2_16_理解からの拒否
前回のあらすじ・・・ギッさん、生徒会に入るってよ。
第二章は比較的長くなる予定です。
今が折り返しぐらいですね。
「では皆揃ったようだね。これより報告と現状の確認を行う」
ギッさんの部屋が整い、俺達はクリストフ先輩の部屋に集まった。
先輩の号令で、部屋に集まっていた皆が頷く。
「まずは……マリから報告を聞こうかな」
「は〜い。シャロンはね、会食があるから遊べないって言ってました」
早速の失敗報告であった。
まあ予定があったんなら仕方ないか。
「次の休みに関しては聞いていないかい?」
「あ……聞いてなかった……」
「大丈夫だよ。また会った時にでも聞いておけばいいからね」
「は〜い……あ、あとリンが一緒に遊びに行く事になりました」
「なぬっ!?」
つい声が出てしまった。
ちょっと恥ずかしいので咳払いで誤魔化しつつ、マリに確認を取る。
「っほん! えーっと? マリ?」
「なあに?」
「リンはシャロンに付いていかないのか?」
「うん。私も聞いてみたけど付いていかないらしいの」
「そっか」
なんでだろな。
ちなみにチャールスはシャロンに付いて行くらしい。
大丈夫か? と心配したが何とかなるようだった。
「ではリンと一緒に遊びに行くんだね?」
「その予定です。楽しみだなぁ」
そういうわけで、マリの報告は終了となった。
続いては俺とラグの報告だ。
「ご意見箱と都歩きについて説明したら、ギッさんが生徒会に入っちゃいました」
「何かの間違いみたいな言い方をするな!」
まだ紹介する前から大声で存在感をアピールするギッさん。
「ギリク・ゼグノートだ。今後は生徒会の活動に協力する」
「同時に生徒会員にもなるわけだね」
「そうだ。まだ俺も状況が飲み込めていないがな」
「それに関しては私から説明しよう。憶測も入るけど、いいかい?」
「ああ」
てことでクリストフ先輩がギッさんの生徒会入りについて説明する事になった。
「まずギリク殿の役目は、エグラフ殿と生徒会を繋ぐパイプだと思ってほしい」
情報を伝達する際に、手紙だろうが面会だろうが何かしらの手続きを踏んで……ってのは時間が勿体無い。
だが、それを全て無視するのはアレなので、いっそギッさんが連絡係として機能する方針となる。
「そして、エグラフ殿の代役として生徒会に入るのも役割だ」
さすがに今すぐ旗頭が生徒会に入るなんてのは、反発だったり混乱を生んでしまう。
全勢力の代表が一つの組織に集まるよりは、独立した上での協力体制が現状は求められるようだ。
俺達だって一度は旗頭へ生徒会に入らないか? と打診したが、どちらかと言えば妥協案を引き出すための軽いジャブだったらしい。
俺は気付かなかったけどな。
「とはいえ、いずれは名門でも一般でも分け隔てなく生徒会で活動していきたいね」
だから意識の内側に植え込む意味でも、一度は打診しておこうという考えだった。
「しかし現状では望めない。だからこそ妥協案としてローレライ家は後方支援、ゼグノート家は代役を置くことで各自の協力意思を示してもらった形だ」
両家の行動で何が違うのかイマイチ分からなかったので聞いてみたところ、詳しく説明してもらえた。
「表立って協力しているのはローレライ家となる。名前を貸し、人手を貸し、足並みも合わせるという破格の条件だよ」
裏に何かあるかもしれないが、現状では生徒会のメリットが大きい。
むしろローレライ家のデメリットが大きいので、一番の懸念である”ローレライ家勢力内の不満”を払拭するために、都歩きなどで名門貴族の存在アピールと、協力体制を可視化する予定だ。
一般が貴族をどう見るか……その逆もだが、現状では互いに無関心というか得体が知れないだろう。
だから相手を知る事から始めていくのである。
「その詳しい内容については今も検討を繰り返しているが、明日の都歩きは最初の一歩だと思ってほしい」
全員が頷くのを見渡し、クリストフ先輩は説明を続けた。
「さて、次はゼグノート家だね」
ギッさんの目が少し真剣味を増した。
役割を把握しても状況を見失えば正しい行動なんて出来ないからな。
「ゼグノート家としては、長期的な視野で先手を打ったと思う」
「長期……?」
「おそらくだが、来年にエグラフ殿が学校から去った後まで見越しているんだよ」
来年?
