今まで
私は支給された自分の部屋に向かった。ワンルームだが狭くはなく、トイレや風呂も付いてかなり豪華な方だなと感じた。一体どこからこのお金が出ているのだろう……?
そんな事を考えながらそうこうしているうちに、すぐに荷物の整理が終わった。元々持ってきた荷物が少なかったため、部屋はどこか寂しさを残している。そして小さいながらもしっかり備え付けられているクローゼットに最初から掛けられていた白衣を取り出す。
研究者や科学者の象徴とも言えるだろうこの白衣だが、実際の所衣服としてはそこまで優秀ではない。夏は暑く、冬は寒い。
それでもこの服を着る時が、私は1番好きだった。
幼い頃、私は私が生きている事が不思議でたまらなかった。幸運な事に私自身大きな病や怪我をする事なく成長してきたが、人並みに他人の死というものを見てきた。棺桶の中のそれは見た目は生きている人間と変わらないのに、何が生と死を分けているのだろう、と幼ながらに思っていた。
その気持ちがきっかけで、私は人間のみならず様々な生物の"生の仕組み"に興味を持つようになった。学業もそれなりにできたからか医師を勧められた事もあったが、私はあくまでその仕組みに興味を持ったため、直接的にそれを操作しようとする医師等にさほど興味が湧く事はなかった。そして私の学習欲は生物学へと向けられていった。
元々人より協調性に乏しく、集中すると視野がかなり狭くなりがちな事は自分でも薄々気付いていたし、そうなると後先考えずに行動してしまう癖もあった。そんな私が医師などに適している訳がなく、それと同時に研究職というものに惹かれていった。研究によって結果的に社会に貢献出来るのであれば言う事はなかった。
しかし現実では大学院にまで進んだもののなんとなく惰性で日々を過ごしている気がしてならなかった。研究内容は無難なもので、敷かれたレーンの上を歩きながらレーンの外にある私の本当に欲しいものに手が届かないような、そんな感覚。そこに舞い込んできた話が、諏訪瀬のそれだった。
体にジャストフィットした白衣の胸には「研究グループLIxE研究員 久瀬 響」と書かれたプレートが付けられている。
私はここが人生の転機になる事を祈っていた。




