4_12_夢想の都 出会いの力
こんにちは。
なんとか投稿できました……
「昨日の試合に勝った後で、ルドルフが私へ告げてきたわ」
今晩に予定を空けておいてほしい、と言ったそうだ。
シャロンは警戒しつつも断る理由を用意しきれず、また何の狙いで訪ねてくるかを知りたい意味もあって了承した。
そうして夜になり屋敷へ戻ってきたルドルフは、自身の私室にシャロンを連れて行ったらしい。
ルドルフ以外は入れず、閉ざされていた私室である。シャロンだって調査しようと考えていたものの、厳重に封鎖されていたのもあって近づけなかったそうだ。
そんな部屋に招き入れられ、目に飛び込んできたのは様々な物品である。
けど初めて見る物ばかりではなく、数点には見覚えがあった。
「部下の私物だったの」
「部下って、手勢って意味か?」
「ええ、顔も割れていないはずだったのに……他には6つの騎士甲冑も置かれていたわ」
「……趣味の悪い奴だな」
ラグが気分悪そうに言葉を吐き捨てた。
俺も察してしまい、同じように気分が悪くなってくる。
6つの騎士甲冑は殺された騎士隊長達を意味しているんだろう。
つまり、亡くなった者を示唆する部屋だ。そこに手勢の私物が置かれていたという事は、消されてしまったという事を意味する。
もしかしたらエグラフさんの手勢の私物も置かれてたんだろうか。そうなるとルドルフが様々な人を殺して回っているという話だからな。
直接に手を汚してないかもしれないが、たとえ手勢に指示しただけとしても同罪だろう。
「それで、シャロンさんの手勢は本当に消されたんですか?」
「以降から連絡が取れないの。消されていると取るべきね」
グランバスに半分ほどを残してきているが、別経路でドリポートへ連れてきていた手勢は全てが消されたらしい。人数としては4人だ。
「手足を削がれましたね」
「で、リンも殺すって脅されたのか?」
「……明朝に長らく求めていた最後の品が届く……そう言われたの」
それがリンって意味か。
明朝という事は、まだ殺されていない。
その前に回収して別の場所へ隠そうと考えたシャロンが、所定の宿へ向かってきたんだな。
もちろん、メイアとリンが同一人物であるとルドルフが知っているかは分からないし、リンの居場所を特定されているかも分からない。
だが、どっちにしろ潜伏場所を変える必要があると判断した……いや、させられたんだ。
「居場所を知ってんならよ、先に殺すか捕まえるかするだろ」
「ですね。わざわざ行動前にシャロンさんへ教える必要がありません」
「っ……そうだとしても、無事かどうかを確かめたかったのよ」
まあ、心配になるよな。
ただ、夜の間に動いたからこそ警戒網に引っかかってしまった。それこそがルドルフの狙いだったんだ。
「名門六家の騎士までが動いて警戒を強めている時間帯ですからね」
「不審な馬車を見付けて追跡した……そんな記録が残ってるはずだ」
警備担当者の報告内容から居場所を特定しようとしたんだな。
所定の宿は第二防壁内だから、防壁を通過する必要がある。
行きはシャロンが乗っていたから、身分証明して強引気味ではあるが通過。この時点で第二防壁内にメイアが隠れていたとは確実にバレる。入退場の記録などが残るからな。
でもって帰りはチャールスが乗っていたけど、今頃は捕まっているだろう。
別に何も悪い事はしてないけどさ、不審な馬車が所定の宿近くで停車、しかも宿の中へ誰かが入っていったという捜査記録は残る。
名門六家の騎士で協力していたのだから、ローレライ家の騎士も情報を共有してもらっている。そこから引き出せばリンが潜伏していた場所を特定可能だ。
「でもさ、別の場所に潜伏したら良いんじゃねえの?」
「それ以前の話ですよ。マズい情報を与えてしまいました」
「へ?」
「所定の宿に潜伏していた。つまり生徒の中にメイアが居ると知られたんですよ」
……マジか。
「居場所というよりは、こういった情報が目的だったんでしょう」
「何も知られてなかったのによ、ブラフで泳がされて情報を渡しちまったな」
「っ……!」
悔しそうだな。拳を握りしめて唇を噛んでいる。
所定の宿には生徒だけでなく職員や従業員も居たりするが、年齢的には生徒しか該当しないからな。かなり限定された情報を握られてしまったんだろう。
それこそグランバス魔法学校の女子生徒で、年齢は今年で15。調べ上げられたら該当するのはリンしか居ない。
「まだ希望はありますよ」
「へ?」
「偽情報だと疑われる可能性です」