エグラフって3年生……あ、貴族の最上級生は学校にあまり来ないんだったか。
「今後は一般の入学者が多くなり、いずれは貴族と比率も並んでくるだろう」
そうなるのも時間の問題であり、いざ直面した時に貴族連中が蚊帳の外みたいな扱いを受けるのは避けたいのだ。
「昨日まで、生徒会は一般の生徒だけで構成されていたからね」
「ハイクは貴族ですよ?」
「俺? 貴族の肩書きを放置してるから数えないでよくない?」
いいのかよ。
まあ、一般って見たほうがしっくりくるけども。
「そういうわけで、放っておくと一般生徒の独壇場になるかもしれないんだよ」
プライドが邪魔したり、名門勢力に所属していて勝手が出来なかったり……
そんな事情が災いして、いつまで経っても貴族が生徒会に入らないのは危険なのだ。
「未来の後輩達が、生徒会に所属している者だけが主役などと勘違いをして、肩身の狭い思いをする者が代わるだけの結果……などという未来は阻止したい」
そこで真っ先に動いたのがゼグノート家だ。
ギッさんを生徒会に入れて、初? の貴族メンバーを果たしたのである。
「密に連絡が取れ、来年以降にも備える一手であり、更には次の生徒会長まで近くなる」
「次の?」
「私は今年で卒業だ。最長でも来年には次の生徒会長が指名されるからね」
その時に、候補として挙がるのは誰か……
年齢、経験、所属、能力などなど諸々の要素を考えた結果、一番近くなっているのはギッさんらしい。
「お、俺が……生徒会長に?」
「確実ではないが、私はそう考えているよ」
一般生徒が生徒会長を務める生徒会に入って、活動の実績と経験を積んだ貴族。
学校の理念を実現するために動き、生徒会という”貴族と一般が認め合える環境”を掲げる組織に身を置いてきた。
そんな未来のギッさんが存在したとしたら、最有力候補に挙がるのも当然の話らしい。
「そして、そんな流れを引き継いでいくのは君達だ」
ギッさんだけじゃない。
生徒会……そして生徒会長が主役なんてのは間違いなのだ。
全員が主役であり、それを実現するための生徒会。
そんな在り方を来年以降も継続していきたい。
「なかなかに多くを求められているよ、ギリク殿は」
「……」
「もちろん一人で背負わせるつもりは毛頭ない」
私達が協力していけばいい。
そう締め括り、エグラフの一手についての説明は終わった。
「まあ、憶測も多く含んでいる。確信を得たいなら直接エグラフ殿に聞いてみるといい」
「……了解した。今後よろしく頼む」
「こちらこそ。ギリク殿が生徒会に入るのは頼もしいよ」
と、ここで一つ注意事項が出てきた。
「さて、ギリク殿についてだが、しばらくは水面下での動きとなるだろう」
それはエグラフも指示していたな。
ローレライ家が協力者として名乗り上げているから、衝突しないように水面下で行動するんだっけ?
「そう、表立っているのはローレライ家だ。しかし長く続くわけではない」
シャロンは表立った協力体制を申し出て先手を打った。
だが、それは短期的な先手であり、後手に回ったはずのエグラフは長期的な視野で後の先を打ったらしい。
「短期的とは?」
「いつまでも後方支援というわけではないだろうからね」
「ひとまずご意見箱だけに関して、それも一歩引いた状態での消極的な協力です」
都歩きだったり今後の活動だったりで、毎回どのような動きをするのか精査する事になる。
一方、ゼグノート家は既に身内が生徒会に入っているのだから、水面下だろうが水面上だろうが積極的に活動を手伝うと決め打ちしているのだ。
「少なくとも来年にはギリク殿が水面下から浮上して、表舞台で活躍する」
「その頃にはローレライ家も誰かを生徒会に入れるでしょうか?」
「次の生徒会長に近付く、という部分が邪魔をするだろう」
たとえばだが、リンが生徒会に入ったとして生徒会長の座に近付いてしまう。
そうすると主人であるシャロンを差し置いて、という見え方になってしまうそうだ。
「生徒会に入る事が生徒会長就任に必須ではないから、鑑みないでほしいのだが」
「現状では、そうも言っていられないです。王家の注目度も高いでしょうし」
「しかも新入生の旗頭だからね」
ローレライ家の旗頭を差し置いて勢力内の誰かが生徒会長に近付く、なんて不穏な話は避けたいものの、シャロンが新入生なので先は長い。
「旗頭が生徒会へ簡単に入れる状況じゃないからね」
「既にエグラフ殿は自身が生徒会長になる道を捨て、適任者に託している」
「シャロンさんは捨てきれていませんし、捨てても適任者が居るかどうか、ですね」
ややこしい話になってきたな。
とりあえずギッさんが未来の生徒会長候補なのは分かった。
俺達がそれを拒む必要はないし、むしろ助けていくべきことも。
ただ、シャロンはどうなるのか……
感じ取った雰囲気だとローレライ家は身動きし辛い状態みたいで、またもエグラフが一手打っただけで追い込まれているようだった。
……あれ?
