2_01_前蹴り
前書きで何書くかを毎回考えていないので、
ここで数分止まってしまいます・・・
「ほいっと」
「ゴフッ!?」
あ、やべ……条件反射で蹴っちまった。
どうしよう……貴族だよな?
シャロン様をー、とか言ってたし名門勢力だよこれ。
銀色の髪は癖毛っぽい。
黙っていれば深窓の貴公子然とした風体なのに、今は床を転げ回っていて色々と台無しになっている。
「ルイス……なんで前蹴りしたんですか?」
「いや、ゴブリン相手で染み付いちまってさあ」
ゴブリンって取りあえず飛びかかってくるんだよな。
飛ぶだけだから隙だらけだし。
冒険者の間で、ゴブリンは先手必勝と言われているが、要は飛んだところに蹴りをぶち込めば勝てる相手だ。
それが出来なければ、着地して武器を振り回し始めるから危なっかしい。
「私を……ゴブリン扱い……するとは」
「げ、もう起きんのかよ」
「結構良いの入ったんですがね」
「なんで二人は冷静なの!? どうするの!?」
貴族っぽい奴が起き上がり、マリが慌てふためいている。
いや、俺も慌てたいけどさ……
「慌ててどうなる話じゃねえからな」
「ですね。素直に謝りましょう」
だな。
「ごめんよ、条件反射って怖いよな」
「……許すと思うか?」
おやおや、腰から何か出てきましたな。
「ソマリはどう思う?」
「抜剣されたのが答えでしょうね」
「貴族相手に手を出したのだ! 死んでも文句は言えまい!!」
文句ぐらいは言わせてくれ!
「出したのは足よ?」
「減らず口を叩くな!! 覚悟!」
「煽ってないで逃げますよ!」
全力逃走!
まさか生徒会寮で命を狙われるとは思わなかった!
……あ! まさか!!
「俺の条件反射を利用した謀略か!?」
「そこまで調べたなら他を利用しますよ」
ですよね!
「どうする!?」
「僕の部屋に立て篭りましょう」
てことでソマリの部屋に入って扉を閉める。
部屋の外で何やら騒いでいるが、これなら入ってこれまい。
「これからどうするの?」
「ひとまず場を収めるには、相手を冷静にさせる必要があります」
「さすがソマリ! で、どうする?」
「少しは考えてくださいよ」
「余裕がねえんだよ!」
今もヤツが部屋の扉を叩きまくっている。
扉はかなり頑丈らしいが、魔法まで使いそうな勢いだったし安心出来ない。
「……あの貴族が萎縮する存在を呼びましょう」
「シャロン?」
「もう帰ったじゃないですか」
そりゃそうだ。
「クリストフ先輩は?」
「どうでしょうね。こんな事で手を煩わせるのも気が引けます」
「じゃあ誰!?」
「ハイクですよ。どこに居るか分かりますか?」
そうか! シャロンに勝ったあいつなら!
えっと……ハイクならたしか……
「窓の外だ!」
「はい?」
「外の芝生で寝てるはず!」
窓を開けて身を乗り出すと……いた!
「ハイク!! 起きろ!」
「……ん?」
ハイクが目を覚ましてこっちを見る。
まだ寝ぼけてるな。
「やべえ奴が来た! 助けてくれ!」
「ふぁ……分かった」
補助魔法の"エアブルーラ"で直接窓から部屋に入り込んでくる。
「それで、やばい奴って?」
「部屋の外!」
聞こえるだろ!?
一心不乱にノックしてるじゃんか!!