シャロンがルドルフの作戦を見切って、わざと所定の宿へ向かったと疑われる可能性もあるらしい。
全く関係ない場所へ向かい、無関係の者をメイアであると錯覚させているのではないか、と。
「まあ、無関係の者が被害を受けますけどね」
「とりあえずで捕まえられるか命を狙われるか……生け贄として差し出された奴は災難だな」
「シャロンがそんな酷い事するわけないでしょ!」
マリは怒っているが、要はルドルフが今回の情報をどう捉えるかだ。
偽情報と睨むのか、本命の情報であると判断するのか……
「しているわ」
「へ?」
シャロンがマリに顔を向けて、静かな声で告げた。
「もう巻き込んでしまっているのよ。こうして私と一緒に行動している時点で」
「どういう意味だ?」
「年齢も偽装しかねない。そう考えるでしょうね」
「女子生徒全員にメイアである可能性あり、と見られるな」
マリも含まれる……下手したらイリーナも含まれるな。生徒じゃないけどさ、学校関係者なんだから。
「ただ、シャロンさんと一緒に行動しなければ問題ないでしょう」
「実際にリンだけが所在不明ってなればな、それが一番怪しいからよ」
だから距離を置こうとしたのか。
信じてなかったと言葉を残して、危険だから関わるなと警告して。
……よし。
「もう手遅れじゃねえの?」
「っ……そんなこと」
「なくねえよ? どう見ても詰みじゃんか」
叫ぶことは出来る。頼ってこいと言うのは簡単だ。
けど果たして、そんな言葉で頼ってくるだろうか。
シャロンなら頼らないだろう。俺達を心配してるからだな。
かといって、はいそうですかと引き下がるのは無理だ。絶対に助ける。
だけど、シャロンが頼るって決めないと、きっと途中で俺達を置いていくだろう。
だから……俺はシャロンを追い詰めると決断した。
ソマリとラグも意図を察したのか乗ってくれる。
「手勢も消されて、戦力はチャールスのみですね」
「しかもよ、リンが助かる気でいるのかも分からん」
「どうなん? リンがルドルフの元に向かえば全部終わりだけどさ」
「行かせないわ!!」
シャロンが怒鳴ってくるけどさ、そうじゃねえよ。
聞いてるのはリンに対してだ。
「おいリン、さっきから黙り込んでばっかだけどさ、どうなんだ?」
「……お嬢様のご意向が最優先です」
「よく言うぜ。一回は自滅しようと企んだじゃねえか」
「ですね。隙を見てルドルフの元へ行く気じゃないですか?」
無意識なのかは分からないけど、シャロンがリンの手を握った。
どこにも行かせないとばかりに強く握りしめ、絶対に放さないという意思を示す。
これがシャロンの弱みだ。
俺達を信じていなかったかもしれないが、リンだって信じていないんだろう。
目を離したら自滅する……そう疑っているんだ。
「かといって、ずっとシャロンさんが近くに居られますかね」
「今日も試合があるからな。もしかして棄権するつもりか?」
「……仕方がないでしょう」
「ダメだろ。シャロンが対抗試合を棄権するほどの何かがある、って知れ渡るんだぞ?」
「っ……」
今はまだ水面下の状況だ。
ルドルフには色々と知られてしまっただろうけど、他の名門貴族達は関与していない。
しかしシャロンが動けば動くほど、不審に思われる。
これから何をするつもりか分からないけど、シャロンがリンを隠しながら行動するなんて無茶だ。
「チャールスに任せようにもさ、リンを止められるか?」
「仮にリンが自滅しないとしてもよ、チャールスだけで守れるわけねえだろ」
「自滅の懸念があるならリンさんを単独で逃がすわけにもいきませんし」
「てかチャールスは間違いなくルドルフに目をつけられただろ」
「ですね。以降は追跡されてるでしょうから、合流すら危険です」
「……」
シャロンが言葉を返さなくなってきた。
いつもの勝ち気な雰囲気など消え失せていて、瞳は不安定に揺れている。
……もう一押しだな。
「この状況下でさ、どうしていいのかも分かってないんじゃねえのか?」
「……そんなこと……ないわ」
「じゃあ言ってみろよ。シャロンとチャールスだけで何とかする方法を」
「……」
必死に考えてるようだ。
今が不安定な状態だからか、顔に出やすくなっている。
「まだ答えてもらってないけどさ、俺達を信じられないのか?」
これが一番に重要な質問だ。
信じられないならば、俺達が助けようとしても不安を煽るだけになるからな。
「……」
「どうなんだ?」
しばらく沈黙していたが、小さい声だけど、はっきりと答えた。
「……信じたいわよ」
よし!