「クリストフ先輩」
「どうしたんだい?」
「ギッさんに教えてよかったんですか?ローレライ家の現状とか」
対立関係の名門貴族だからな。
この場で話している事がシャロンの不利になるならば、俺としては良い気分ではない。
「その点については大丈夫だよ。エグラフ殿を理解してきたからね」
「?」
「エグラフ殿は全面的に協力してくれている。だが、それを目立たないようにしているんだよ」
全面的に協力?
「私達がどちらかの名門貴族と懇意にするのは得策ではない」
「そりゃまあ、そうですね」
「かといって両方と仲良くするのも波乱が大きい」
「……」
「だからエグラフ殿は身を引いた。協力しつつローレライ家に栄光を譲ったんだよ」
そんな大きい話なのか?
「とはいっても、ギリク殿にまで続けさせる気は無いだろう」
「ん~……つまり?」
「環境が安定するまでの仮想敵って事だよ」
この1年は生徒会とローレライ家が協力して学校を変えていく。
その活動に対して何かしら表立って協力はせずに、むしろ挑発してきたり勝手に評価したり文句言ってきたり……
いわゆる跳ね除けるべき障害であろうとしているのがエグラフだ。
「シャロン嬢への伝言も、後押ししたと取れる」
「そうなんですか?」
「憶測だがね。しかし、そう考えると辻褄が合いやすい」
そういうわけで、エグラフに関しては素直じゃない奴、って扱いで問題ないらしい。
ゼグノート家としての動きもエグラフが舵を取って、大きな波乱無く、良い感じの悪役っぷりを演出するだろうと。
「そしてギリク殿は来年以降で本来の姿を見せ付ける」
「本来……?」
「ゼグノート家だって、学校の理念に沿う素晴らしい勢力だとね」
ここでハイクが俺に聞いてきた。
「ルイスはそれで納得できる?」
「ん?」
「エグラフさんはね、自己犠牲で全部を納めようとしてるんだよ」
「そうなん?」
「そ。最悪の場合はゼグノート家が二つに割れる」
エグラフ派とギリク派で別れる可能性もあるらしい。
「まあ、今はそれが楽だから、乗らせてもらいたいけどね」
「ん~……」
クリストフ先輩といい、エグラフといい……どうして自分を大事にしないのか。
「気に入らないな」
「だな」
「どうします?」
「半年後までに環境を整えるってのはどう?」
「半年か……」
「そしたらギッさんも早めに表立って動けるし、エグラフさんも卒業まで悪役しなくて済むよ」
よし、それでいこう。
「じゃあさ、半年でやっちゃいますか」
「はは……君達ならそう言うと思ったよ」
クリストフ先輩が笑いながらソファに体を沈めた。
「こうまでされると歯痒いものだね。私も少し自覚したよ」
「そうだ、先輩のイメージも何とかしないとな」
「忙しい半年ですね」
「暇よりいいだろ」
クリストフ先輩がギッさんへ向いて言った。
「ギリク殿。エグラフ殿の意向は把握したかい?」
「あ……まあ、ある程度はな」
「それを良しとしないのが彼らだよ」
そう言って今度は俺達に顔を向けてくる。
「当然っすよ!」
「エグラフさんって実は優しいんだぜ?」
「そうそう。手作りの地図も渡してくれたもん」
「渡す相手は間違ったがな」
「ぅっ……」
ともあれ、長い間真面目な話をすると疲れるな。
ソファから立ち上がって伸びをしつつ、クリストフ先輩に改めて頼んでおく。
「先輩、これからも指示は頼みます」
「ああ、任せておくといい」
「俺は今からエグラフさんの所へ行ってきますんで」
「分かった。では、会議はここまでとしよう」
解散し、俺はエグラフの居る寮へと向かう。
付いてきたのはラグ、ハイク、ソマリ、マリ、ギッさんだ。
「大所帯だな」
「心配要らん。俺が居れば顔パスだ」
「なんか頼もしい」
「頼むぜギッさん!」
時間も遅くなってきたので、俺達は急いでエグラフのいる寮へと移動したのだった。
ーーーーー
「タチアナ、行かなくていいのかい?」
「……ここで私が動くわけないと思いません?」
「ふむ。まあ構わないがね」
「それより、結局白紙に戻りそうな気配じゃありません?」
「エグラフ殿は簡単に折れないよ。しっかり言い包めてくれるさ」
「それはお兄様の役割だと思いません?」
「その通りだが、少しはエグラフ殿にも自覚してもらいたいからね」
「?」
「彼が導こうとしている後輩達は、思うほど弱くないという事さ」
「束になっても細目さんには敵わないと思いません?」
「ふふ……そうだね」
「ただ、放っておいても何とかしそうな後輩だと思いません?」
「彼らの後輩までは続かないよ。だから私達も必要なんだ」
「……楽は出来そうにないと思いません?」
「それでいい。頼りにしているよ、タチアナ」
「…………はい」
次回・・・都歩き 出発準備
もうタイトルからして展開遅いのが滲み出てるような・・・
いや、気にしたら負けだ!そう考えます。




