持ち悪かったので、つい手を離してしまいモノリスが転落……
落下の衝撃でバラバラになったのをルイスが絶望の表情で見届けていました。
少し申し訳なく思いながら残骸に近付いてみると、なにやら体液っぽいものも散らばっており、生物と判明したのです。
結局は一緒に散らばっていた鉱石をハイクに預け、手段は分かりませんが半年後に売り捌いた収入を4等分したのでした。
討伐が禁止されていますが仕方ないですよね。既に死んでいたんですから。
死因とか知りません。迷宮入りです。
……少し回想が長くなりましたが、そんな次第で懐には余裕があります。
金銭感覚が狂うといけないので、毎月使える金額は制限していますけど。
「まあ深くは聞かねえがよ、あんま大金を持ち歩くな」
「大丈夫っすよ」
「都のスリをなめたら怪我するぞ」
「強いんすか?」
「気付いたら肌着だけになってた、って噂もある」
そんなバカなと思いつつ、ラグがお釣りを受け取りました。
続いて僕達も会計を済ませて店を出ます。
「スリよぉ!!」
「「「「!?」」」」
突如聞こえた声に大通りへ視線を走らせると、座り込んだ女性と、スリらしき人影を追う女性。
って、マリさんとリンさんじゃないですか。
座り込んでいるのがマリさんですね。
「ギリクとラグは待機! ソマリは上から状況報告!」
「分かりました!」
「「了解」」
ケートス先輩が手早く指示を出してスリを追い始めました。
いや、車椅子なんだから無理で……速っ!?
「おらおら道を開けろ!!」
「キャッ!」
「うぉ危ねっ」
危険運転ですね。
これは後でクリストフ先輩に報告しておきましょう。
ですが、今はスリを捕まえるのが先です。
補助魔法で空を飛びながら見渡すと……細い路地に入っていくスリと、それを追うリンさんの姿が見えました。
「”彼の地へ届ける風精の囁き・・・デリボイ”」
声を届ける補助魔法が機能した事を感じ取り、爆走しているケートス先輩へ声を届けます。
「次の角を左、二つ目の角を右、すぐ右です」
案内していると、どうやら袋小路にスリを追い詰めたようです。
ケートス先輩も到着し、リンさんの前に出て何やら話しかけていますね。
無駄な抵抗はやめろ、なんて言っているのでしょうか。
ですが、スリは短剣を取り出して構えてしまいました。
まあ、見たままでは怪我人とメイドですからね。
そりゃあ勝てると思うでしょう。
結果、一気に距離を詰めたリンさんがスリの武器を奪い、後詰めで突進してきたケートス先輩がスリを撥ね飛ばしました。
壁に叩きつけられボロ雑巾のように倒れ伏したスリは、やがて到着した都の警備員によって逮捕。
これで一件落着……ん?
「おいっ! なんで俺まで!」
「大通りを暴走したからだ」
「俺はスリを捕まえ」
「なんにしろ危険な真似をしただろ。少し説教したら解放してやるから」
……放っときましょうか。
リンさんも擁護しようとしたみたいですが、どうにもできず。
連行されていくケートス先輩の背中を、丁寧なお辞儀で見送る彼女の近くに降りました。
「ご協力ありがとうございます、ソマリ様」
「様はいらないですよ。ソマリと呼んでください」
「……かしこまりました。では私もリンとお呼びください」
「そうします。それで、盗られた物は取り返しましたか?」
「はい。これをマリに」
そう言って渡されたのは……封筒ですか?
「昼食でマリが得た賞金です」
「……」
なんとも言えず固まっていると、リンさんが歩き出しました。
それに追従しつつ話題を探そうとしていると、ふと疑問に思った事が出てきました。
「そういえば、リンさんは会食に付いて行かなかったんですよね」
「はい。私は公の場で動くのを禁じられていますので」
「公の場?」
「私は……暗青の血ですから」
次回・・・都歩き マリ&リン編