「……不法侵入?」
「そんなところだ。抜剣してるから気を付けてくれ」
「想像以上にやばい奴だね」
笑いながらハイクが部屋の扉を開け、外へ呼びかけた。
「どちら様?」
「お、お前は!」
「ん?」
「シャロン様の仇っ!!」
「よっと」
「ゴフッ!?」
「「「あっ」」」
やっちまった……
・・
・・・
「……というわけで、どうしたら良いんでしょうか」
「こうなる前に相談してほしかったんだが」
「すいません、僕の判断ミスです」
ハイクまでもが前蹴りを喰らわしてしまい、悶絶した貴族をひとまず拘束。
ゴブリンの捕獲と同じ手順だったな。
このまま冒険者ギルドに突き出そうかなとも思ったが、一応は貴族みたいなので我慢した。
そのままクリストフ先輩の部屋まで連行したものの、さっきから貴族は座り込んで不気味なほどに黙っている。
どうしたんだよ。
さっきまで死ぬほど騒いでたのに。
「何も喋らんぞ……殺せ」
「大袈裟ね」
鉄砲玉かよ。
「まずは拘束を解きなさい」
「でも飛びかかってきますよ?」
ゴブリンの習性が身に染みてるらしいしな。
「しかたない……君、ローレライ家に関係ある立場だね?」
「……」
「事情は理解したが、シャロン嬢は既に帰ったよ」
「な……」
「僕もそう言ったんですけど」
「信じられるか!!」
「こんな調子で話になりません」
ソマリが疲れたように溜息を吐く。
どうしようもねえな……会話が成立しないなら来ちゃ駄目だろ。
「くっ、シャロン様……私はどうすればっ!」
「帰ればいいと思うよ」
「お家の場所分かる?」
「バカにするな!」
「じゃあ言ってみ?」
「ハーレンの街だ!! 家の場所ぐらい覚えている!!」
「寮の話だっつの」
「バカ正直過ぎますね」
「なんだかんだで喋ってるし」
「この人面白い」
「貴様らあぁぁ!!!」
「あまり刺激しないように」
ボルテージが上がり、また騒がしくなった。
だが座ったままの姿勢で跳躍出来ないらしく、苦心して起き上がろうとしている。
で、お話にならないのでシャロンを頼る事になった。
俺が向かう手筈となり、マリも付いてくるようだ。
「貴族らしくなかったな」
「そうね。もっと落ち着いてる人が多いから」
「にしても襲いかかってくるとは」
「恨まれてるのかな……」
恨む理由なんてあるか?
ハイクに対してシャロンの仇とか言ってたけど、そんな大怪我負わしてないしさ。
「大丈夫だろ、シャロンが大事すぎて判断能力落ちてるだけだ」
「そっか」
「で、大事にされてるシャロンはといえば……」
・・
・・・
「あのバカ……」
「こうなるんだ」
「よく知ってるね」
なんとなくな。
ともあれシャロンの住んでる寮はクリストフ先輩が知っていたので問題なく到着した。
会話が成立しない奴が現れたから引き取ってほしい、と伝えて入り口付近で待っていると即座に取り次がれたんだ。
で、部屋を利用した応接室らしい場所に案内されたわけだが……
柔らかそうなソファと煌びやかな照明、壁には俺じゃ判断出来そうにない絵画が掛けられていている。
床に敷かれているのも足が沈み込みそうな絨毯で、いったい何処の貴族だと……あ、貴族だわ。しかも名門。
そんなお高そうな部屋の中では相変わらず静かなメイドさんと、シャロンが頭痛を堪えるようにして立っていた。
「苦労してるんだな」
「ルイスは言える立場じゃないわ」
「そっすね」
俺は苦労をかける側だと自覚してるからな。
「まあ、ひとまず引き取ってくれるか?」
「勿論よ。リン、お願い」
「お一人にするのは……」
「大丈夫。この人達は、えっと……」
「……かしこまりました」
リンと呼ばれた、あのメイド服の少女は部屋を出る前に俺達へお茶を出してくれた。
「ごゆっくりお寛ぎください」
「ども」
「ありがとう」
リンが礼をして静かに退出していく。
その姿を名残惜しんで見送ると、シャロンが小さく頭を下げた。
「迷惑を掛けたわね。謝罪するわ」
「気にすんなって、な?」
「うん。斬られそうになっただけ」
「大事件よ」
俺もそう思う。
けど気にしてないし、話題を変えよう。
「あのリンって子も学生?」
「ええ。私専属の部下よ」
「おぉ……さすが貴族」
「あの服可愛いね」
「目立つから私服にしなさいと言っても聞かないのよ」
「それって部下としてどうなん?」
ともあれ、俺達は要件を伝えたら帰るつもりだったんだが……お茶を出されてしまったし、本当に寛いでいいのかな?