「だったら」
「現実を見なさい!!」
おおぅ……怒鳴られた。
シャロンが大声を上げながら現実とやらを教えてくる。
「追い詰められた事くらい分かっているわよ!! だから……もう誰も巻き込まないように逃げるしかないの!! 」
「他にも手はあるだろうが!! 俺達が協力すればいいだろ!!」
「あなた達に何が出来るというのよ!! 一般人らしからぬ実力を持っていても、私の手勢だって消されて」
「何でも出来る!!!」
床に拳を叩き付け、シャロンの言い分を断ち切った。
「そんなのは現実なんかじゃない!! シャロンが俺達との出会いを上手く使えてないだけだろ!」
「何の話よ!」
「一人じゃ無理だった結果を覆す! それが出会いの力ってやつだ!!」
ドルアーザさんから教わったんだ。
仲間だろうが友人だろうが、必ず出会いが最初にある。
それを良いものに出来れば、何かしら自分の力になるし選択の幅が広がる、って。
「なのにシャロンは俺達を疑ってただけで、今度は関わらせないように避けるだけだ!」
そんなのがさ、良い出会いって言えるのか?
むしろ悪縁ってやつじゃねえかよ!
俺達を疑ってる間は手勢に見張らせてたんだろ!? その分だけ手間になるだろが!
しかも密告されるかどうかで不安な毎日を過ごして……神経を擦り減らせるだけだ。
「疑ってたのは仕方ねえよ! けどさ、もう信じたいんだろ!?」
「……めて」
「だったら俺達を信じて頼ってこい! リンを誰にも渡さないから!!」
「やめて!!」
シャロンが耳を塞ぎ、拒絶を示してきた。
その行動に俺は腹が立ってくる。
「逃げるな!! お前が見るべき現実を見ろ!!」
俺は立ち上がり、シャロンの手を耳から引き剥がした。
涙を滲ませながら見つめてきて、唇は少し震えている……ちょっと可哀想になるけど怯んでる場合じゃない。
「ここに皆が揃ってる!! お前を助けたくて集まったんだ!」
ハイクとケートス先輩だって助けたいと思って動いてくれた。
追っ手を連れてこないように攪乱してくれたしさ。
「これがシャロンの力だろ! 俺達を使え!!」
「どうして危険に飛び込もうとするのよ!!」
「リンが危険な目に遭ってるからだろうが!!」
俺はシャロンの手を掴んだまま、リンに目を向けて怒鳴りつけた。
「お前が一番に現実を見てねえ!!」
「……」
「妹が一緒に居たいと願ってんのに、目を逸らすな!」
「私は……不幸を招きます」
「なにが不幸だっつの!! 引き離されるのが不幸だろうがよ!!」
姉妹揃って肝心な事が抜けてやがる。
こうして逃げ続けてる原因でもあるじゃねえか。
「後ろめたく思わずにさ、胸を張って不文律を破れ!! 不安なら仲間を頼れ!」
そのために俺達が居るだろ!
「俺達はシャロンとリンが一緒に過ごす事を肯定する!! それを邪魔する不文律なんか否定してやる!」
「「っ……」」
怒鳴り過ぎて乱れた呼吸を整える間、シャロンとリンはずっと俺を見ていた。
品定めしているのかも分からない。俺の言葉に偽りが無いのかどうか判断しているのかもしれない。
けど、その時マリが動いた。
シャロンを後ろから抱きしめ、優しく包み込むような声を出す。
「一人で抱え込まないで」
「……」
「危険でも、信じてもらえなくても……助けたいの」
抱きしめられた手に触れ、シャロンは俯いてしまった。
「……っ……っぅ……」
僅かに漏れてくる声は、今までずっと抑えてきた不安を詰め込んだかのようで……
「……助けて」
やっと、シャロンは俺達を頼った。
・・
・・・
シャロンとリンを助ける事が確定し、俺達は詳しい説明を受けながら今後の動きを決めようとしていた。
けど、その前にシャロンを泣き止ませないと話が進まない。
「ぅぅ……っ……」
ずっと泣いている。
マリのみならずイリーナも加わって慰めているのだが、こんな調子が10分以上も続いていた。
「やりすぎですよルイス」
「俺が悪いのか!?」
トドメはマリじゃね!?