「挙動不審ね。どうしたのかしら」
「いやさ、居てもいいのかな〜って」
「チャールスにも謝らせるから、もう少し待って頂戴」
「チャールスって、あの人?」
「そうよ。リンが回収に向かったから」
「そっか」
「……」
「……」
話題が尽きた。
が、マリが出されたお茶を啜って目を輝かせている。
「このお茶美味しいね」
「だな、良い茶葉使ってるな」
「分かって言っているの?」
「いや、実はあんまり分からん」
話題に乗っただけです。
「そういうのは失礼になるわ」
「「すいません」」
乗らなきゃ良かった。
「マリは良いのよ。美味しいとだけ言ったのだから」
「初めて優遇された気がする!」
喜びすぎな気はするが、マリは有意義な時間を過ごしているようだ。
「……大人しいわね」
「ん?」
「授業ではあれだけ騒がしかったのに」
「ね〜」
「だってさあ」
この部屋落ち着かない。
キラキラしすぎだろ。
「私が限りある時間を割いているのに、話題の一つも出せないの?」
「引き止めといて何言ってんの?」
「……そうだったわね」
「あ、そう言えば」
「甘味は無いぞ」
「違うわよ!!」
ほんとに?
それ目的で付いてきたのかと思ってた。
「甘いものくらいあるわよ」
「あるの!?」
「リンが帰ったら出すから、少し待っていなさい」
「はーい!」
すっかり手懐けられてるな。
やっぱマリはどこ住んでも大丈夫そうだ。
ここは応接室だけど住んでみるか?
「そういえばシャロンって光系統なのね」
「ええ、試合で見たでしょう?」
「すげえ便利な魔具も持ってたよな」
「あれは本当は8輪なのよ」
「へ?」
「なんで使わなかったんだ?」
「今は同時に4輪が限界だから」
そういうもんなのか。
ちょっと興味出てきたな。
「どんな仕組みなんだ?」
「教えると思う?」
「「うん」」
「……」
自慢しちまえよ!
「……対象の認識以外を補完する魔具よ。ただ、1発毎に再度認識しないといけないから意識が割かれるわね」
「浮いてたのは?」
「一部の回路に系統変換を組み込んでいるの。風系統の補助魔法を並行して行使しているわ」
"エアブルーラ"かな?
あの魔法を魔具で使えたら、俺でも一人で飛べるんだろうか。
「知っているの?」
「よく飛んでたからな」
「そう……系統の変わった魔力は私も制御出来ないから、込めるだけで後は自動で浮いてくれるのよ」
「思ったのと違う場所に浮いたりしねえの?」
「そこは練習次第ね。魔具名が浮遊のキーワードになるから」
「投げてから丁度良い位置で呼ぶのか」
「そうよ」
案外難しそうだな。
「魔力が無くなったら落ちるの?」
「込めた魔力残量が一定量を割ったら自動で転送されるわ」
「どこに?」
「ホルダーがあるから、そこに設定してあるの」
「なるほどね」
てことは3系統の魔法が回路に組み込んであるのか。
「それであのサイズって……」
「かなり貴重な魔具なのね」
「ええ。精密に作られているから、少しの傷で故障するわ」
「危ねえな!」
ちょっと傷入ったら暴走するんじゃねえの!?
「故障した時点で機能を失うから、暴走も反動も無いわ」
「あ、そうなん?」
「そこは安心できる設計でないと、使ったりしないから」
「そりゃそうか」
てことで、情報は仕入れた!
「次も勝てる!」
「騙したわね!?」
「冗談だって」
「……新しい魔具を用意しないと」
「ごめんって! ほんと冗談だから!!」
「「ルイスのバカ!」」
「なんでマリまで混ざってんの!?」
少し解れた空気のまま、俺達は談笑? を続けたのだった。
・・
・・・
「ただいま戻りました」
「シャロン様! よくぞご無事で!!」
「元より危険な目に遭っていないわ」
「それは何よりです!」
うわぁ……
「お嬢様、お客人がお見えになっています」
「客人? ルイス達ではなくて?」
「ハイク様です」
「なんだと!? リン! どういう事だ!!」
こいつは……
「チャールスをもっと観察したいと仰せです」
「どうして連れてきたんだ!!」
「私の一存では決めかねますので」
「追い返せ!!」
「お断りします」
「なんだと!?」
「チャールスに命令する権限はございません」
「くそおぉっ!!」
こいつ本当にうるせえな。
そんな叫ぶと頭の血管切れるぞ?
「リンさんに呼び捨てされてるね」
「リンとお呼びくださいマリ様。ルイス様もです」
「あ、じゃあ俺もルイスって呼んで」
「私もマリって呼んでほしいな」
「それは……」
「リンに気安く話しかけるなあぁ!!」
「謹んでお受けいたします。ルイス、マリ」
「リン!? なぜだ!!」
すごいショックそうにしている。
なぜって、チャールスを弄りたいからだと思う。
「こちらにハイクを案内して」
「かしこまりました」
「シャロン様!?」
「黙りなさい」
「……」
おぉ! 黙った!
すげえ、感動した。
「ハイクにも斬り掛かったそうね」
「それは……」
「ルイスとハイクへ謝罪させるわ」
「ぐぅ……」
・・
・・・
「お連れしました」
「ども」
「おっすハイク」
「おー、さっきぶり」
本当にハイクが尋ねて来たようだ。
マジで? チャールス見に来たの?
「この反乱因子どもが!」
「なあシャロン」
「気安くシャロン様の名を呼ぶな!!」
「いっつもこんな調子?」
「ええ、毎日こんな調子よ」
「面白いよね」
そうか?
1日で嫌になりそうなんだが。
「シャロン様! こやつらと関わっては危険です!!」
「いやいや、今んとこチャールスが一番危険だから」
「黙れ! 勝手に名前を呼ぶな!!」
「あなたが黙りなさい」
「……」
ばっちり教育されてるな。
だったら野放しにもしないでほしい。
「ハイクは何のご用かしら?」
「この人を見に来た」
「……本気?」
「本気」
「そう……連れて帰っていいわ」
「シャロン様!?」
「おい! やめてくれ!!」
ハイクが乗ったらどうすんだよ!!
俺やだよ!? こんなゴブリン貴族!
「いや、近くに置くのはちょっとね」
「貴様ぁ!!」
よかった。
さすがのハイクも遠慮? したようだ。
「冗談よ。こんなでも私の部下だもの」
「っ! シャロン様……」
今度は泣き始めた。
情緒不安定な奴だな。
「さて、早速だけど謝罪させるわ」
「いや、いいよ」
「俺も」
「? ……そのために引き止めたのよ?」
「シャロンを想っての行動だからな」
「俺は貸し一つ、って事で」
「許してやれよ!」
ともあれ、いったんチャールスは退出させられ、俺達は引き続き応接室に引き止められた。
もう俺達の用は済んだんだけどな……まだ何かあるのだろうか。
「それで? 何のご用?」
「へ?」
「ルイスとマリはともかく、ハイクは別に要件があるはずよ」
そうなん?
「まあね。生徒会長から伝言を預かってきた」
「……何かしら?」
「ご意見箱の設置に関する提案について、再考してほしい」
キャラも徐々に増えてきたなぁ・・・
しっかり個性を出せるように努力いたします。