「女の子を泣かせるなんて、ぽんこつの極みね」
「そんな目を向けないで!?」
もうゴミでも見るかのような目をイリーナが向けてくる。
だが一応は冗談だったようで、すぐに微笑みながらシャロンに語りかけた。
「ほら、もう大丈夫よ」
「……っぅ……」
「辛かったのね。これからは皆が一緒だから安心して」
「~~~~!!」
余計に泣いちまった……どうすんだし。
・・
・・・
それから30分ほど経過して、やっとシャロンが泣き止んだ。
泣き腫らした目で俺を睨んでくる。
「ルイスの所為で時間を無駄にしたけれど、今から状況の確認と行動の決定に移るわよ」
「おい」
「黙りなさい」
「……」
泣いてもいいだろうか。
けど誰も慰めてくれなさそうだな……うん、諦めよう。これが現実だ。
「私達の目標はリンを守り通すこと。ルドルフは元より、誰にも渡さないわ」
「今のところは狙ってきそうな者がルドルフのみですけどね」
「てか他に狙ってくる奴は居ねえだろ?」
「情報も含まれるわ。リンの素性を知られないように、嗅ぎ回られないようにするの」
つまりシャロンが動き回れないという事だな。
旗頭が対抗試合に臨まず何かしている、ってのは不審すぎるからだ。
てことでリンを預かって守るのは他の者が担当する。
「で、チャールスは?」
「どこに居るのかも分かんねえよな」
「集合場所は決めてなかったのよ。追跡されるかもしれないから」
「てことはチャールスとの合流も課題ですね」
世話の焼けるゴブリンだな。
俺の腹を手加減無しに殴ってきた恨みもあるし、もし合流できたら前蹴りでも喰らわせとこ。
「理想としてはルドルフの動きを封じながら、こちらが目立った動きをしない事よ」
「となればシャロンは動かない方が良いというか、何もしていないアピールが役割だな」
「そうね。どう動いていくかの指示を逐一出すのは、相手の網に引っかかる可能性が高くなるわ」
「今の内に全部決めておく方が良いのか」
「なんにせよ私は対抗試合に出る。その後は屋敷に戻って何事も無かったかのように過ごすわ」
「僕達はリンさんを見張りながら隠さないといけませんね」
「他の生徒まで巻き込むわけにもいかねえしな」
そこが重要であり、困難でもある。
ルドルフが情報を握ってしまったが、それはシャロンがメイアを連れ回していたって事と、生徒の中にメイアが居るって情報だ。
つまり誰がメイアなのかは知られていない。となればルドルフが探ってくるだろう。
まずは生徒全員の情報を洗い始めるはずだ。これには2日ほどを要するとシャロンが判断した。
しかし、肝心なのは他の生徒を巻き込まない事だ。
調査は確実にされるだろうけど、手を出させないようにする。
「だから私はルドルフに告げる。メイアがリンであると」
「……まあ、しゃあねえか」
「狙う人物を確定させた上で逃げ切るって事だな」
ルドルフだって誰がメイアなのか分からない内に生徒を連れ去ったり殺したりしないだろう。
けど安心は出来ないし、どっちにしろリンは隠れさせないとダメだからな。
いっその事バラして狙いを絞らせる。その上で逃げ切るんだ。
「で、誰がリンと一緒に逃げるんだ?」
「イリーナとマリ、そしてモーティに任せるわ」
「なんで?」
「他の面子は職員に警戒されてますからね」
「あ~……」
特に俺は何か厄介事を起こさないかと心配されてるだろうからな。
てなわけで地元組が同行すると余計な警戒を誘う事になる。まだ信用というか安心されているメンバーが同行するしかないな。
「そしてルドルフの動きも封じたいわね」
「完全にとはいかなくても、制限させたいです」
ルドルフの動きを封じる……か。どうすりゃ良いんだろうな。
考えていると、モーティが手を挙げて発言し始めた。
「騎士はリンさんを追っているわけじゃないんだろう?」
「おう」
「それならルドルフの手勢を追わせれば良いんじゃないかな」
「へ?」
「ルドルフが他家の不利になるような情報、もしくは人物を探っていると勘違いさせれば良い」
そうすれば他家の動きはルドルフに何も探らせない事となる。警戒させる相手を多く作る事で、ルドルフは動き辛くなるし俺達へ注意を向ける余裕も割きづらくなる。
さらにルドルフの動きを封じるほどリンは逃げやすいし、良い事ずくめだな。
「すげえなモーティ! それでいこうぜ!」
「あ、いや……これで大丈夫なのか?」
モーティは自分で出した案なのに自信なさげである。
だが、そこはシャロンが頷いて案を肯定した。
「悪くないわ。時間もない事だし、それを基本方針としましょう」
「は、はい!」
「あとはリンが何処に隠れるかだけど、良い場所あるか?」
「主要エリア内で逃げ回るしか無いわね。他のエリアは色々と手間になるもの」
てか防壁の通過記録などから潜んでいるのが何処のエリアで、どの防壁内かを知られてしまうな。
「グランバスへ帰る日が近付いたら、速やかに合流出来るよう第二防壁内へ潜みましょう」
「最後の最後で見付かる可能性もあるんじゃないか?」
「ルドルフも最後に船舶エリアへ姿を現すだろうと予測するでしょうね」
「それなら陸路でドリポートから出るのも一つの手よ」
「近くの港町で待機しておいて、帰路で拾ってもらうのか」
などと色々話し込み、おおよその動き方を決めていくのであった。
次回・・・夢想の都 逃亡作戦 開始




